またいつかの空で

@jakuhaimono

第1日目 待ち人?来たる

只貴ただたかは大きく溜息をついた。


「はあ、これ以上はさすがにないよな。」


分かりやすく大きな時計台の下で、彼は1人うなだれていた。


待ち合わせの時間はとうに過ぎている。

待った、待ってないよのやりとりが交わされる度に切なくなってしまう。

何度か連絡をしてみるも、相手から返ってくる様子はない。つまりはそういうことなのだろう。


「まあいいや。俺にしては待った方だろう。」


どうも彼は非常に聞き分けのいい、もとい諦め癖がついている。

いつの間にか彼は自分の人生にさえ、意味を見出せずにいた。


現状を打破さえできれば、きっかけは何でも良かった。

その1つが彼女を作ることだったのだが、見事に現実ってやつの洗礼を受けたのだ。


「丸1日の予定が無くなったわけだが、さてどうすっかな。」


時間もあることだし、帰りながらゆっくり考えよう。そう思った矢先のこと。


「そこのお兄さん、誰かお待ちですか。」


可愛らしい声に出鼻をくじかれた。


既に、休みを謳歌する気持ちにシフトしていた彼にとっては、迷惑極まりなかった。

そんなことが言えるわけもなく、作り笑顔を声の主へと向ける。

その直後、彼は固まった。


声の主は待ち人ではなく、正確には人でさえなかった。



目の前には“天使”がいた。


「え…。」



姿形は華奢な可愛い女の子である。

しかし、纏っているオーラというのだろうか、視界に入れた瞬間に本物の天使であることを悟ってしまった。

それほどに彼女の存在は輝いていて、説得力があった。


「もしもし、私の姿は見えてますか?声は聞こえてますか?」

そう尋ねる彼女はどこか不安そうであった。


ハッと我に返る。

どうやら、誰にでも見えてるわけじゃないらしい。


「あ、ああ、大丈夫。ちゃんと見えてるし聞こえてる。」


そう答えると、彼女は安堵したようで表情が明るくなった。


「ええっと…なにしろ初めての出会いなもんでな。確認させてほしいんだが、君は、天使…なのか。」

「あ、ああ、そうですよね。びっくりしますよね…。そうです、本物の天使です。」


自分で本物と言ってしまうあたりが残念な気がするが、あえて触れないことにした。


しかし、未知との遭遇を果たしたというのに、只貴はなぜかすんなりと受け入れられた。



「でも本当に良かった…。やっと見つけました。1週間私の案内をしてくれる人を。」

「は?」


別の意味で彼は固まってしまった。


「いやいや、今何て?」

「ですから、1週間私の案内をお願いします。」

「何で?」

「質問の多い人ですね。私は下界に来て右も左も分からないのです。ですから、色々案内して下さい。」


話にならない。天使ならば、心も美しくあってほしいと彼は切に願う。


「へえ、大変そうだな。じゃあ、頑張ってな。」

「ああ、ごめんなさいごめんなさい。見捨てないで下さい。後生です、どうか優しくして下さい。」

「…何とも天使らしくないやつだな。天使なら人に頼ってないで自分でどうにかしてみろよ。」


そう言い放つと、彼女は俯き、申し訳なさそうに呟いた。


「実は…私、天使は天使でも、まだ見習いなんです。」


初めこそその存在に圧倒されてしまったが、幼稚さといい妙な親近感といい、納得してしまった。


「なるほどなあ、どうりで。」

「な、何がどうりなんですか。とても失礼です。」


話せば話すほどに、天使らしさがなくなっていく。


「それで?見習い天使さんがどうしてここに?」

「よくぞ聞いてくれました。私が下界に降りたったのは、一人前の天使になるためです。」

「ほうほう。」


「しかしながら、そのためには下界で条件を果たさなければなりません。」

「何だよその条件って。」

「それは…達成するまで言えません。ただ言えるのは、決して1人では果たすことができないということです。だからお兄さんにそのお手伝いをしてほしいんです。」


「って言ってもな、何も分かんないんじゃあ手伝いのしようがねえぞ。」

「それは本当にごめんなさい…。私に与えられた時間は1週間しかないんです。どうか、どうかお願いします。」


何で俺なんだという気持ちもあった。訳を言ってくれれば、簡単に済むこともあると思うが、それが出来ない理由があるのだろう。真剣に頼み込む彼女を見て、彼はどこか放っておけない気持ちになった。


「はあ、ったく面倒くせえな。その代わり、きっちり1週間だからな。それ以上は俺は知らん。」

「あ、ありがとうございます。」


悪態をついたが、心の内で彼は少し期待していた。彼女と会ったことが、今を変えるきっかけとならんことを。

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