進めなかった時進みたかった季

勅使河原 海雪

第1話

いつもと変わらない朝


いつもと変わらない起きる時間


いつもと変わらない


いや


変わってしまった隣の空間


私は


まだ


心を置き去りにしたままで


────


私には恋人がいた


高校の時知り合った


同じ部活だった


その人の隣は心地よかった


おしゃべりしたり


一緒にご飯食べたり


テレビ見たり


本読んだり


音楽聴いたり


何もせずただ寄り添っていたり


ただその人と同じ空間同じ時を生きてるだけで


幸せだった


────


恋人は同性だった


私たちの周囲はとくに偏見の目ではなかったのだけれど


どちらの親も


私たちの関係を許してはくれなかった


特に恋人の父親は酷かったなあ


絵に書いたようなエリートだったから私たちの非生産的な関係を真っ向から反対してきた


何度も無理やりお見合いさせられたりしてたなあ


今となってはいい思い出


とも言い難いけどそんな思い出も私には大切な宝物


────


恋人が死んで何年経っただろう


私はただ毎日起きて仕事して寝てを繰り返す機械になっていた


特にすることも無い


あなたがいないと何もする気になれない


私はこの先どうしたらいいんだろう


────


先日


職場の人から告白された


年上の人だった


でもその人の言葉を聞いても何も感じなかった


私は


私の心を揺るがすのは


あの人だけ


ごめんね


あなたが悪いわけじゃないの


私が悪いの


進めない


立ち止まりっぱなしの私が


────


起きて仕事して寝てを繰り返すこの日々に


私はもう疲れた


お見合いさせられたり


合コンしたり


たくさんの人達と会ってきたけど


でもあなた以上の人がいない


一挙一動で


私の心拍数をはね上げる人はいない


あなた以外に


でももうあなたはいない


だから




「あなたのいる所に行くわ」


待たせてごめんね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

進めなかった時進みたかった季 勅使河原 海雪 @kawa__yuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ