強襲3
ダンザはブレードを引き抜き撃破を確認すると、格納して即座に位置を変える。第2世代型がメインのこちらの陣容かつ、輸送トラックの防衛を主目的としているこちらの部隊では、第3世代型の機動力の前に削られていくだけである事を理解しているからだ。
「幸い、自然な形で味方の輪から出れたが……」
VTミサイルで余計な被害を出さないようにと気遣ったダンザの動きで、足の遅い味方から離れて、まとまる事なく比較的ダンザ自身の機動力を確保出来る状況を作れた。
ブーストを吹かせ、短距離のジャンプを繰り返すラビット挙動を行い、遠巻きに敵ポーターを眺める形になるダンザ。隙を伺っていたのだが、相手にも完全に警戒されているのは、此方をアイカメラに捉え続ける挙動からありありと見て取れた。
「ラルフェ、さっきので敵ポーターへの致命傷を取れる武装をほぼ使い切った。残りの火力でかなり頑張ってもギリギリ落とせて後一機。更に言うなら先に空中で落としたポーターが後続で突っ込んでくると本格的に不味い」
『さっきので落とせてないの!?』
「殺した感覚が無かったし、こっちも機能不全狙いだったから多分落とせてないだろ。あの時油断して狙撃銃を破損させられなければな……」
言っても仕方無い事ではあるが、恐らくこの戦闘におけるMVPが居るとするならば、ダンザの狙撃ライフルを破損せしめた潜伏者だろう。おそらくアレが無ければ、既に戦闘は一方的なダンザの勝利で終わっている。
『ええと、それでこっちは何か出来る事ある?』
「HQに今の情報を伝えておいてくれればそれでいい。あと、隠している物を早く出せと」
既に半数になりつつあるこちらの陣営のポーター達を横目に、動き続ける敵を視界にとらえて弾丸を放つと、敵が乱射していたライフルに弾丸が直撃して小爆発を引き起こされる。
「さて、撃ったは良いが本格的に困ったな」
先程VTミサイルで撃破した際もそうだったのだが、ダンザが相手の銃を撃つのをためらうのには理由がある。
銃を持たせている限りは相手も銃を使うのだが、それを潰してしまうと相手の行動が読み辛くなったり撤退を誘発してしまうのだ。また、先程のように詰めの状況で爆散させれば致命的な隙を作り出せるのもある。
同じ事を2度行っても効果薄だが、一度目であればバレてなければ通るだろう。ダンザにとって武装破壊は、そういった意味でも切り札の一つなのだ。
『ダンザ!HQからの情報!ゆっくりだけど3機目がこっちに向かってるみたい!』
「ええい、さっきから相手ばっかり有能じゃないか。所でこの機体自爆装置とか無いのか?あったら突っ込ませてもろともに吹き飛ばす事も考慮に入れたいんだが」
牽制射という名の直撃弾を相手に与えながら、付かず離れずの距離からヨトゥンの動きを抑制するダンザ。対ポーター戦も考慮された30mm弾ではあるが、いかんせん相手が固く
そもそもの話、2.5世代型で3世代型と戦うのは想像以上に厳しい。ダンザの操縦技能で優勢を保ってはいるが、薄氷の上を渡る戦闘である事に変わりない。
『滅茶苦茶言ってる!?』
「そうは言うが、今の装備で落とすのはかなりキツい。そもそも、あまりHQがやる気が無いのが気になる。普通に考えてこれだけの警戒態勢を敷きながら、対ポーター用武装を殆ど用意してないのはおかしいだろう」
『た、たしかに……?』
「周囲のポーター達も、何故か対ポーター戦を強く想定している様子や装備では無かった。確かにダンゴムシを処理するのが主目的なら合致しているんだろうが、どうにも何もかもがチグハグじゃないか?」
『あ、ダンザ、今思いついたんだけどさ』
「唐突だな、なんだ?」
『流石に誰か一人二人ぐらいは対ポーターの高火力装備持ってたりするんじゃない?協力すればなんとかなったりするかも……?』
「………本当だわ」
そもそも、誰かに頼るという事を完全に思考から外していたダンザであった。
「ラルフェ、HQ経由でも直接通信でもいいから対ポーター用の高火力武装を持っている連中から融通してもらえないか交渉してみてくれ」
『了解、やられないでよ!』
「……善処はする」
と、最後のマガジンを銃に突っ込んで敵の頭を抑え続けるダンザだったが流石に少しづつ心の中で焦れが出てきているのも確かだった。
ダンザの中の感覚では、この程度の敵に苦戦する事すらおかしいのだ。少なくとも現状持ち得たライフルの口径が大口径であれば軽く100度は落としている。何もかもが足りないと頭では理解しつつも、体感と実戦でのズレが少しづつ大きくなって行く感覚がチリチリと脳裏を炙り始めた。
「俺には何が足りない?」
最後の弾薬を撃ち切り、銃を投げ捨てると相手が詰めようと動き出す。だが、それを見ていた別のポーターが、敵ヨトゥンを食い止める為に前に出た。
そして近接戦になった瞬間。ダンザとヨトゥンの間に入ったポーターは小爆発を起こし、一瞬で撃破された。
「右腕、パイルバンカーか?随分まぁ上手く抜いたもんだ」
『ダンザ!240mm迫撃弾が一発だけあるって!』
「一発か、覚悟決めるしか無さそうだな。ポイントを指示してくれ!」
『持ってるポーターを指示……あ、いや死んでるかなこれ』
「追い剥ぎなんて皆やってる事だろ」
ダンザは遠距離用のFCSにまわしている回路を遮断うな動きを見せると、即座にダンザに接近を見せるヨトゥン。敵となりうるポータし、接近戦のでっち上げFCSに電力を回す。残り推進剤から見るに、此方側の高速移動もあと数度が限度。第3世代型相手の通常戦闘機動であれば1~2分が限界だ。
「此処でコイツは落とす。もう一機は知らん」
改めてトラクターや味方ポーターの中央に飛び込むよーがダンザの2.5世代型である事は見抜いていた為に、速度勝負に持ち込めるならば相手も接近戦で仕留めるという選択肢が出て来たのだろう。
「ブレードが毎度役に立つ。ラルフェの見立ても、存外悪く無いという事だな」
相手が機体の足を地面から離し、完全にブーストの推力のみで此方に突進してきたのを見据え、ダンザも突進速度を上げて同じように空へとブースター推力のみで上がり、ブレードを構える。
「接近戦は苦手なんだが、四の五の言ってられんよなッ!」
ダンザの狙いは敵機腹部への刺突。リーチでは相手に勝るがブースト速度と機体反応速度にて明確に劣る。
相手の狙いはコックピットの一点のみ。射程こそ短いものの、当たれば確実にその部位を破損せしめるであろう、化学反応による成形炸薬タイプの使い捨て芯のパイルバンカー。
夜闇の中、すべてのポーターが空を見上げ、夜を照らす照明弾が戦場の主役たる二人を白日の元に晒した。
呼吸が止まり、一秒が何十秒と引き伸ばされたかのような感覚の中で、ダンザは自らの扉に手をかける。
瞬間、大質量同士が正面衝突を起こすかのように見えた。だが、双方が脇腹をすれ違うようにして派手な火花とパーツを散らして通過する。
『ダンザ!?』
「ぐっ!?」
ブレードを持っていた手ごと、パイルバンカーで抉られ吹き飛ばされるダンザ。だが、相手も無傷では済まずに腹部に深い傷を負ってバランスを崩したように吹き飛んだのをダンザは捉えていた。
ダンザのポーターは砂の上を転がり、そのまま機体前面部を地面に擦り付けるようにして減速して停止。
「痛ってて……ちょいミスった。流石に反応速度で勝つにはマシンスペックが足りなかったか。推進剤もこれで限界、立て直しも難しいが―――」
バランスを持ち直した敵機が、改めてブーストを吹かせて突進してくる。とはいえ、先程よりも動きは遅く静止したダンザへの止めを狙った行動である事は見て取れた。
周囲から弾丸が飛来し、敵ヨトゥンをどうにか止めようとする周囲の残り3機のポーター達。だが、その願いは虚しく数発の弾丸が跳弾した程度に留まり――――
『ダンザ!敵機が来てるよ!』
「ああ、狙い通りだ」
ダンザのポーターが握りしめていた、240mm迫撃弾頭がヨトゥン・ヴァンガード3rd後期改修型の腹部を捉えた。
瞬間、先程ダンザの与えた切り傷から流れていた燃料が、ブースターの燃料タンクに引火して小爆発を起こし崩れ落ちるヨトゥン・ヴァンガード。
「さて、これで文字通りの限界だ。まぁまぁ頑張った方じゃないかな?」
ダンザは最初から、敵機に吹き飛ばされる形で迫撃弾の元に向かう腹積もりであり、より自然な形で相手に回避行動を取らせない状況を作ったのだ。とはいえ、最後の燃料への引火爆発は狙った物では無かった為に、実際には直撃弾を取れても結構ギリギリだった。
『ダンザまずい、最後の一機がコッチに……!』
「やれやれ、さては俺達を見殺しにして依頼費ケチるつもりだな。こっちも脱出する、まったく……悪く無い機体だったんだが、戦場が悪いというか間が悪いというか」
そういって、ダンザはコックピットを開き砂漠へと飛び出る。周囲を見ると、ヨトゥン・ヴァンガードが倒れ火を吹いているのが見えた。あれでは中のパイロットは助からないか?
等と思いながらラルフェの居るトラックを目指していると、不意にヨトゥンのコックピットが開きズルリとパイロットが砂に落ちたのを見た。どうやら緊急用の脱出装置が作動したが、先程の迫撃弾の直撃で気を失っているようである。
「……ああ、クソ、拾っても面倒なのは理解してるんだが」
そう言って、ダンザはヨトゥンに近寄るとパイロットを引きずり炎から引き離した。
「女か、銃は……持ってるな、回収しとこっと」
ヘルメット越しで顔はわからないが、パイロットスーツのタイプから女である事は把握出来た。ダンザは彼女の持つ銃を回収すると、背負って改めてラルフェの居るトラックに向かう。
砂漠において、助かったパイロットは可能な限り持ち帰るのが決まりだ。砂漠においてはパイロットも貴重な資材、首や心臓に爆弾をつけて運用するぐらいは当然であった。もっとも、此処は荒野なのだが。
思ったよりも軽い少女を背負い、そのままヨロついて歩き出したその瞬間。インカムから声が聞こえた。
『こちらHQ、いや……ファントム1。貴殿の戦い見せてもらった、アラクネの名に恥じない見事な物だ。準備に手間取ったが問題は無い、後は任せてくれ』
瞬間、この部隊の護衛対象であったトレーラーが開き、内部から一機のポーターが現れた。
「あれは第四世代型ポーター?いや、まさか……第五世代か!?」
闇夜の中から立ち上がるポーター。見慣れない大型のバックパックに、明らかに最新型の射撃装備。だが―――ダンザは違和感を感じる。
「俺はアレを見たことがあるのか?」
何かが、僅かに記憶の表層を叩いた気がした。
その第五世代型と思しき機体が空中へと飛び上がると、最後の一機になったヨトゥン・ヴァンガードに向かい空より弾丸を放ち、制圧を開始するファントム1。
「いい腕だが……いや、まぁ良いか」
戦闘も少しは気になるが、それよりも巻き添えをくらわない方が大切だとばかりにダンザはトラックへと歩き出す。夜闇の中、空を飛び回る機体が数度着弾の火花を上げては反撃を繰り返し、しばらくの後に戦闘が終了した。
「流石に世代差が大きいか」
第三世代型は完全な飛行が行えない為に、以前ダンザやヨトゥンが行ったようなムリな飛行を行えば即座に燃料切れを起こす。第五世代型の飛行速度と柔軟な三次元戦闘を見るに、何らかの飛行を可能とする機構が搭載されているのだろう。
もっとも、流石に詳細な事までは見ただけではわからない。
ダンザがトラックに到達する数分の間に決着は付き、改めてダンザの耳元に声が響く。
『貴殿の献身に感謝する。では、機会があれば又会おう』
そう言うと、そのポーターはそのまま何処かに向かって飛んでいってしまった。
「……まぁ、良いけどさ」
口に出した言葉とは裏腹に、今度からはちゃんと仕事を選ぼうと思うダンザであった。
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