Witch knightの覚悟/episode28


「これよりパジャマパーティを開始するのだわ!!」


 その夜、なぜか僕の部屋は宴の会場と化していた。床に敷かれた四枚の敷布団に、絶対こんなに食べないだろってくらいの量があるポテチやチョコのお菓子の山。

 前言撤回。全然真面目じゃなかった。一番この状況を楽しんでいるのはフィーラだ。やけに荷物が多いなと思ったらパジャマパーティを開くのに必要なものを買いこんでいたのか、この魔女!


「なんでパジャマパーティなんですか……ね?」


 内心は声に出さず、恐る恐るフィーラに問いかける。


「いい質問なのだわ、レイ。いい? 私たちは同盟よ。同盟になった以上お互いに信頼し合わなければならない。そのために必要なのは親睦を深めること! パジャマ・パーティは親睦を深めるのに最適なのだわ!!」

「なるほど、よくわかりました」


 僕は菓子の山からチョコレートを手に取り、口に放りこんだ。

 開催理由が最もらしくて妙に腹が立つ。お互いを信頼し合えるようにするためなんて言われたら、この青いシャツパジャマを拒否できないじゃないか。いや、本当になんで青なんだ?


「ただ自分がやりたかっただけだろ」


 名前に違わず、赤いジャージ姿の緋色がぶっきらぼうに呟いた。フィーラに悪態をつけてはいるが、ポテチを頬張る表情は幸せそうだ。


「ヒイロ! それは言わない約束でしょ!!」


 ツッコミを入れるように緋色の肩を拳でど突くフィーラ。

 そんな彼女は白のフワモコ系のパジャマでパーカーとショートパンツという姿だ。この魔女、あざとい。自分が可愛く見える姿を心得ている。

 ……と、ここで気になることが一つ。さっきから約一名喋っていない人間がいる。そう、我が魔女——九条愛梨彩である。

 さっきから様子がおかしいと思っていたが、なにやらもじもじしている。


「ちょっとフィーラ。この服少しキツいんだけど」


 黒のネグリジェ姿で身悶えるように愛梨彩が腕を抱いていた。

 フィーラが無言で愛梨彩を後ろから抱き締める。まるでなにかを確認するかのように。


「魔術式の継承が遅かったから予想以上に成長していたのね……チッ!」


 この魔女「チッ」って口で言ったぞ。舌打ちじゃなく口で言ったぞ。

 確かにネグリジェは愛梨彩の体のラインを際立たせていた。こう、スタイルを意識させられる服を見ると……目のやり場に困る。改めて大きいんだなと再認識してしまうわけで……


「おい、黎」


 不意に緋色が僕に耳打ちをする。こんな時に改まってどうしたのだろうか。


「鼻の下の伸びてるぞ」

「な!? そんなわけないだろ!!」


 慌てて否定し、自分の口と鼻を手で覆う。

 この男、一体なにを宣うか! 本人目の前にいるんだぞ!? お前はいつも周りを気にしないで言葉を発するから!


「えー嘘だぁ。こんなに眼福なのに。おー眼福眼福」

「人の主人をなんて目で見てるんだこの野郎!!」


 右腕で緋色の首を締め、反対の手で目を抑える。相変わらずこいつは口が軽い! 愛梨彩に聞こえたらどうするんだ、全く!


「わー!! ちょ、俺が悪かったって!! ギブギブ!!

「太刀川くん」

「な、なに、愛梨彩!?」


 不意に名前を呼ばれ、緋色を押さえつけたまま問い返す。この場で名指しで呼ばれるということは……嫌な予感しかしない!!


「最低」


 絶句。まさに口があんぐりと開いてしまった。

 ああ、終わった。僕の青春はここに悲恋として潰えた。こんな嫌われ方で脈がなくなるなんてあんまりだ。こんなことならポーカーフェイスくらい身につけておけばよかった……と思うのはすでに遅過ぎる後悔か。ようやく愛梨彩が心を開いてくれるようになったと思ったばかりなのに。

 いやだって気になる異性のパジャマ姿を見てしまったんだぞ? しかもフィーラが大人びた黒のネグリジェなんて選択をするから……鼻の下だって伸びるよ、普通。

 と素直に言う勇気はない。


「お前が余計なこと言うから!!」

「あー! マジ悪かったって、黎!」


 なのでかくなる上は八つ当たりである。僕の恋が破れた以上、この友達を締め上げなければ気が済まない!


「男子は仲いいわねー」

「本当、思春期の男子高校生そのものね」


 ポテチをポリポリ食べる魔女と冷ややかな目で紅茶を啜る魔女。


「親睦どころか決定的な溝ができてしまったんですが!」

「自業自得よ」

「はい……すいません」


 愛梨彩にそこまで言われると正直堪える。ああ、僕って本気で彼女のことが好きだったんだなぁと今になって改めて思い知った。


「しょうがないのだわ。ここで少し趣を変えましょ」

「お、あれか。あれやるのか」


 なにやら緋色は知っている様子だ。周りに散らかったお菓子やカップを遠くのテーブルに移している。


「あれってなにさ」

「布団が敷かれた部屋に男女が集まったらやることは一つ……」

「いや一つも心当たりがないんですが……」


 じっとフィーラの顔を見つめる。なんでそんなキラキラとした顔なのかイマイチよくわからない。満を持して、フィーラが息を飲む。

 そうして紡がれた答えは——


「枕投げなのだわ!!」


 ——枕投げである。もう一度言う枕投げである。


「いや、どうしてそうなるの!?」


 ツッコミが追いつかない。ドヤ顔で決め台詞っぽく言われても困る。大の大人がやることですか、枕投げ。


「チーム分けは私とレイ、ヒイロとアリサね」


 有無を言わさず、フィーラがおもむろにこちらへとやってくる。反対に緋色が愛梨彩の隣に立っていた。


「え、アリサとの仲を取り持ってくれるとかじゃないんですか」


 隣にきたフィーラに耳朶を打つ。


「それじゃ親睦会の意味がないのだわ。もしかしたら戦闘時にこういう予期せぬペアになるかもしれないでしょ?」

「まあ、確かに」

「それに心配する必要はないのだわ。だって愛梨彩はあなたしか狙わないもの。ストレスの捌け口になってあげるのも従者の役目よ?」

「へ……?」小首を傾げたその時だった。「——ぐはっ! いきなりかよ!」


 愛梨彩の手から高速の枕が飛んできたのは!


「僕を枕で殺す気か!」

「あら? すでに死んでいるじゃない」

「笑えないから、その冗談!!」


 言葉のドッジボールに付随して枕を投げ合う僕ら。女の子に枕を投げるのは忍びないが、親睦のためだ。許せ、愛梨彩!

 だが本気じゃなかったからか、あっさりと彼女にキャッチされてしまう。これではみすみす武器を渡しただけだ!


「ふふふ。随分ご立腹ね、アリサ」


 緋色と枕を投げ合っているフィーラは対岸の火事を見ているかのようだった。同じチームなのに全く助ける気がない。


「ちょ、フィーラ助け——」

「この距離なら外さない!」


 いつの間にか愛梨彩が歩いて至近距離まで接近している! なすすべなく、顔に豪速球ならぬ豪速枕が被弾し、僕は布団の上に倒れてしまう。


「あなたには! もう少し! 紳士として! 振る舞って! 欲しいものね!」


 すかさず放った枕を拾った愛梨彩が倒れた僕の上に跨り、枕で殴りかかってくる。この殴られる感じ……すごく既視感ある!


「待って! これ! 枕投げ! じゃない!」


 応戦するにも上を取られてしまっては勝ち目がない。僕は近くの枕を盾に、防戦一方となる。


「はあ、しょうがないのだわ……」


 フィーラはため息をつき、持っていた枕を投げつける。枕は見事愛梨彩の顔にクリーンヒット。枕による袋叩きがやんだ!


「やったわね……フィーラ」

「レイにばっかりにかまけているから横から撃たれるのよ」

「誰が誰にかまけているか……もう一度言ってもらえるかしら?」


 愛梨彩は鬼の形相でフィーラを睥睨している。いや、枕投げでそんなに本気にならなくても……


「おら! 隙あり!!」


 と睨み合っている魔女の雰囲気なんてお構いなしに緋色の枕が飛んでくる。


「ふん! それくらい読んでいたのだわ」


 フィーラが体の軸をずらして避けようとしたその時だった。——部屋の扉が開いたのは!


「こんな夜中に君たちはなにをはしゃいで——」


 緋色の投げた枕は部屋に入ろうとしたブルームの顔にヒットした。一同唖然となり、手が止まる。さっきまでの喧騒が嘘だったかのように部屋の空気が静まり返る。


「ほう……私の顔面に攻撃を当てたのは君が初めてだ。命が惜しくないということかい?」


 ブルームは笑っていた。でも目の奥が笑ってない。笑いながら怒ってる人の顔だ。

 まずい。なんだかんだでブルームも生粋の魔女で負けず嫌いなのだ。不本意とはいえ喧嘩を売ったとなると買ってくる可能性が高い。


「ちょ、とりあえず謝って緋色!!」

「わりぃわりぃ。あ、チョコ食べるか? ロルスのチョコ」


 そう言って彼が取り出したのはテーブルの上に置かれた高級チョコのパッケージだった。いや、そんなものでブルームが釣れるわけが——


「……いただこう」


 釣れた!! チョコで釣れたよ、ブルームさん!

 なぜかすんなり引き下がってくれたブルームは緋色からチョコを受け取るとテーブル近くの椅子に座る。無言でチョコの包みを解き、口に入れる。その刹那、彼女の口角はふっと上がっていた。どうやらご満悦のようだ。

 思わぬ乱入で熱が冷めたのか、その後枕の弾幕が飛び交うことはなかった。こうして勝者がいないまま枕投げ大会は幕を閉じたのであった。



 枕投げが終わっても宴は終わらなかった。

 最初のうちは女子のトークに混じれず、緋色と話してばかりだった。積もる話は山ほどあるからそれでもよかったのだが、ここは親睦会。フィーラが強引に会話の中に混ぜてきた。

 会話の内容は様々だった。最初のうちはスマートフォンの扱い方がわからない愛梨彩にレクチャーしたりもした。初めてスマホを触った彼女の嬉々とした顔はいとけない女の子のようでとても可愛いらしかった。

 それが終わると、お互いの話へと移った。おかげでみんなの知らないことを知れた。特にフィーラの昔の愛梨彩についての暴露トークは微笑ましかった。


「昔のアリサは泣き虫だったのよ? いつも模擬戦で負けて、泣きながら居残り練習してたのだわ」

「それは! ……そうだけど。負けず嫌いを拗らせて暴走したあなたがそれを言う?」

「うっ……! ……面目ないのだわ」


 それを聞いて本当に仲がよかったんだと安堵したのかもしれない。もちろん愛梨彩だけの暴露トークでは終わらない。


「黎ってどこにでもいる大人しい高校生な感じ出してるけど実際はヤバいからな、こいつ。怒らせるとなにするかわかんないし」


 と緋色は僕についていらないことばかり喋っていた。


「確かに。初めて戦った時のあの鬼気迫る感じ……只者じゃなかったのだわ」

「まあ、そういう怖いところは頼りがいがあると思うわ」

「なにそれ褒めてる? ねえ、愛梨彩褒めてる?」


 その後も仕返しと言わんばかりに僕と愛梨彩もベラベラ喋っていた。こういう恥ずかしい部分を仲間と共有するのも青春なのかもしれない。

 ただ一人、ブルームの過去だけはわからなかった。けど聞いていた彼女の表情は心なしか楽しそうに見えた。……ただチョコが美味しかっただけかもしれないけど。


 そんなこんなで夜は更け、自然とみんな敷いた布団で寝入った。

 僕はというと……なぜか興奮覚めやらぬままだった。

 別に自分の部屋で女の子が寝ているからとかではない。ただ……なんか幸せ過ぎるなと思ってしまったのだ。こういうありふれた日常を……愛梨彩とともに過ごせることが。

 幸せ過ぎるとつい今までの過酷だったことを思い返してしまう。ここまでくるのに色々なことがあった。


 愛梨彩を庇って死んだこと。

 咲久来と敵対することになったこと。

 緋色と望まぬ戦いを繰り広げたこと。


 一人で自分の物語の総集編を鑑賞しているみたいだった。こうなると観終わるまで苦労する。


「ダメだ。寝れない」


 僕は上体を起こし、周りを起こさないようにそろりそろりと布団から抜け出す。

 僕の左隣で眠っていた愛梨彩の体にはフィーラが抱きついたまま眠っていた。本当に仲いいな。

 右隣で寝ている緋色は掛け布団を蹴飛ばし、腹を掻きながら寝ている。寝苦しい暑さが続いているから無理ないのかもしれない。

 忍び足でドアまで向かい、音も立てずに外へ出る。こういう時に黄昏る場所は決まっている。——バルコニーだ。


 夏とはいえ、夜。昼間よりも涼しげな風が屋外に吹きつける。頭を冷やすには持ってこいだろう。

 とは言ってもやることはない。寝ようとするとつらい記憶ばかり思い出すのに、いざ目を見開いているとなにも脳裏を過らない。寝つけない時はそういうものだと割り切るしかないか。

 そうして所在なくぼーっとしていると不意に声が聞こえてきた。


「こんなところでなにやってんだよ」


 それは紛れもなく友の声だった。


「ごめん、起こしちゃったかな」

「いや暑くて起きた」

「そういうことね……気を遣って損したわ」


 本当にこの男は大胆不敵で臆面なくものを言うしマイペースだ。まあ、フラットなつき合い方ができるからいいのだが。


「あのさ……」

「なに?」


 緋色はただただバルコニーから星空を眺めている。彼には珍しく言葉を淀ませていた。

 黙って続く言葉を待つ。


「お前……死んでたんだな」


 彼の口が紡いだ言葉。それは残酷な現実だった。

 しばし返す言葉が見つからなかった。緋色と同じように僕も星空を見上げる。


「そうだよ。隠してたつもりは……ないんだけどさ。さっきの枕投げの時に気づいたのか?」

「ああ、九条が死んでるって言ってたから。まさかとは思ったけどな……どうりで強いわけだ」緋色が突然僕の方に視線を向ける。「なんか悪いこと言ったよな、俺。マジごめん」


 彼がなぜ謝るのか、僕には見当がつかなかった。しばしそのまま夜空を眺め、思案する。ふと心当たりが一つ思い浮かんだ。


「あー久しぶりに会った時のジョークか。いいよ、全然。気にしてないし。それに緋色のギャグが笑えないのはいつものことだろ?」


 そう言って僕は緋色に笑顔を見せた。

 正直どうでもいいことと言えばどうでもいいことだった。本人は忘れかけていたのだから。ジョーク一つで謝るなんて……律儀な男だな、君は。


「お前……サラッと酷いこと言うなよ。俺でも傷つくぞ?」

「ははは、ごめんごめん」

「まあ、いいわ。悪かったの俺だし」拗ねるように緋色がバルコニーの手すりに頬杖を突く。「生き返るために賢者の石を求めているのか?」


 突然話が変わり、変な間が空く。そういえば最初はそんな理由で愛梨彩と契約したんだっけ。


「それもあるけど……それ以上に今は愛梨彩の願いを叶えたいかな。魔女のいない世界。愛梨彩みたいな魔女が苦しまない世界をさ」


 死んだままでいい……というわけではないが、この体でも愛梨彩と一緒にいれば不都合はない。むしろ愛梨彩と一緒にいる口実になるし、魔力も得られるわけだから願ったり叶ったりだ。

 ただ愛梨彩が魔術式を放棄すれば、僕は死ぬ。僕が欲しいのはその後も彼女と一緒にいるために必要な肉体だ。だから、僕の願いは愛梨彩の願いが果たされないと意味がない。あくまでついでなのだ。


「お前には勝てねーわ。死んでるのにそんな理想持ってて……すげーよ、黎は」

「そんなことないよ。僕は……僕はただ愛梨彩のことが好きなんだ。彼女に幸せになって欲しい。それだけが僕の原動力」


 僕は緋色が言うような高尚な人間じゃない。もっとシンプルな人間だ。どうしようもなく愛梨彩のことが好きで、彼女の願いを叶えるために尽くしたい。

 そんな単純な男なのだ。だって好きな人の笑顔のためならいくらだって頑張れちゃうだろ?


「恋するおとこは強いな」

「ちゃ、茶化すなよ!」


 恋する漢って……全然カッコいい感じに聞こえないのだが。しかも図星だからまともな反論ができない。

 このやる瀬ない気持ちはとりあえず緋色の腕を小突いて発散することにする。


「わりぃわりぃ。けどカッコいいと思うぜ、お前のような局地的ヒーローも」

「局地的?」


 どこからともなく現れた『局地的』というワード。緋色がそんな言葉を知っているとは思わなかったが……とても素敵な響きに聞こえた。


「みんなを守るためとか世界の平和のためとか……そういう全体的なことじゃなくて大切な誰かのために、好きな人のために体を張れる……そんなヒーローってこと」


 ずっと緋色の背中を見てきた。憧憬の眼差しで彼を見てきた。そのたびに思ったのだ。


 ——僕は緋色のようにはなれないと。


 だから正直、ヒーローなんてものになろうなんて思わなかった。けど……


「カッコいいな、それ」


 ヒーローの形は人それぞれなのだとこの友人に教えられてしまった。


「だろ?」


 僕は押し黙って緋色の言葉を反芻した。

 誰彼のためじゃなく、たった一人のために戦えるヒーロー。

 大勢の人は守れなくても大切な人だけは絶対守り通すヒーロー。

 そんなヒーローになら僕でもなれるような気がする……いや、知らないうちになっていたのかもしれない。愛梨彩を守るためのヒーロー——魔女の騎士に。


「ずっとこうやってバカ騒ぎができたらいいのにな。喋ってみて思った。九条もフィーラもすっげーいいやつじゃんか。なのにあいつらは魔女ってだけで色々な苦しみ抱えてて……なんか納得できないわ。どうしてあいつらが普通に生きられないのかがわかんねーんだわ」


 急に感傷的になった緋色が弱音を吐くようなか細い声で呟いた。けれど、彼の言うことには同感だ。

 愛梨彩は死ねないことを嘆き、普通の生活から遠ざかっていった。フィーラは魔女の名家に生まれた重圧に苦しんでいた。生まれる場所が違えば、きっとこんな目には遭っていなかったのだろう。できることなら魔女ではなくなった彼女たちと青春を謳歌したかった。けど……魔女である以上それは叶わぬ夢物語だ。


「またパジャマパーティしようか、みんなで」


 だからせめてここで誓いを立てよう。全てが終わった後にまた穏やかな時間をみんなで共有すると。


「え……お前九条のパジャマ姿気に入っちゃった感じ?」

「違うって。はあ……今真剣に話してたんですけど、僕」


 結構いい感じの台詞言ったつもりだったのに……水を差されてしまった。これは緋色を睨まざるを得ない。僕の視線を受けた彼は「お、おう」とたじろいでいた。


「僕も彼女たちがありふれた日常の中にいて欲しいって思ってる。だから魔導教会を倒したらさ……みんなでまたこうやって笑い合える時間を作ろう」

「だな。俺たちスレイヴが主人の笑顔を作ってやらねーとな」


 にっかりと笑った緋色の顔は月明かりに照らされ、僕の瞳に輝かしく映った。これ以上の頼りになる笑顔を僕は知らない。改めて心強いと思えた。


「んじゃ、とりあえず今日は寝ますかね。穏やかな日常を作るために、明日も頑張らなきゃだしな!」

「ああ、夜更かししてたことがバレたらうるさそうだしね、あの二人。特にフィーラは『なんで私を混ぜないのよ!』って拗ねそうだし」

「それな」


 そんな会話をしながら僕らは部屋へと帰っていく。

 男同士、スレイヴ同士だからこそ話せること。主に対する僕らの想い。それを語れたのはとても有意義だった。

 僕は戦う。愛梨彩の笑顔のために。またみんなでバカ騒ぎできる未来を作るために。

 それが僕の魔女の騎士ウィッチ・ナイトとしての覚悟だ。

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