ぬくもり

勝利だギューちゃん

第1話

子供の頃、まだ物心がつく前なので、

記憶には殆どないが、両親の膝の上に座っていた。


とても、温かった。

それだけは、覚えている。


でも、いつしか自分が親になり、我が子を膝の上に座らせる。

(この子は、俺のぬくもりを、覚えていてくれるだろうか・・・)

ふと、考える。


でも、俺も時々、親のぬくもりが恋しくなる。

親子とは、そういうものだろう・・・


だが、もう俺には親はいない。


いつしか、我が子、娘も高校生となった。

(お袋に似てきたな)

そう思う。


だが妻には似ていないのは、どうしたものか・・・


妻も若い頃に他界したので、男手ひとつで育ててきた。

もう、思春期で反抗期なので、干渉はしていない。


ただ、挨拶だけはするようにと言っている。

素直なのか、憐れんでるのか、それだけは守ってくれている。

いい娘だと、自分でも思う。


俺は仕事がら、娘より後に家を出る。

そして、娘が出かけると、遺影に手を合わせ、

娘の成長を、妻に報告する。


優しく、美しく。

そうなるように、夫婦で考えて、娘には「優美(ゆうみ)」と命名した。

幸い、友達も多いが、これは妻のおかげだろう。

感謝している。


そういや、今日は俺の誕生日だ。

優美には、気にしないように言っているが、やはり期待している。

まあ、誰でもそうだろう。


出かける前に、食器洗い洗浄機に食器を入れて、スイッチを押した。

少しでも、楽をしたいと、導入した。


そして、出かける前に、食卓の上を見ると、メモ書きがあった。

優美からだった。


そこには、こう書かれていた。

「お父さん、お誕生日おめでとう。いつもありがとう。

今日は、早く帰ってきてね」


俺は仕事を早目に切り上げて、帰宅した。

時刻は、8時前になっていた。


そして、玄関のドアを開けた。


「お父さん、お帰り。お誕生日おめでとう」

そういって、優美はプレゼントをくれた。

開けようとしたが、優美に、

「照れくさいから、後にして、それよりも・・・」


食卓を見ると、ご馳走がならんでいた。

どれも、俺の好物だ。

「がんばって、作っちゃった」

優美は、笑みを浮かべた。


いつも、料理は俺がしている。

なので、優美の手料理を食べるのは、初めてだ。

「お父さん、私ももう高校生だよ。このくらい出来るよ」

食べたみた。


美味い・・・とても、美味い・・・

涙が止まらなかった・・・

「お父さん、泣きすぎ。弱虫だね。相変わらず」


優美は、いろいろとお話をしてくれた。

学校の事、友達の事、こんなに話すのは久しぶりだ。


「じゃあ、デザートはケーキね。これも、私の手作りだよ」

イチゴのショートケーキだった。


とても、美味かった。


「お父さん、後は私がやるから、今日は休んで」

優美に言われて、部屋に戻った。


先程、優美からもらったプレゼントを開けてみた。

そこには、意外なものがあった。

ネクタイでも、ゴルフボールでもない。


俺と優美のぬいぐるみがあった。

手紙が添えてあったので、読んでみた。


いつから俺は涙線が弱くなったのか、涙が止まらなかった・・・

『大好きなお父さんへ


いつもありがとう。

照れくさくて言えないけど、とても感謝しています。


忙しいのに、家事もしてくれて、学校にもいかせてもらって、

お母さんが亡くなってから、男手ひとつで私を育ててくれて、

本当にありがとう。


ふしだらな娘ですが、これからもよろしくお願いします。


このぬいぐるみも、私の手作りだよ。

ナイトテーブルにでも、飾ってね。


お父さん、ありがとう。』


俺は、久しぶりに家族のぬくもりに触れた。

そして、娘は着実に成長してくれていることを、嬉しく思った。




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ぬくもり 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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