思う念力 岩をも通す 6
二年の棒取り。三年の騎馬戦。リレー。
全員参加の長縄跳び。
それから、グループ対抗による綱引きにリレー。
千尋は声が枯れるまで、精一杯応援した。
そして、楽しい祭りも終わりの時間を迎える。
体育館に集まった生徒達は、興奮冷めやらぬ様子で、あちこちで囁きあっている。
千尋は丁度前に座っていた勇樹を捕まえて、黙っていた経緯を問い詰めた。
「その方が面白いって公弘が言い始めたんだけどさ。まあ、オレも乗ってよかったなって思うよ。アンカーが公弘だってわかったときの千尋の顔、面白かったし」
「ゆーうーきー」
「あはは」
生徒会長がステージに登壇すると、体育館内は示し合わせたかのように静かになった。
みんなの視線が一点に集中する。
「それでは運動会の結果を発表します。長縄跳びの結果から。一番多く跳んだのは三年二組です。おめでとう!」
喜んでいる三年二組の中に、逆瀬の姿が見えた。逆瀬も、相好を崩して、隣の女子生徒と喜びを分かち合っている。
それから、委員長が登壇し、小振りなトロフィーを貰って掲げていた。
「そして、皆さん気になるグループ優勝は」
生徒会長の言葉が途切れると、ドラムロールが鳴り響く。
「……緑グループです!」
公弘、勇樹、逆瀬のいるグループだ。
歓声と、拍手が起こる。勝ちたかったという声もちらほろ聞こえて、中には泣いている人もいた。
千尋も勝てなかった寂しさはあるが、前にいた勇樹に素直な気持ちでおめでとう、と告げた。
そのまま閉祭式が行われた。
まだ、お祭り気分の抜けない千尋は、この二日間の思い出に浸った。
獅子屋との書道パフォーマンスに、公弘、勇樹と文化祭を回ったこと。今日のリレー。少しでも勝利に貢献できたこと。
そして――
千尋は右の方へと視線を向けた。
幸の横顔が見える。
同じ想いを持っていることが知れて、嬉しかった。
――こっち、向かないかな。
二回瞬きをして、諦めて前を向こうと思った瞬間、幸が振り返った。
目が合って、幸はピースをして笑う。
千尋もピースをして笑顔を返した。
学園祭の最後に、椅子を片付けてから帰ることになった。
持って行くときはまだ楽だったが、四階まで椅子を運ぶのはなかなか骨が折れる。
だらだらと教室へ持って行き、それぞれ家路につく。
今日も公弘達と帰るつもりで、二人は先に生徒用玄関で待っている。
「獅子屋今日すごかったな」
「そうか?」
「公弘は、僕の行ってた小学校じゃ一番足速いからね。」
「まあ、強いと思ったよ」
「だろ」
自分を褒められたように喜ぶ千尋に、でこピンをする。
「痛って」
「ばーか」
「ばかって言うほうがばかだ」
「あ?」
「休みが明けたら早く次の書、書こうぜ」
「おう」
家に帰り、お風呂に入ると、すぐに睡魔が襲ってきた。
ミケの喉を擽りながら、思い出す。
「あ、真藤さんにまだ送ってない!」
起き上がってスマホを手にする。
そういえば、どう撮れているんだろうか。
動画を再生しながら、自分の必死に書いている姿になんだか気恥ずかしくなってくる。
――約束、しちゃったもんな。
とりあえず、真藤へ送り、それからついでに獅子屋にも送ってあげた。
それから、枕へと顔を埋めた。
「おやすみぃ……ミケ……」
ミケは疲れた主を気遣ってか、にゃあと一言返事をすると千尋の横で丸くなった。
つづく
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