第二節 「天才であるがゆえに天災だった俺」


空飛ぶ電車に揺られながら、俺たちは学校へ向かう。あまりの出来事に目眩がしそうな自分を押し殺して、平然と振舞ってはいるが本当に落ち着かない。誰か教えて下さい。人類はいつから空をも支配したのですか?


「あのね、たっくんがまともになってくれて嬉しいは嬉しいんだけどね、ちょっと困ったことになっちゃうかも知れないんだ。」

「困ったこと?まともになったのに?」

「だからこそ、なんだけどね。いい?」


雪希の説明が始まる。が、ちょっと退屈になると思うので、要点だけまとめるとこうなる。俺=天才=天災=災厄ということだったらしい。当時の俺は歴代最高の魔力を記録し、大賢者と呼ばれる数百年魔術のことだけに励んで来た仙人みたいな連中ですら到達出来なかった、星を滅ぼす程の神話級魔法[神の領域]、世界の法則を塗り替えられる程の次元級魔法[時の領域]の人類がおよそ到達することの出来ない伝説クラスにすら入学早々踏み込む程の人類史上最高の天才として期待されていたらしい。ただ過ぎた力に溺れた俺は、学校でやりたい放題を繰り返し、戦争になれば世界最高峰の魔法を操る精鋭中の精鋭の学校の教師達やドラゴンすら葬る王国が誇る絶大な化学兵器を持つ軍隊でも太刀打ち出来ないほどの強固な結界を張り、我が物顔で遊び呆け世界は自分の手中だと、自惚れていたのだ。そいつに会うまでは。元の世界では決して会うことのできない、化物中の化物、魔王という存在に。


「それでね、思う存分好き放題やってた災厄(カラミティー)のたっくんは、コア・スレイヤーって いう全世界を敵に回しても1人で勝っちゃうほどの最強の魔王に出会って、話にならないほどボロボロにされて、恥もかき捨てて、脇目も振らずに、必死にもがいてあがいて、周りの好奇の目に晒されながらも、命からがら逃げ帰ってきたの。しかも昨日。」

「昨日!?」


なんか納得出来た気がする。そういうこと、なのかな?この世界の俺は、強い自分の象徴である魔法の力を何よりも信頼していたのに、それを圧倒的な強者に根底から覆され、何もかもを失い、自暴自棄になっちゃったんだろうな。いわゆる一つの真っ白に燃え尽きてしまった的なアレなんだろうな。


「しかし、よく魔王に殺されずに無事に生きてたな、俺。しかも無傷だろ?」

「ちょっとたっくん!?それ本気で言ってるの?」

「そうだけど、違うのか?」

「もう!本当に覚えてないの?信じられないくらい傷だらけで、服も原型を留めてないくらいボロボロになってたんだよ!?私が愛情を込めて回復魔法をかけたから完全回復したけど、普通なら三ヶ月くらいは動けないような重症だったんだからね!まったく!」


雪希はちょっとだけ頬を膨らませて可愛らしいプク顔を浮かべている。しかし、雪希の話を聞く限りでは、俺はどうやら大型の車に跳ねられたのと同じくらいの大ケガをしていたようだ。世界が違ってもリンクすべき所はリンクするということなのだろうか?


「何はともあれ、傷を治してくれて有難うな。」

「当然のことだもん。」


拗ねた子供をあやすように、優しく頭を撫でながら雪希への感謝を伝える。問題は山積みだが、まずは学校へ行かなければ何も情報を得られない。災厄として恐れられ疎まれていたこの世界の俺は一体どんな奴だったんだ?魔法が使えるだけで友達や周囲の人とかは変わらないのか?答えの出ない自問自答を繰り返しながら、しばらく空中を走る電車に揺られていると、不意に速度が落ち始めたことに気づく。どうやら駅へと着いたようだ。


「今日は少し早目に出たから、余裕を持って学校に着いたね。」

「今までゴメンな。」

「全然大丈夫だよ。新しいたっくんと今日も一日頑張ろう!」

「新しいって。まぁ、間違っちゃいないけど。」


電車を降りた先は、見知った学校ではなく、荘厳な雰囲気を醸し出した、あからさまにファンタジー世界の学校と言った感じの建物だった。時間にして数秒立ち尽くしてしまったせいで、周りの雰囲気に気づく。明らかに不快な視線が俺に向けられている。勿論陰口も聞こえてくる。まぁ、そりゃそうだよな。理不尽に暴れ回ってた奴がまともな時間に、真面目に学校にやって来たんだからな。


「災厄がこんな時間に何の用だろ?」

「また思い付きで教室吹き飛ばされたら、今度こそ死人が出るぞ?」

「そういや、昨日魔王にズタボロにされたらしいぞ?」

「マジかよ。アイツでも魔王相手じゃ話になんねぇのかよ。」

「しかし、それで改心したんじゃねぇの?真面目に魔法を学んで真面目に生きようってさ。」

「打ち所悪かったにしろ、今更すぎるだろ。それ。」


ったく、好き勝手言いやがって。まぁ、不本意だが昨日までの俺はそう言われても仕方ない人間ではあっただろうな。だが、今の俺は完全に別人。魔法の使い方すらわからない、全くの一般人です。そんなことを思いながら歩いていると、


「やぁ、なんか昨日ボコボコにされたって聞いたけど、全然元気そうじゃないか?」


ふいに肩を叩きながら、金髪のイケメンが話しかけてくる。


「斉藤さんおはよー。私が一生懸命治したんだよ!」

「なるほど。愛の成せる技ってやつか。泣かせるね。」

「うらやましいでしょ。」

「そうでもない。」


斉藤さん?同級生で斉藤さんっていうと、え?あれ?留年して同級生になった将来ハゲるあの斉藤さんですか!?どどどど同一人物ですか!?俺の知ってる人と全然違うよ!


「おはよう雪希ちゃん。いつも可愛いけど、今日は一段と可愛いね。」

「おはよう。隆二君。今日もお世辞有難う。」

「やぁ隆二。今日も調子いいね。」

「お世辞で言ってるわけじゃないけどね。」


隆二?は?隆二ってあの女には一切興味のないさえないメガネで、パチンコとスロットにドップリハマっちゃう、あの今野隆二サンデスカ?チョットボクニハナンノコトダカワカラナクナッテキタヨ。


「俺の筋肉が今日もこんなに荒ぶっている。お前達も良い筋肉育てているか?」

「沼原さんおはよー。」

「沼さんちっす。」

「今日も良い筋肉してますね。」

「俺の筋肉を理解できるとは、お前は見所があるな。よしお前にはこのプロテインをやろう。」


良い加減にして欲しいですね。なんだっていうの?沼原隆信?斉藤さんと一緒で留年した同級生の腰の低い優しい男だよ。本当は!誰だコイツは!なに筋肉って!怖いんだけど!なんでプロテインポケットから出してくるの?しかも上半身タンクトップ1枚なんですけど!?


「…はよ。」

「奈美ちゃんおはよー。」

「今日もその気怠げな感じが可愛いな、奈美ちゃん。」

「おはよう。奈美。」

「お前はまず筋肉を付けるために肉を食え。」

「…筋肉はいらないから、睡眠が欲しい。」


オイオイオイオイ!誰だよ!この物静かな可憐な美少女は!?奈美だ!?はぁ!?あの暴走超特急の年上のダメンズ好きがコレ?どうなってるの!?もうついていけないよ!俺のメンタルは!


「聞いて!みんなに嬉しいお知らせです!」

「なんだ?新しい筋トレの方法でも思いついたのか?」

「あれかな?とうとう2人が付き合うことになった、とかかな?」

「ふぇ!?」

「…図星かな?」

「マジかよ!俺の麗しい雪希ちゃんが!だけど大丈夫、奈美への愛情は変わらないからね♪」

「…必要ない。」

「一体どんな熱烈な筋肉で告白されたんだい?」

「急に抱きしめられて、今までゴメンな、お前の未来を俺にくれって///」

「凄いね。最早プロポーズじゃないか。」

「直球も大事ってことだね。は!?奈美ちゃん好きだ!付き合って!」

「…。ゴメン、本気で無理。」


なんかわからんけど、急にカミングアウトしやがったな全く。俺からもなんか言った方がいいのかな?とりあえず、あっちの世界のあいつらと同じような扱いでいいんだよな、きっと?全然別人すぎてまだ混乱してるが、雪希に任せておくと余計な誤解を招きかねんな。よし!


「あぁ、まぁ、そのなんだ?アレだ。一番傍で、いつも俺のために頑張ってくれてたからな。気づいてたけど、気づかないフリをしてるのは最低だな、って思ってな。」

「へぇ?どうした?急に考え方が大人になったんだな。」

「まぁ、色々あったからな。」


本当に色々あったからな。言えないけど。お前らと昨日まで生活してた俺はもういないって言えないしな。まぁ、よっぽど変なことしない限り疑われることもないとは思うが。


「…なんか別人みたいだね。」

「そうだな。可愛い奈美の言う通り。同一人物とは思えないね。」

「いや、きっと使ってなかった筋肉を使った結果に違いない。」

「私の愛の力だよ!確実に!」


ぬぅ。やっぱり今までの傍若無人の俺とのギャップがありすぎて、違和感が強いようだな。まぁ、その辺は愛の力で更生したということにしよう。説明が面倒くさいからな。


「じゃあ、今日は帰りに2人のお祝いにカラオケとか行っちゃう感じ?」

「いいんじゃない?特に予定もないしね。」

「俺の筋肉も問題ないと言っている。」

「…私も大丈夫。」

「本当に!?みんなありがとう!」

「2人の門出を祝う事が出来て、兄貴分として嬉しいよ♪」

「全く…。拓也に先を越されるなんて思わなかったよ。でも子作りは負けなっがふ!」

「…余計なことは言わないの。」

「俺の筋肉も同感だそうだ。」

「たっくんとの子供…。はうっ///」


なんだかわからんが、凄い勢いで祝福モードが出来上がってきていないか?収集を付けてとっとと教室に急ごう。なんか周りの視線が最初から冷たかったけど、今はもう極寒なんですけど!


「とりあえず、遊びに行くのは決まったんだから教室に行こうぜ!な!な、雪希!」

「う、うん!そ、そうだね!せっかくたっくんが真面目に授業うけるんだもんね!」

「そうだな。それはそれで物珍しいことだからな。」

「俺が女子を口説かないくらい珍しいね。ねぇ、奈美愛してるよ。」

「…そういうのは必要ない。」

「俺の筋肉も拓也と授業が受けれて嬉しいと言っている。」

「じゃあ、行こうぜ。」


何とか話を収めて、教室に向かう。あー緊張する。魔法の授業って何するんだろう。てか、どうやって魔法使うの?教室に着いたらすぐに教科書読もう!そうしよう!程なくして教室に着いたけど、意外と元の世界と一緒なんだな。外観は凄かったけど、体育館とかそういう所が違うのかな?席に着いて即座に教科書に目を通そうとすると、


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


なんか聞き慣れた鐘の音がなった。と思ったら、


ブォン!


という効果音と共に教師が教壇に立っていた。は?ワープ?魔法って便利だな。


「それでは、授業を始めます。」


真面目そうなインテリ眼鏡の可愛い感じの女教師がマニュアル通りに授業を進めていく。俺もこの世界の事情を知るため必死に授業を聴きながら教科書を読む。教科書に載ってないことも補足として説明してくれるので、なるほどなるほどと、感心しながら聞いていたためか、ときおり先生と目が合ってしまう。その度に先生が挙動不審な反応をする。何でだろう?あれかな?前の俺がなんかしちゃってたからかな?きっとそうだよね?しばらくして授業が終わる。最初の授業はこの世界の成り立ちの授業だったから、俺にとっては初めて聞くことだらけでとても有意義な時間だった。てか、本当に見た目だけ同じ世界なんだと実感してしまった。


「あ、あの、川島君?」

「はい?」


不意に先生に話しかけられる。


「そ、その、私の授業どうでしたか?大丈夫でしたか?」


そう問いかけた先生は声も身体も震えていた。むぅ、年上の守ってあげたい女性もアリだな。だが、もう雪希という彼女がいるからな。というか、アレだね。前の俺が授業潰したか、ダメ出ししてたんだよね?怯えないで!ごめんなさいね、本当に!


「えっと、とても有意義なものでしたよ。凄くわかりやすくてとても勉強になりました。」

「本当ですか!?」

「はい。補足も織り交ぜてくれてたので、本当に良い授業でした。」

「ありがとう!」


不意に視界が奪われた。と思ったら、顔に柔らかい感触が。何だこれは?


「川島君が真面目に授業に出てくれたのでも奇跡なのに。真剣に私の話を聞いてくれて!」


興奮した先生は俺を思わず抱きしめていたらしい。なるほど、つまりこれは先生の胸か。ほぉほぉ、良いものをお持ちで。うへへ。と自分の現状に役得役得と甘えていたら、背後に殺気が…。


「たっく〜ん?なに、してるのかなぁ〜?」

「川島君!川島君!明日もこれからも頑張って下さいね!」


興奮した先生は背後に迫る脅威に全く気付いていない!どうしよう!


「待て!雪希!どう考えてもこれは違う!って、何が違う?」

「え?浮気じゃないの?違うの?たっくん?」

「違う違う!これは、先生と生徒のスキンシップ!やましい気持ちは一切ない!だから問題ない!ねぇ、先生!」

「うぅっ!はい?スキンシップ?あ///」


俺にもがかれて、やっと自分の状況に気づいたらしい。そこで恥じらうのは可愛い!だが、そんなこと思ってる場合じゃない。我に帰った先生、早くフォローして!


「ゴメンナサイ!本当に嬉しくて、興奮しちゃって!」

「本当にそれだけですか〜?」

「それだけですよ!まぁ、一応生徒と先生ですから、ゴニョゴニョ。」

「なんかチョット怪しい気もしますが、まぁ、いいでしょう!正妻の私の目が黒い内は、側室なんて許しませんからね!」


言いたいことだけ言い残し、雪希は去って行った。ふぅ、一時はどうなるかと思ったぜ。あいつの愛情チョット行き過ぎてないか?まぁ、この世界は一夫多妻OKらしいから、気にするのも仕方ないのかもしれないが。


「川島君。明日からも私の授業きちんと聞いてくれますか?」

「勿論です。先生の熱心な姿勢に、俺もちゃんと応えたいですから。」

「あわ///」


あれ?なんで先生顔赤らめてるんだ?why?紳士的に対応してるだけなんだけど?振り幅かな!?今までとのギャップがありすぎて、一気に好感度が上がりすぎてるのかな!?


「え、えっと、今更なんですが先生のお名前お伺いしても良いですか?」

「私は熊谷遥香です。やっぱり覚えていないですよね?」

「すいません。」


元の世界にいなかった人物だから知らないとは言えないが、教師陣は意外と元の世界とリンクしてないのかもしれないな。


「じゃあ、明日からもよろしくお願いしますね、拓也君。」


と言い残し先生は去って行った。あれ?名前呼びになってなかった今?まぁ、そんなことより魔法の使い方を学ばなければ。俺は魔法に関係のない普通の授業の時は、魔法関連の教科書を読み必死に魔法の使用方法を学んだ。


キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン


4度目の授業が終わり、昼休みになる。


「ご飯だよ、たっくん!」

「お、おぅ。」


授業が終わるとすぐに雪希が俺の所に駆けつける。そういえば俺って昼飯どうしてたんだろう?学校に行ってなかったってことは、ガサゴソガサゴソ、うーん、やっぱり弁当はないな。てことは学食、かな?


「あ、あのね、今日もたっくんのお弁当用意してあるからね。」

「え、そうなの?悪いな。」

「ううん!私がしたくてやってるだけだよ!」

「全く。俺もそれくらい愛されたいものだよ。奈美も俺の弁当よろしくね。」

「…。毒入りでいいなら作ってあげる。」

「そこに愛も入ってるのなら望む所だよ!」

「…。1%も入ってるわけない。」

「まぁ、とりあえず漫才はそこまでにしてお昼食べような。」

「俺の筋肉も栄養を欲している。」


またなんだかんだでいつものメンツで昼を食べる。まぁ、色々と勝手は違うみたいだが、なんとかやっていけそうな気がしてきたな、うん。午後は魔法の実技があるから、そこで教科書から学んだ知識を活かして魔法を色々と試してみよう。ちゃんと加減が出来ないと国を滅ぼしかねないからな。災厄とまで言われた力を、今の俺に果たして制御出来るのかな?

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君の代わりに花束を 注連薫 @satuki1016

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