第2話登場漢柳の解説
緒言:解釈については筆者、作中人物の一見解です。
1 張本陶作 題:以律文詠謝恩
長旅遥遥到桃源 長旅遥遥として桃源に至る
山谷森森入城門 山谷森森として城門に入る
番兵剛而知礼儀 番兵剛にして礼儀を知る
往来民和達恭温 往来の民和し恭温達す
婦人添夫助推敲 婦人夫に添いて推敲を助く
老若好文談詩論 老若文を好み詩論を談ず
見遠方友亦至楽 遠方の友に見え亦た至楽なりと
厚賓主交是謝恩 賓主の交わりを厚くし是に謝恩す
押韻:上声十三元(源、門、温、論、恩)
訳
長旅は遥か遠くの桃源郷に至る。
山谷は木々が鬱蒼としている中、城門に入る。
番兵はたくましく且つ礼儀にも篤い。
道行く民は和やかでおだやかな空気が行き届いている。
女性は夫に寄り添い、文章の推敲を助ける程に聡明である。
老いも若きも学問を好み、詩を論議している。
遠方の友に出会えて楽しいと県令は仰ってくれた。
ホストとゲストの交友を手厚くしてくれたことをここに感謝致します。
語釈
・遥遥:はるか遠くに離れる様。
・桃源:桃源郷のこと。秘境である律のことを示す。
・森森:樹木が盛んに茂る様。
・恭温:「恭」「温」別々に読む。慎ましくおだやかであること。
・推敲:元になった故事については作中に言及あり。文章の校正をすること。
・見遠方友亦至楽:典故について作中に言及あり。作中に登場する「孔論」は『論語』をモデルとした書物、「孔儒の教え」は儒学・儒教をモデルにしている。『論語』学而篇「有朋自遠方來、不亦樂乎」を参考。
2 鈍灰作 題:京師訪来
京華至絶遠 京華より絶遠に至る
野人畏誠懇 野人は誠懇を畏る
何用来此地 何を用てか此の地に来るか
以為疑隠遁 以為く隠遁を疑う
押韻:上平十三元(懇、遁)
訳
都から遠く離れたこの地にやってきた。
(我々のような)田舎者は懇ろになることを畏れ多いと思っております。
どうしてこんな所にやってきたのでしょう?
私が思うに(落ちぶれて)隠遁でもしに来たのでしょう。
語釈
京華;都のこと。
絶遠:遠く離れた地。
隠遁:世間から離れる。
3 耀白作 題:談笑徹夜半
絶遠聞書声 絶遠に書声を聞く
鴻群越山谷 鴻群は山谷を越ゆ
休休楽風雅 休休として風雅を楽しむ
翼翼結親睦 翼翼として親睦を結ぶ
近体尚綿綿 近体は尚お綿綿たり
柳文亦郁郁 柳文は亦た郁郁たり
吟嘯賑夜寂 吟嘯して夜寂を賑わす
協合如糸竹 協合して糸竹の如し
押韻:入声一屋(谷、睦、郁、竹)
訳
遥か遠くで詩を吟じる声を聞く。
渡り鳥が山谷を越えてやってきた。
安らかに詩文を楽しむ。
恭しく親交を結ぶ。
近体詩は今なお続いている。
漢柳もまた文化的である。
吟ずる声は静かな夜を賑わす。
和やかに調和する様は管弦の音楽のようだった。
語釈
・書声:詩文を朗誦する声。
・鴻群:友人を例えて言う。
・休休:楽しんで安らかな様。
・翼翼:恭しい様。
・綿綿:長く続いて絶えない様。
・郁郁:香気の盛んな様や文化の香り高い様。
・糸竹:弦楽器と管楽器。
4 鈍灰作 題:遊詩海
舟行漂詩海 舟行詩海を漂い
浅酌浴潮風 浅酌潮風を浴ぶ
氷輪皓皓顕 氷輪皓皓として顕なり
浮光揺漾融 浮光揺漾として融なり
波平身眩暈 波平らかなれど身は眩暈し
酔脚猶朦朧 酔脚猶お朦朧たり
臨水深無底 水に臨めば深きこと底無く
望天高莫終 天を望めば高きこと終わり莫し
押韻:上平一東(風、融、朧、終)
訳
舟が詩の海を漂っている。
一杯引っかけつつ潮風を浴びる。
寒々とした月は明るくはっきりと空に輝いている。
水に映る月はゆらゆらとして水中にとける。
波は穏やかだけども身はふらつき、
酔った足取りは朦朧としている。
海面を見れば深くて底が見えず、
空を見れば高く果てしない。
語釈
・浅酌:ちびちび飲む。
・氷輪:冷たく冴えた月。
・皓皓:清く白い様、光り輝く様。
・浮光:水面に映る月影。
・
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