第三章 開幕! ビブリオバトル!!

第12話 ビブリオバトルってなんだ?

 鶴松先輩は久方がビブリオバトルに興味を示してくれたことが嬉しかったんだろう、にっと口元をほころばせた。


「ビブリオバトルってのは、簡単に言えば書評合戦だ。自分がいいと思った本を相手に紹介して、より面白そう、読んでみたいって思わせた方が勝ち。ざっくり説明するとこんな感じだ」


「なるほど……オタク同士の覇権アニメ争いみたいなもんですか。かくいう俺も覇権アニメ議論に関しては一声ありますからね。……ふっふっふ」


 言ってることは大体合ってるんだけど、その例えはどうなんだろうか。


「ま、ビブリオバトルに関しちゃ、正直俺より高野の方が詳しいからな。高野、二人に説明頼んだぞ」


「う……わかりましたよ…………」


 てなわけで説明役を押しつけられる格好になってしまった。



 ――ビブリオバトルとは! 好きな本を持ち寄って紹介し合い、参加者の投票によって最も読みたい本「チャンプ本」を決めるバトルゲームである。


 ルールは単純。例えば四人のプレイヤーがいたとする。


 参加者となる四人はそれぞれ自分の「推し本」を用意する。できれば実物があった方が良いけど、なくてもなんとかなる。

 参加者は用意した本について他のメンバーに対して、どういう点に好感を持ったのか、自分がこの本をおすすめする理由などをアピールする。


 ここで一つ注意点。


 まず、アピールの際、発表する人は原稿やメモを用意してはいけない。発表は即興で、自分の言葉でする必要があるのだ。これは、原稿を用意してしまうと、発表者の言葉がその場で生まれた物ではなくなってしまうから、とかそんな理由だった気がする。


 それともう一つ大事なのは、発表時間は五分を厳守するということだ。五分より長くても、短くてもいけない。だからバトルの際にはアラームなどを用意しておいて、五分きっかりに発表が終わるようにしておくんだ。


 主な注意点はこれくらいかな。


 五分のアピールが終わった後は、発表内容に対してのディスカッションタイムが二、三分設けられている。この時間を使って、発表者に対する質疑応答などが行われる。

 これを順繰りに行って、参加者全員の発表が終わったところで、参加者は他の参加者たちの発表を聞いた上で、自分が最も読みたいと思った本に投票する。

「アピールが上手かった人」ではなく、「自分が読んでみたいと思った本」に投票するのがミソだ。だから質疑応答の時間も、発表内容についてのツッコミや、本の悪口を言ってはいけない。

 ビブリオバトルはルール上、最終的に勝者を決めることになるけど、あくまでも、本を通じてお互いを理解することが目的のゲームなんだ。


 なお、紳士的な慣習として、自分の本には投票しない。皆が自分の本に投票してしまってはバトルは必ず引き分け。これではゲームが面白くないからね。



「――と、大雑把に説明するとこんな感じかな」


「へぇ~。実は私、詳しいルール知ったの初めてかも」


「えぇ……一応、文芸部の活動じゃないんですか?」


 部長であるからには当然、ビブリオバトルのルールくらい知っていると思っていたが……さすが白石先輩である。


「てめぇ! 俺が前にも説明してやっただろうが!」


「あんたの説明下手くそだから、まじめに聞く気しないの!」


「お前、それでも部長か? ったくこれだから……」


 ぶつぶつ一人で文句を言い始めた鶴松先輩は放っておいて、僕は鳴瀬さんと久方にルールの確認をする。


 鳴瀬さんも久方もまったくの初心者で、ビブリオバトルという単語すらほとんど初めて聞いたくらいなので、僕の説明でわかってもらえたのか不安だったが、どうやら鳴瀬さんの方は一応ゲームのルールは理解してもらえたみたいだ。


「発表が上手い人が勝つってわけじゃないのね」


「そう。発表の技術じゃなくて、あくまで皆が読みたいと思った本だからね」


「ふーん……ゲームのルールは大体わかったけど、どうして高野くんはそんなに詳しいの? なんというか、まるで……」


「前に本で読んだだけだよ。まぁ僕のことはいいじゃない。鳴瀬さんは理解してくれたみたいだけど、久方は大丈夫?」


「ああ。俺もルールは把握した。だがなぁ……ツッコミを入れられないってのはどうも難しそうだな。俺はアニメ見ながら、ぶつぶつツッコミ入れる癖あるからさ」


 なるほど。こいつと一緒に映画見に行きたくないな。


 少し不安な顔を見せる久方を鶴松先輩がフォローする。


「やってる間に慣れるさ。それより、せっかく人数が集まっているんだ。今からやってみようぜビブリオバトル! 実際にやってみる方が良いだろ」


 先輩の言う通り、ビブリオバトルは話を聞いているよりも、自分で実際に体験してもらうのが雰囲気とかを理解してもらうのには良いし、ゲームの面白みもわかってもらえると思う。


 ただ……毎度のことながら、鶴松先輩の提案は唐突すぎるのだ。


「鶴松先輩、いくらなんでも急すぎますって。それなりに準備が必要ですし……」


 だが、鶴松先輩は僕がそんなことを言い出すとを見越していたらしい。ふふんとにやけてつぶやく。


「準備なら問題ない。時間を計るタイマーも、ベルもこの部室に置いてあるし、図書室もまだ開いてるからな。今から皆で図書室に行って、ビブリオバトルで使う本を借りてくれば良いだけの話だ」


 なんと用意周到なことか。鶴松先輩の嬉しそうな笑顔を見るに、よっぽどビブリオバトルしたかったんだろうなぁ。ある程度人数が必要なのに、文芸部は今まで二人だけだったわけだしね。


「……まぁそれなら図書室で本借りてくるだけで済みますけど……」


「よし決まりだ! 鳴瀬と久方もいいだろ?」


「あ、はい! ウチもぜひやってみたいです!」


「俺もちょっと興味出てきましたし、できればやってみたいです」


 二人とも乗り気みたいで、ビブリオバトルの説明をした僕としてはちょっぴり嬉しい。

 そんなわけで鶴松先輩の提案から皆で本探しに図書室に行く流れになった。




 それから図書室で本を借りてきて、文芸部の部室でビブリオバトルをやることになった。


 みんながどんな本選ぶのかちょっと楽しみだし、クラスメイトの鳴瀬さんと久方の二人にしたって、じっくり話したことってあんまりなかったから、二人がどんな本が好みなのか気になるところではある。


 ちなみに僕が借りてきたのはこの本、『となりの席の幽子さん』。


 学校での日常をベースにしたホラー要素のある学園小説である。主人公の少年と、彼にしか見えない幽霊のクラスメイトの女の子、幽子さん。二人のちぐはぐな関係性が読んでいてとっても面白くって…………って、ストーリーをなぞっている場合じゃないか。


 どうやら鳴瀬さんも久方も借りる本決まったみたいだし、これから部室でビブリオバトルか。あの時以来、ずっと避けてきたビブリオバトルを、どこか楽しみにしている自分に気づく。だけど、不思議と悪い気はしなかった。

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