強襲2
ダンザにより正確に放たれた弾丸の一撃が、先と同じように衝撃で追加装甲の一部を外し、更に間髪入れずに弾丸を叩き込み、カバーする時間を与えず致命的な一撃をロケットブースターに与えた。
『FOX2!増槽とブースターに被弾した!ミサイルを撃ってパージする!ごめん!到着まで耐えて!』
夜空に向かいミサイルが雨あられと発射され、ポーターが切り離されると流星のように瞬きロケットブースターが爆散する。
同時にその輝きが周囲の3機を照らしてみせた。
◆◆◆
「あーあー……第三世代後期型でドンピシャだ。なんだっけ、ヨトゥン・ヴァンガード3rdの多分後期改修型かな?」
ダンザが半ば呆れたように言うと、HQから切迫した声が響く。
『強襲モデルだ!すまないが可能な限りの迎撃を頼む!他の連中も足止めに回らせるが恐らく長くは持たない!』
「ハナから期待してないよ」
最低限の説明を受けたダンザが、空に飛び交うミサイルのことごとくを迎撃する。銃身が焼けないように気をつけた連射の為に、問題無いと感じたミサイルを見逃したダンザ。だが、運悪く流れ弾であるミサイルが数発ほど輸送トラックやポーターに直撃や至近弾が発生し、それらが吹き飛んだのを見てダンザが僅かに眉をしかめた。
「今のが当たるのか?」
『ダンザ、被害はポーター2、トラック5』
「トラックはともかくポーター乗りは油断が過ぎるぞ」
『奇襲に近いから仕方ないよ、寝てた人も居るみたいだし……えーっと、ポーター残り10機』
「寝てても回避ぐらい出来るだろうに……」
さらに弾丸を乱射。途中銃側の排熱余裕が無くなり、銃身が焼き付くのを見て舌打ちするダンザ。マップ上で補給トラックが此方に移動してきているのを認識した為に、ブーストを吹かせてトラックに接近。運転手がライフルを展開するより早く、荷台をマニュピレーターで引き裂きながらライフルを無理やり抜き取った。
「乱暴ですまない!ちょっと不味いから停車しておいてくれ!」
夜空を埋め尽くすように煌めき流れるミサイルの推進光をダンザが睨む。軽く100は超えているが迎撃は可能、しかし問題は―――――。
「うっへぇ……ミサイル全部こっち狙い?これじゃ流石に敵ポーターを弾くのはキツイかなぁ?相手も上手く立ち回ってくる。HQ聞こえるか?こっちはミサイルの迎撃で手一杯になる、敵ポーター2機が突っ込んでくるぞ」
『HQ了解!他の連中を壁に使う!』
FCSがミサイルを視認する前に、ダンザがミサイルへと光源を頼りに弾丸を放ち手早く迎撃していく。如何にダンザといえど、比較的至近距離で打たれたミサイル150発程には相当な迎撃リソースを割り振らなければ迎撃は難しい。
此処に至ってようやく照明弾がポツリポツリと上がり始め、その黒染めのポーターをしっかりと捉えるに至ったが、ダンザ側はミサイルの迎撃に意識を振分っている為にそれどころではなかった。
「まぁ、行けはするが……」
後方にブーストを吹かせて一団から外れるように大きく連続して大跳躍を行い距離を取り、ミサイルを直線上に誘い込むとAGATAを連射して迎撃する。一見乱射しているように見えるが、その一発一発は全て狙い定められた弾丸であり、一発で複数のミサイルを撃ち抜いたり誘爆させて纏めて粉砕して見せた。
―――――だが。
「ああクソジャムった、コレだから安物は」
最後の数発のミサイルに対してAGATAを投げ捨て当てると、ミサイルはポーターに当たったと誤認して爆発。二丁の内一丁と、弾丸の大半を失ったダンザはレーダーで周囲情報を拾い上げると強く舌打ちをする。
「もう4機もやられたのか?早くない?」
そう言っている間にも、追加で2機のポーターが撃破され大きくため息をつくダンザ。状況はすでに敵方に傾いており、混乱の最中にあると言って良い。
「ラルフェ、状況を」
『いやぁ、こっちのポーターがボコボコにされてる。相手がかなりの手練ってのもあるけど、それ以前に機体性能が完全に劣っててどうしようもない感じかな?』
「敵の数は2か?」
『うん、先の射撃で1機は迎撃出来たみたいだね』
ダンザがラルフェの言葉に、小さく頷く。今の所自分が目立った失態を晒していないと、改めて確信したからである。
「今の間に1機は減らさないと不味いなぁ……性能差がキツイが味方を餌にしてミサイルで叩けばギリギリか。虎の子の
独り言のような、あるいは相談のような言葉を漏らすダンザ。手動で搭載されているVTミサイルの軌道座標を入力して空に向かい発射すると、ダンザはブーストを吹かせた連続跳躍を用いて敵に接近射撃戦を仕掛けた。
AGATAから発射された弾丸は的確にヨトゥン・ヴァンガードの腹部を捉え、僅かにその機体を浮かせる。
照明弾と弾丸の当たった光が、ヨトゥン・ヴァンガードの全容を照らし出し、その漆黒の装甲をダンザの眼前に晒した。戦艦の衝角のようなボディに、同じく鋭角が目立つ手足がついたポーター。アバドンのような逆関節ではなく、通常脚部に青の推進剤である事から元は通常のポーターカスタムだ。
「機体重量が随分軽い、なのに硬いな」
さらに低空跳躍して敵機に近接しながら、ダンザはAGATAをリロードして追撃の射撃を行おうとするも、移動のみに留めて発砲を取りやめた。相手が味方ポーターを壁に見立てて位置取りを変えたからだ。
『ヨトゥン・ヴァンガードの3rdシリーズは軽量化と多種多様な武装構成及び特殊兵装が魅力の軽量モデルだよ、機動力で言えば第3世代型の上位に食い込む上に硬さも平均より上を保ってる』
「固くて早いってコトか、上手く抑えないと厄介と見た」
ダンザがため息一つついて抜刀すると、相手がそれに乗る形で抜刀した。互いに実体のあるブレードである為に、よほどが無ければ致命傷は取り辛いだろう。
相手がダンザの抜刀に乗ったのは、時間を掛けて戦闘し、後続の1機を迎え入れて2対1で戦闘したいという理由があっての事だ。
先に動いたのはダンザ。機動力で劣る為に、後手に回るのは不味いと判断しての行動だ。とはいえ、先程AGATAを比較的至近距離で当てたにも関わらず、一切貫通しなかった。手持ちの銃器での撃破を行う場合、集中して一点に弾丸を当て続ける等の"曲芸"が必要になってくる。
「うーん、密着してあてても貫通弾は厳しいか」
剣で戦うとみせかけ、ブレードを上に勢いよく投げると、抜き打ちでAGATAを連射しながらボヤくダンザ。
敵機であるヨトゥンも回避行動を取るのだが、避けた先に偏差で置かれたライフル弾が突き刺さり続け、ガタガタと機体を揺らしている。
だが、姿勢を崩す様子は見せない。ブースターで強制的にバランスを取っているのと、純粋に機体制御OSが優秀なのだろう。
相手も慌てて応射を行ってくるが、ダンザは上手く機体腕部に取り付けられたシールドで弾きながら位置取りを変える。時々、敵機が輸送トラックや別のポーターを盾にする動きを見せるが、ダンザは正確無比な射撃で間を縫って弾丸を当て続けた。
「ラルフェ、トラックの運転手にあんまり動かないように言っておいてくれ」
数秒ではあるが敵ポーターが至近距離に居たラルフェに対して、一応の注意をダンザが飛ばした。とはいえ、運が悪い時はどうしようも無いのだが。
『ふぇ、ふぇーい!』
「なんだその返事……」
強度ではややダンザの駆るヴァイツヘルムが勝るものの、相手は無傷なのに対してダンザのポーターは徐々に装甲を削られて行く。これは純粋に武装の口径差からくる物であり、恐らく相手と同じ武装であったならば既に勝敗は決していただろう。
「……ええい、あともう少し粘らないとだめか!」
ダンザが意を決してヨトゥンにシールドを向けながら直進すると、相手は後方にバックステップを行い一団から僅かに離れる。同時に銃口をトレーラー側に向けられたダンザは焦ったように盾になる位置を取り、弾丸を装甲で弾きながら応射する。
「あと、もう少しッ!」
ダンザが頭の中でカウントダウンを進める。同時に、ガリガリと弾丸で削られるダンザのシールド。10発近い直撃弾を受けた後、シールドの溶接が弾け飛びバランスを崩した。
ように見えた。
「今ッ!」
ダンザがバランスを崩した姿勢から、相手の弾丸の切れ間を狙って敵の銃口に弾丸を差し込んで魅せた。
相手の銃が弾けて華を咲かせ、同時に相手の銃が爆発を引き起こし体制を崩した次の瞬間。
「まず一つ」
先にダンザが空に向けて放ったVTミサイルが推力を失ったまま、敵ポーターの直上より降り注ぎ直撃する。自らが不利な状況に敢えて立ち、相手の立ち位置を誘導する事で、敵センサーの警戒網をすり抜けてミサイルを命中させたのである。
ダンザはブースターを吹かせ距離を縮めると、空より降って来たブレードを空中で握りしめ、敵ポーターの胴体を引き寄せるようにしてコックピットを貫いた。
赤いオイルが噴射し、ダンザのポーターを黒く染める。
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