第5話登場漢柳等の解説

1 詠み人知らず 「柳を為す」


悠久風来迎虚室  悠久風来たりて虚室に迎う

一篇子戯破韻律  一篇子戯れて韻律を破る

流伝野鶴是作家  流伝して野鶴是に家を作す

間座親朋此対膝  間座して親朋此に膝を対す


 押韻 入声四質(室、律、膝)


 語釈

 ・風来…風来人を指す。

 ・虚室…がらんとした部屋。

 ・野鶴…俗世間から離れている人のこと。

 ・間座…しずかに座る。座ってくつろぐ。


 解釈

 はるか昔、風と共に人ががらんとした部屋に入ってきた。

 その人は戯れに一篇の詩をあえて韻律を無視して為した。

 それが広まり、俗世間から離れた人々が集まり出し、その土地に住み始めた。

 そうして人々がくつろいで親族や友人と膝をつき合わせて団欒するようになった。


2 碑文の解説


本文その1

――翔月二十七年五月、洛鳳より使い来たる。姓は柳、名は蒼言、字は太染。洛中左京の版行、柳椿の子。身は痩にして長、性は洒脱にして軽妙。中書省にて詔を録するを業とす。


――翔月二十七年の五月、洛鳳の都から使者がやってきた。姓は柳、名は蒼言、字は太染という。都の左京で出版業を営む柳椿の息子である。体格は痩せ気味で長身、性格は垢抜けていてノリが軽い。中書省で詔書の保管・管理を行なっていた。


補足

・翔月…元号(物語上の架空の物)。

・洛鳳…華の国における都。

・版行…出版業。

・柳椿…漢柳の始祖、柳蒼言の父親に当たる。柳家は都では名の知れた職工の家であり、彼はその長であった(次話でも少々言及あり)。

・中書省…詔勅の作成、記録、伝達を行う省庁。中国史では最重要の行政機関に当たる。作中の華国においても最重要機関であることには変わりないが、下々まで詔を伝達させる為に多くの人員を割いていた為、中には能力や位の低い者も所属していた。



本文その2

――律に至るは前代の乱により、失せたる文を得んとす。郷人の信を得て歓待を受く。よく交わりて厚誼を結ぶ。律人、普く謡を好むも文を知らず。太染、詩を以て文を説く。しかれども真を得ず。戯れに技を廃して義を以て詩を作す。律人、之に興趣を感ず。故に之を以て徳化す。漢柳の起こる所以なり。


――蒼言が律に来たのは過去の王朝での乱により、失われた古の勅文を調査しに来たからである。彼は土地の者の信用を得て歓待された。律の者は民謡をよく好んでいたが文学については関心が低いようであった。蒼言は詩を参考に文学について説いてみたが、彼らはその良さが理解できないようであった。遊びの一環でややこしい規則や技巧に捉われない、言葉の意味を重視した詩を作ってみた。すると、律の人々はこれに関心を抱いたので、この簡略化した詩で徳を推し広めた。これが漢柳の元となった。


補足

・疑問点等あれば追記します。

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