1章 エピローグ

 結論として、俺の受けた依頼は囮であった。第五世代型ポーターを何処かに届ける為の依頼である……等という事を言われたが、明らかに嘘である事は誰の目を見ても明らかだ。

 本当に第五世代型が大切ならば、第二世代型のみで護衛を固めるような真似はしないだろう。そして何より、護衛対象のポーター単独で戦線を離脱するような事はしない。


 俺の想像では、恐らく同じような依頼を各所に投げて撹乱に使ったのだろうと考えていた。それは本当に大切な物を隠して輸送する為の偽装工作の筈だ。

 裏で何があるのかはわからないが、如何せん今回の件はやや運が悪すぎたという所が大きい気がする。あのハゲ頭の……ク、ク、えーっと、名前を忘れたがそれなりに立場があるであろう彼も被害者だと言っていた。


「で、だ。詳しく知ってそうなヤツが一人此処に居る訳だが」


「……」


 簀巻きに近い形にされて、一人の狐耳の少女が地面に転がされているのをラルフェと見下ろす。先程から尋問を試みているのだが、此方に話すつもりは無いらしい。

 薄暗いトラクターの中でガタガタと揺られながらも、既に目的地である荒野の街は目前だ。


「だんまりだねぇ」


「象嵌鮫の稚魚取り扱ってる店とかはあの街に無いのか?拷問に使えば、手っ取り早く口を割らせられる。心が壊れる方が早い時も多いのが玉に瑕だが」


「っ!?」


「クロムさんに連絡入れてみる?彼も先の依頼でお冠だから、多分頑張って仕入れてくれるとは思うよ」


 そう言うと、狐耳の少女の顔色が青くなった。どうやら象嵌鮫の拷問でどうなるかは知っているようだが……。


「……交換条件で話します」


 と、ついに少女は口を開いた。


「象嵌鮫買いに行く手間より軽い条件なら聞いても良いけど」


「他の皆がどうなったか知りたい、です」


「奇襲を仕掛けてきたヤツと、腹部を突き刺した奴も殺した。最後の空飛ぶヤツに落とされたのは生死不明、機体を回収してないって事は無い筈だけど」


「二人を殺したなら、どうして私を助けたんですか?」


 その言葉に少し回答に困るダンザ。だが、自分の中では明確な回答は出ていた。だがソレを言うと相手が何か仕出かす可能性もあるので、此処は当たり障りの無い言葉を言っておく。


「俺は元々荒野じゃなくて砂漠の生まれだ。だから簒奪者アバドンは殺すし、落ちてる使い道のある物は人員だろうがなんだろうが拾う。事実、アンタのヨトゥンを一撃で殺害せしめる武装があったなら、アンタも殺してただろうが……落ちてたのはボロの迫撃弾でコックピットを貫通仕切らず、アンタは偶然生き残っただけの話だ」


 その言葉に何か思う所があったのか、少し考えた後に改めて彼女は口を開いた。


「……最後の一人がどうなったか教えてくれれば、なんでも言う事を聞きます」


「ふむ?」


 ダンザが頭の中で算盤を弾く。彼女がポーター乗りとして使えるのならば、恐らく今後はもっと動きやすくなる事だろう。だが、背後から撃たれそうで怖くもあるので、少々どうするか迷う所だ。


 ダンザがチラリとラルフェに視線を送ると、ラルフェは小さく頷いた。


「分かった、とりあえず調べて来てやる。ラルフェ、コイツ……ええと名前は?」


「ニーチェです」


「ニーチェを任せた。あと、ラルフェはこう見えてもアンタの首を引っこ抜けるぐらい腕力強いから気をつけろよ」


 では、HQと他の傭兵達に話をつけるとしようか。


◆◆◆


「はいはい、都市に到着ですよ!辛気臭い顔上げて希望に向かって全速前進!」


 オレンジ髪を靡かせて、ハツラツと笑う少女を他所にパイロット達の表情は非常に浮かない物であった。

 ゴウザ達旧砂漠都市のメンバーは、母艦の爆発の後に精製者である彼女の船に乗り都市へと戻る事となった。とはいえ流石に無料乗りは出来なかったようであり……。


「今日から貴方達は数ヶ月?数年?まぁ我々の損失を取り戻すまでは暫く!VERTEX-FRONTLINE社に努めてもらいますからね!」


 そう言いながら手をワキワキと動かし、何故かその場に居た全員の体にペタペタと触れて行くオレンジ髪の少女。


「まったく、オッサンにセクハラなんてして嬉しいのか?」


「ヘイヘイ、黙って触られとけよアロウン。若い子からのセクハラなんて、そうそうされるモンじゃねぇぞ?」


「ダコール、お前は黙ってろ」


「カリカリすんなよゴウザ、まぁあ状況があんまりよろしくねぇのは理解してるがな?イライラした所で事態が良くなる訳でもねぇんだ」


 そう言って、ダコールがチラリとリリィの方を見ると如何せん瞳が死んでいた。何処かを見ているような、何処も見ていないかのような瞳に思わずため息をつき、軽くゴウザの小脇を肘で突いた。


「んだよ」


「嬢ちゃん、なんとかなんねぇのか……?」


「そうは言うがな……つーかまぁ、あの程度でダンザが死ぬのはソレこそ無いだろ?多分その内地力で戻ってくる程度のガッツはあるだろアイツなら」


「だよなぁ」


「惚れた弱みならぬ、惚れた強みだな。だが、嬢ちゃんが見てられねぇってのも事実だろ」


「ハイハイハイ!皆さん内緒話は禁止です!皆さんが静かになるまでにペペロンチーノを何杯作れる時間を稼ぐつもりですか?タイムイズマネーって言葉ぐらい頭の辞書のてっぺん付近に突っ込んでおいて下さいよ―――?」


 不意にオレンジの髪の少女が停止し、ギョロリと都市の方へと視線を向ける。


「ッチ、厄介事の香ばしい香りですね」


『此方はアラクネ中央管理監査部です。都市に接近中の砂上母艦、そちらで我々の人員を確保しているのは確認しています。速やかに身柄を引き渡しなさい』


「だーれーがー通報しましたかねぇ?」


 頭をグリンと回し、再びアラクネのパイロット達の方を見据えるオレンジ髪の少女。


「監視されてた状態で送れると思うのか?」


「だよな、俺も結構ビビってる」


「あー……アレだわ、多分俺かも」


 そう言って手を上げるのはダコール。とは言っても、彼も半信半疑といった表情なのだが。


「あんですと!?」


「いや、体内に昔アラクネの監視チップ入れられてるんだよ。俺も昔はヤンチャでよ?犯罪監視の為だったんだが……そういや街に近づくと周囲情報とか現在の情報とか諸々送信されちまうみたいな話を聞いたような?」


 その言葉に崩れ落ちるオレンジ髪の少女。


「あ、あああああ!?ヤバイですって!?貴方達持って行かれるといよいよ持って私首切られますよ!?回収任務には失敗しましたし、ポーターもかなりの数破損しましたし、技術研からパクったハンマーの事も絶対怒られますって!?」


「いや、最後はアンタの自業自得だろうに……」


 そう言って苦笑いを浮かべる3人の腕利き達は、改めて変わった未来の予定を頭の中で組み替えながら、一息付くのであった。

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スターダストドロップ・オール・ポーターズ 七尾八尾 @SevensOrder

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