五十嵐さんのコンビニ

うさぎやすぽん

五十嵐さんのコンビニ

 五十嵐さんのコンビニ



 コンビニが好きです。そこにあるものは、全てが可もなく不可もないからです。

 私は一日三食をコンビニで済ませます。昨日は、朝は家の前のファミリーマートで買ったクリームパンとコーヒー牛乳、昼は職場の前のセブンイレブンのおにぎりを二個、そして夜は家の前のファミリーマートのスパゲッティを食べました。

 どの味も、いたって普通です。特に感想はありません。コンビニの味がする、と言えばいいのでしょうか。私は、いつも、あの白い蛍光灯に照らされた、いつでもあるあのコンビニの中で、コンビニの味にお金を払っています。

 職場でいつもコンビニご飯の私を見て、たまには外食や自炊をしたらどうか、と言ってきた人がいましたが、お節介だとしか思いませんでした。私は、入ったレストランの料理に期待をしたり、自分の腕に期待をしたりするのは嫌でした。

 そういう性格が災いしてか、二十四になる歳なのですが、これといった友人や、恋人もいません。まあ、私を友人としても女性としても期待できるような人間ではないと、周囲も私も納得しているでしょうし、そのことには疑問を覚えませんでした。

 コンビニは良いです。別に、私はコンビニに何も期待していません。だからその、いつも可もなく不可もなくを提供してくれるのはたいへんありがたいことでした。裏切られることがないからです。



 一月も半ばに差し掛かった金曜日です。とはいえ、私の住んでいる街は、いつもひっそりとして静まり返っているので、正月のムードなんてものは元から作られないので、いつも通りのひっそりとした夜道でした。私は夕飯を買うべく、いつも通りの道を歩いてファミリーマートへと向かっていました。

ファミリーマートは、アパートからは徒歩三分もかからないところにあります。玄関を出ると路地があり、人が二人通れるほどの路地は片側が全て黒ずんだセメントの塀。その奥には家屋が数軒並んでるように見えますが気にするような外見ではありません。もう片側は、私の住む鉄骨の白いアパートと、玄関に鬱蒼と木々の生えている家屋が一軒並んでいます。そこを抜けると街灯がぽつぽつ並んでいる一方通行の通りに出ます。そこをまた左に曲がって数メートル、今度は大通りに出るので、右に曲がって、煉瓦で舗装された歩道を歩いていくと、工事中の土地の隣にファミリーマートがいつもと同じ輝きをもって佇んでいます。

店内に入り、私はいつものようにチルド商品のコーナーへと向かいます。窓側の雑誌の棚と、文房具と日用品の棚の間の路地をぬって奥の冷蔵庫へと向かいます。いつもより冷蔵庫の棚が明るく見えましたが、それは商品がそこそこ売れてしまったということなので、かえって選ぶ手間も省けていいと思いました。別に、何を食べるのでもいいのですが、目の前に選ぶものがいっぱいあるとびっくりして何を選んでいいのかわからなくなるので困ってしまいます。私はちょうど、その日はお腹が減っていたので、なるべくカロリーの高そうなものを、と思って、下の方に一つだけ残っていたドリアを手に取りました。

そして、レジに向かおうと、また同じ道を辿っていこうとしたときです。

「えっ、五十嵐?」

 はて、と思いました。というかびっくりしました。びくっ、として私がその声の方向に目を向けると、黒い影、それがダッフルコートだと気づいて、また私は顔を上げますと、男の人の顔がありました。

「ひっさしぶり! マジかよすごい偶然だな!」

 清潔感のある黒髪の短髪で、少し眉の太く、目のぱっちりとした男の人でした。その人の顔には見覚えがあります。高校生三年間と同じクラスだった日吉君です。

「日吉君」

「おっ、五十嵐、ちゃんと覚えてくれて安心したよ。忘れられてたらえらいショックだったわ」

「どうしてここにいるの」

「どうしてもこうもねえよ。俺だってコンビニぐらい行くぞ。腹減ったからなんか買いにきたんだよ。五十嵐も? それ晩飯?」

 高校時代、私は日吉君とそこまで喋ったことはありませんが、私は日吉君が少し苦手でした。日吉君は、声が大きく、クラスでもなかなか目立つ方でした。人当たりも良いので、多くの友人がいたように思います。この私にも、よく喋りかけてきたのですから、相当な人の良さです。人望はとても厚く、また中には日吉君は天才だと言うような人がいました。確かに、いろんな芸に長けているところがあったように思います。美術や書道のような時間ではよく先生に褒められていたように思いますし、文化祭のときは一人で大人数の前で漫談をして、大いに場を沸かせていました。でも、私は日吉君があまり得意ではありませんでした。

 日吉君は、とても感情的な人でした。些細なことで大喜びして、些細なことで怒りだし、些細なことですぐ落ち込んでいました。そんな日吉君をクラスメイトの人たちは面白がっていました。

 ただ、私は、その日吉君の感情が理解できませんでした。どうして、そんな些細なことで、一喜一憂するのだろう、私はそう思っていました。

「なにそのドリア。すげー美味そう」

 こんな風に、私が持っているドリアを眺めて、表情をばたりと変えます。私はそんな彼が少し苦手でした。

「美味しくないよ。可もなく不可もなく」

「えっ、じゃあ、なんでそれ選んだの。てか美味そうじゃん。最近コンビニもやるからなあ」

「コンビニの味がするから」

「コンビニの味」

 私がそう言うと、彼はまた表情をばたりと変えて、きょとんとしました。

「なんかわかる気がするけどなあ。でもせっかくだし美味しいもの食べたいじゃん」

「私は、別に。コンビニでいい」

「五十嵐いつも何食べてんの」

「コンビニのやつ」

「毎日コンビニ? えーっ、女の子なのに。身体に悪いよ」

「いいの。毎日コンビニでも困らないから」

 彼は、やっぱり、このいつも変わらない明かりの下で、ころころと表情を変えます。ほお、とか、へえ、とか、ええっ、とか、そんなことを言います。なぜ、そんな風に、私の話で盛り上がれるのか、わかりません。なんで、彼がちょっと、今、そのごつごつとした、血管の浮き出た、男の人の手を口に当てて考え込んでいるのかわかりません。

 そして、日吉君は、ぱっ、と表情を変えました。とても、嬉しそうで、にい、と上がった口角が、高校生のときと全く印象が変わらなくて、ああ、日吉君の顔だ、と私は思いました。

「じゃあさ、せっかくだし、なんか食いにいこーぜ。飲もう飲もう」

 不味いことになった、と思いました。彼のこの誘い口調には覚えがあります。

「最近こっちに引っ越してきたんだけど、全然友達がいなくてさー。飲み友達欲しかったんだよ。ほら、そんなドリアよりももっとさー、楽しい飯のほうが良いじゃん。せっかくだしさー、久しぶりに会ったんだから積もる話もあるでしょ」

 日吉君は、高校生のときから誰ふりかまわず何かを誘いかけるような人でした。高校生の頃、全然話したことのない私に、「明日誰も遊ぶ人がいないんだけど、五十嵐一緒に映画いかね?」と、ただ、席が斜め後ろだったから、という理由で誘われたことがありました。ぎょっ、として私が何も言わずにいると、見たい映画があるだとか、小林は彼女とデートだしとかそんなことをまくしたてて話して、私をたいへん困らせたものでした。なんとかそのときは断ることが出来ましたが、とても労力を使った覚えがあります。

「えっ、私は――」

「五十嵐もこの辺じゃ高校のときの奴いないでしょ。いいじゃんいいじゃん。俺奢るから」

「で、でも」

「明日土曜だし。今日もう用事ないでしょ。じゃあ、行こう。コンビニの飯ばかりじゃ身体に悪いよ」

 こうなるともう大変です。なんとか断ってこのドリアを買う理由を考えましたが、日吉君はいつの間にか手にしていた私のドリアを棚に勝手に戻して、それも、私の取ったところとは別のところなのですが、そして、きょとんとしている私を、にこやかな笑顔でコンビニから追い出すように背中を押すのでした。


 日吉君が「どこで飲む?」と聞いてきたので、「なんでもいい、安くて無難なところ」と私は答えました。そして日吉君が目につけたのは、どうやらチェーン店の居酒屋のようです。日吉君は、ここなら何を食っても無難、と言って私ににこやかな笑顔を見せました。

 店内は薄暗いのか明るいのかよくわかりません。明るく見えたのは店員さんがはきはきしているからのように思います。黒い木の板の床をのしのしと進んでいくと、周りが仕切りで囲まれた四人掛けのテーブル席へと通されました。頭上にはオレンジ色に光るランプがひとつあります。明るい色の木の板のテーブルは、ワックスのおかげでぴかぴかと光っていました。

 お酒はたまにコンビニで発泡酒かチューハイを買うぐらいで、あまり詳しくありません。注文を日吉君に任せると、日吉君に、ここはビールより金麦の方が美味いのだ、と言われて、金麦を二つということになりました。金麦ならコンビニで買って飲んだことがあります。キャベツ盛り、チャンジャ、唐揚げ、つくね、砂肝、と日吉君は注文してくれました。「身体に良さそうなもの食べないとな」と言ってサラダも注文してくれました。ジョッキが届いて、ぎょっ、としました。余りにも大きな、両手で掴んでも指先が触れ合わないほどの大きさだったからです。日吉君はそんな私を見て嬉しそうに笑いました。何が面白いのかわかりません。

「じゃあ、乾杯」

 届いたお酒の味は、可もなく不可もなく、といったところで満足しました。料理も、コンビニで食べるような味とたいして変わりません。出来立てである、といったぐらいの違いがあるだけだと思いました。人件費や家賃を考えると、妥当な値段のように思います。

「いやー、ほんとほんと久しぶりだよなあ」

 少々顔を赤くした日吉君は、どこからそんな会話の糸口が見つかるのか、と思うぐらい喋りました。私も、当たり障りのない、可もなく不可もない返事を続けます。そんな風にしていると、五十嵐は卒業のときからなんにも変わらねえなあ、と嬉しそうに日吉君は言います。日吉君もあまり変わってないと思ったのですが、それに関して嬉しいと思わないのが、私でした。

「いいもん食おう! って思ったのに五十嵐のリクエストに応えたら身体の悪そうなもんばっかりになってしまった!」

「コンビニの味が好きだから、私はこれでいい」

「なんでそんなコンビニ好きなんだよ。あそこのファミマの隣さ、なんか美味そうな中華屋さんあるじゃん。小洒落た感じの。どう、美味しいの?」

「行ったことないからわからない」

「うわー、ザ・五十嵐」

 けらけら笑う日吉君の人懐っこい顔が、ほんのり暗いこの居酒屋で、明るいオレンジのライトに照らされて、苦手だと思っていた日吉君にも、なんだか不思議と慣れてしまいました。


 話は飛びに飛んで、お腹もいっぱいになってきて、日吉君が三杯目の金麦を頼んだ頃でした。私はまだ一杯目も飲み干せていません。こんなに一杯お酒が飲めるのかわからないので不安でした。日吉君がトイレへと立ち上がって、帰ってきたとき、先ほどまでの、にこにこ、とした笑顔でなく、少しだけ落ち着いたような表情になっていました。それでも、人懐っこさを感じさせるほどでしたが。

「五十嵐さ、小説とか読む?」

 突飛もない質問だったので、しょうせつ、と私が返すと、小説、と日吉君は頷きました。私は小説が嫌いなわけではなく、例えば芥川龍之介だとか、遠藤周作だとか、そういうものを選んで読むことはありました。でも、別にそれは好きとかそういうことではなく、ただ、教科書とか、出版社とかが、選んだ読むべき本、みたいなものを読んでいたにすぎません。名のある昔の作家のものなら安心して読めるだろうと思って読んでいたので、最近の作家なんてのには明るくありませんでした。

「読むことは読むけど」

「マジ? あのさ、ちょっと変な話するけど」

「変な話」

うん、と日吉君は頷きます。

「俺さ、作家になりたいんだよね」

「作家」

 うん、とまた日吉君は力強く頷きました。

「そうなんだ」

「そこで、すごーい、とか、どんなの書いてるの? とか言わないのが、五十嵐って感じするな」

 日吉君はそう言うと、照れたようにして金麦を一口飲みました。

日吉君が作家になる、考えたこともありませんでしたから驚きはしましたが、別にそこまでびっくりするほどでもないとおもいます。日吉君は、また、何か言いづらそうにして、私をちらちらと見ます。

「読んでみてくれない?」

「えっ?」

 そんなことを言われると思ってなくて、私は思わず固まってしまいます。日吉君は、ちょっと気まずそうに、視線をテーブルに落としました。

「あの、こんなことを頼むのもなんだけど」

そして、ふう、と息を吐きます。

そんなことを言われると思ってなくて、私は思わず固まってしまいます。日吉君は、ちょっと気まずそうに、視線をテーブルに落としました。

「いや、嫌だったらいいんだけどさ、なんか五十嵐のアドバイスとか聞いてみたいんだよね」

「なんで、私なの」

「いや、なんかこう、五十嵐って、昔っからちょっと一歩引いて物事見てるじゃん。だからいいアドバイスとかできそうだなって思って」

 私が、アドバイス、考えたこともないことでした。そもそも誰かに意見をすることなんて、最後にしたのはいつだったか覚えていません。別に誰も私の意見なんて必要としないだろう、と思ってばかりでしたし、人のしていることにどうこう思ったこともあまりありません。

 私がなんて言おうか迷っていると、日吉君は、やっぱりあのいつもの笑顔を取り戻して言いました。

「他の奴に頼んだらみんなすぐ食いつくけどやっぱ五十嵐は違うな」

 日吉君は、またなぜか嬉しそうでした。

 そしてそのあとは、金麦を飲み終えると解散となりました。私は割り勘で、と言ったのですが、日吉君はいやいや、と私を制して全て奢ってくれました。なんだかもやもやしてしまいます。その後、日吉君に押されるがままになって、連絡先を交換しました。ファミマの前まで送ってく、と言った日吉君にまた押されて、私と日吉君は一緒に歩きました。

 そして、私にとってのいつものファミリーマートの前で、日吉君に手を振られて別れました。私が手をあげると、日吉君は、ファミリーマートの白い光を浴びせた顔を、にい、と笑みに変えました。いつもの道を、通って、私は帰ります。家の前の小さな路地に入ったときに、私のアパートの隣の家の木に、小さな赤い花が、ぽつ、ぽつ、と咲いているのに気が付きました。



 お酒が残らずに朝を迎えることが出来て安心しました。私はいつものようにコンビニに向かい、朝は、ドーナツとコーヒー牛乳を買いました。仕事の昼休みは、サンドイッチとサラダ。夜はおにぎりと野菜スープ。いつものようにコンビニに通う日です。

 メールボックスを開くと、日吉君からメールが届いていました。「昨日はありがとう!」という、日吉君にしてはあまり口数が少ない文章とともに、ワードファイルが届いています。「永遠なもののたとえとして」これは小説のタイトルでしょうか。開いてみると、縦書きの明朝体の文章がびっちりと詰まっています。文字数を確認すると八万字ほど。確かにこれを読んでほしいと頼み辛いものであると思います。

 スープを食べながら、なんとなく昨日の日吉君を思い出して目をやりました。別に日吉君とまた一緒に飲みたいなんて思っていなくて、むしろ会うと困ってしまうのですが、なんとなく私の目は、白く光るパソコンに浮かぶ文字を追っていました。日吉君の文章は読みやすく達者でした。むしろ読みやすすぎる、という方が正しくて、いつの間にか私は五千字ほども読んでいたようです。すらすらと読めてしまうその文章は、なんだか、心に残りづらいと言いましょうか、読めてしまうのですが、あの、可もなく不可もない、のような内容なのが、日吉君らしくなくて意外だと思いました。しかし、私はずっと追っています、なんでしょうか、安心感、があるような気がします。

 そして、だいたい半分ほど、その夜のうちに、いつの間にか読み終わってしまいました。もう寝ないといけないような時間です。私はニトリの通販で買ったベッドに入り、眠ることにしました。今日も落ち着いて寝られるようです。私の毎日に変わりはありません。

 そのとき、ふと、日吉君の小説は、コンビニみたいだ、と思いました。


 その小説が読み終わったのは、その次の日でした。私は、別に義理はないとは思うのですが、日吉君に感想を伝えたほうがよいだろうと思って、メールを送ることにしました。ただ、私が小説についてどやかく語る資格はないように思えましたので、率直に思ったことだけを言うことにしました。

「小説読みました。文章が読みやすく、安心感があります。コンビニみたいです」

 それだけを、私は送信すると、日吉君からメールがすぐ帰ってきます。

「詳しく話が聞きたい。金曜日空いてる?」

 そのメールが届いたと同時に、日吉君から電話が来てびっくりしました。日吉君は少し興奮したように、読んでくれてありがとう、だとか、最後まで読んでくれたの五十嵐ぐらいだ、とか、嬉しそうな表情が電話越しにもわかるような声でまくしたてて、そして、あれよあれよと金曜日の夕食を一緒に食べる約束をしてしまいました。日吉君の誘いを断ることはやはり難しいようです。

 気があまり向きませんでしたが、私と日吉君は金曜日に駅前で待ち合わせをして、近くのファミリーレストランに行くことになりました。居酒屋と違って、開放的な窓があるおかげでしょうか、照明もテーブルもそこにいる人もどれもかれもが明かるく見えました。つるつるの紙で出来たメニューから、私はハンバーグセットとオレンジジュースを注文しました。日吉君は、ビールとサラダ、そしてポテトフライと唐揚げ、と、まるで居酒屋に来たかのような注文をします。

「コンビニみたい、って、どゆこと?」

 料理が届くよりも前に、日吉君は神妙な顔をして尋ねました。私は、答えに詰まってしまいます。そう思ったのはいいのですが、それがどういうことかはあまりよく分かっていなかったのです。

「安心感があって、でも、何もかも、可もなく不可もなく、みたいな感じがした」

「可もなく不可もなく」

「コンビニの味。日吉君の小説は」

 日吉君はそれを聞くと、ううん、と唸り声を上げました。そのときにビールとオレンジジュースが届きました。日吉君のビールのジョッキはよく冷えていて、少し凍ってるようだと思いました。

「それって、多分あれだなあ。なんか、全部どこかで食べた味みたいな、予想通りの味がする、みたいな感じ」

「でも、悪いものじゃない気がする」

「良いものでもないんだよなあ。そう、みんな、あんまり読んでくれないんだ。感想もちょっと濁したような感じだし。つまんないならつまんないってはっきり言ってくれたらいいのに。どこがつまんないのか聞きたいのに、こっちは」

「でも、私は読めたよ。なんか、安心して読めた」

 すると私のハンバーグセットや日吉君の注文したものが届き始めます。鉄板でやってきたのでややびっくりしましたが、味は可もなく不可もなく、コンビニの味に似ていると思いました。それよりかは少し美味しいかもしれません。日吉君はビールを飲みながら、何かを考え込み、そして少し納得したような顔をして、そしてまた私に別の小説を読んでくれないかと頼みました。私は、うん、と頷きました。

 それから家に帰ると、またしても小説が届いていました。今度は短編のようなので、それも三作ほどあったのですが、私は一作その日のうちに読み終えました。やはり、可もなく不可もなく、でも読める、というものでした。その次の日にも読みました。それも、そして最後に読んだやつも同じような感想で、私はその感想を日吉君に送りました。

 それからは日吉君からはあまり小説が送られてこず、いつの間にか二月も終わりに差し掛かろうとしていたときです。私は毎日、いつも通りコンビニに通っていました。家に帰ろうとしたとき、隣の家の濃い緑の鬱蒼とした木に咲く赤い花が目に止まります。それが椿であるということを、私はこの前知りました。

 日吉君からメールが届いていました。あれから日吉君には会っていませんでしたので、日吉君のことなんてすっかり忘れていたものです。そこには「大観覧車の骨組」というタイトルのファイルが添付されていました。私はそのファイルを開けます。前と同じように、びっちりと文字が縦書きで並んでいました。八万七千字、といったところでしょうか。あれから新しいものを書いてみた、と日吉君はメールに残していました。私は、ぼんやりとその文字列を追い始めます。

 少し、読みにくい。そう、思いました。それでも、私が読める程度なのですが。どこがどう、というのはわかりません。やっぱり文章は達者でとても読みやすいのです。でも、なぜでしょうか。前の様に、すらすらと読めてしまうような安心感がありません。前は一日で半分も読めたのに、今回は、二万字ほど読んで疲れてしまって、私は寝てしまいました。

 翌日、また夜に読み始めます。なんだか、その日食べたコンビニのドリアから味があんまりしないような気がして悲しいです。ようやく半分読めて、また次の日、次の日、と読んで読み終わりました。

 なんでしょうか。感想を送ろうと思って考えるのですがあまりわかりません、しかし私は、面白い、とは思っていたのです。素直に日吉君に「前より面白かった」と言いました。「コンビニの味がした?」と聞かれたので、「あんまりしなかった」と答えました。すると、突然また電話が来て、今から飲みに行こう、と言われました。はて、と思っていたのですが、断るのも面倒だ、と思って、私は日吉君と前に行った居酒屋に行きました。日吉君は嬉しそうな顔をして、六月に公募の賞に出すのだとか言っていました。その日は日吉君が全額出してくれました。また私が払い損ねてしまいましたが、日吉君はニコニコしていました。

 三月の終わりになっていた頃です。夜道を歩いていると、ファミリーマートの隣の工事中のところでは、なにやら木の枠組みが出来ていたのに気が付きました。一軒家になるのでしょうか。ファミリーマートでサラダとおにぎりを買いました。家の隣の庭先に、小さな桜の木があるのに気が付きました。もう、蕾のさきはふっくらとして柔らかなピンク色をしていました。おにぎりを食べながら、新しく届いた日吉君の小説を読みました。また、読みづらくなっていて、読み終わるのに数日かかりました。でも、どんどん面白くなっています。日吉君にそれを伝えると、また二人で飲みに出かけることになりました。

 そういう風に、四月、五月と過ぎていきました。日吉君の小説を読む以外、私の日々は、変わらずコンビニに通う日々です。しかし、なんでしょうか。私はいつの間にか、日吉君の小説を読むことが、そして新しく小説を読むことが楽しみになっていたような気がします。

 日吉君と飲むことも別に嫌なものじゃありませんでした。相変わらず、喋るのは日吉君ばかりでしたが、日吉君は小説の感想を言う私に対して、いつも「流石五十嵐だ」と言いました。どの辺りなのかが流石なのかわかりませんが、少し嬉しい、と思っていました。


 六月になりました。外に出るとジメジメしています。梅雨でしょうか。隣の家の庭先には、大きなとげとげとした葉が重なっている中に、水に絵の具を垂らして染めたような色の紫の紫陽花があることに気が付きました。去年も生えていたのでしょうか。それすら私は思い出せませんでした。

 日吉君からメールが届いていました。「渾身の一作」というタイトルのファイルが添付されていて少し可笑しいです。私は、すぐさまそのファイルを開けました。少し、開くのが怖かったような気もあります。なぜか、心臓が、いつもよりも大きな動きをして、どくん、どくん、と血を送っているような心地がしました。

 その小説のタイトルは「永遠なもののたとえとして」日吉君が初めて送ってくれた小説と同じタイトルです。しかし、その内容は、まるで違いました。なぜか、私ははらはらとしています。なかなか読み進めることができません。でも、面白い、そう思いました。前のものとは全く違います。息が、詰まるような心地でした。目が、釘づけになりました。その感覚は、ずっとなかったもので、私は困惑しました。読むのをやめようか、と思いました。でも、私は、何度も何度も休憩をはさみながら、その小説にかじりつきました。気が付けば、夜が明けていました。

 なんと感想を言えばいいのかわかりませんでした。私は日吉君にメールをすると、日吉君はその日も飲みに行こうと誘ってくれました。断る理由がありませんでした。むしろ感想を言うために会わねばならないと思っていました。私は少し、浮いたような足取りでいつもの居酒屋に向かいました。

 日吉君と金麦を飲みながら小説の話をしました。日吉君に「面白かった、とても」と言うと、日吉君は、にい、と嬉しそうに笑いました。

「ようやく、わかったんだよ。五十嵐、ありがとう」

 そして日吉君は、その月の公募の新人賞に出すだとか、そういうことを話しました。私は、「それはいいと思う」と素直に言いました。そんな風に、日吉君のことに関心を持っているのが意外でした。

 そして、その日は日吉君がたいへん機嫌が良かったので、とりとめもなく高校時代のことを話しました。日吉君は、あいつはことをしていた、とか、あいつとあんな馬鹿なことをした、などと嬉しそうに語りました。私にはそんなに思い出がありませんでしたので、日吉君の話をうんうんと聞いていました。それでも、いつもより面白く話を聞けていたと思います。

「そういえばさ、永井、結婚するんだってな。村岡と」

 にこにこ、と日吉君がそのことを言ったとき、「ふうん」と私は返しました。そう返せたことに、少し安心しました。

「あいつら高一の頃から、ずっと付き合ってよく長く続いたよなあ」

「そうだね。凄いね」

「五十嵐は結婚相手とかいねえの、彼氏とか」

「いないよ」

「えー。五十嵐いい奴なのになあ」

 私は、一度だけ恋をしたことがありました。

 その相手は永井君と言います。マッシュルームみたいな髪型をしているのに、きりっ、とした顔立ちがとても整っている、サッカー部の男の子でした。

 高校一年生のとき、私は彼を見るだけでどきどきした覚えがあります。どうしたら話せるか、どうしたらメールアドレスを交換できるか、どうしたら彼が私のことを好きになってくれるのか、そんなことを考えてばかりいました。そんなことで、どきどきして、わくわくして、喜んで、悲しんで、寂しくなって。なんだか、よくわからないことになっていました。可愛い女の子の出ているような雑誌も買って、わくわくしながら眺めました。こんな風になりたいなあ、なんて、モデルの女の子の着ている服の値段を調べたりもしました。

 でも、私は永井君と結局一度ぐらい話しただけで、永井君はクラスで一番かわいかった村岡さんと付き合うことになりました。クラスのみんなでそれはもう大盛り上がりでした。村岡さんのことが好きだった男の子は泣いたりしたそうです。

 私は、そのとき、なんだか急に馬鹿らしくなってしまいました。今までの感情、全てが無駄だったような気がしました。一体、何を馬鹿らしく考えていたのか。そう思うと、寂しくて仕方なくなりました。

 そのあとは、永井君について、何も思わないようにしました。何かを思ったって、どうしようもなく寂しいことがわかったからです。

 誰かにも、自分にも期待しても、仕方ないことだと思いました。

「村岡みたいな美人の嫁さん欲しいよな。味噌汁とか作ってもらってさ」

 そうだね、と私は言いました。日吉君は、へへへ、と照れたようにして笑いました。

 私には、コンビニがあるから、そう思うと、なんだかちょっと寂しくなりました。



 それから、七月、八月と月日は流れていきました。紫陽花が枯れるとちょっと寂しいような気持ちになりましたが、隣の家の庭先にある植木鉢には、黄色い小さな花々が、もじゃもじゃと咲いていました。流石に窮屈そうです。コンビニに通えば、ざる蕎麦を選ぶときが多くなりました。ファミリーマートの隣には一軒家が二軒ならんで建っていました。白いセメントのガレージがつるつるとしていて、壁も真っ白の四角い家でした。窓の形が円くて、多分お洒落なのだと思います。

 相変わらず、日吉君から小説が送られてきます。私は、それが届くと少し嬉しくなっていました。逆に、間が空くと、なんだか不安になってしまっているのが嫌でした。

 九月、十月とまた過ぎました。家を出ると、穏やかに、フルーツのような香りがしました。隣の家の庭からのようです。深緑のつやつやした葉の木に、小さな橙色の花がぽつぽつ咲いています。金木犀のようです。ファミリーマートの隣の家には、赤い小さな車が停まっていました。外車のようです。もう誰かが住んでいるのでしょう。玄関に置いてある植木鉢から可愛いお花が咲いていました。名前もわかりませんが、植木鉢が素敵なのできっと素敵な家族なのでしょう。

 日吉君の小説も相変わらず面白いです。一度、送られてきた短編が、あまり面白くなかったときは、なんだか、えっ、と寂しくなってとても嫌でした。日吉君に伝えるか悩んで、うっ、となってしまったので、その小説のことは忘れることにしました。


 そして、十一月に差し掛かったところ、日吉君から電話が来ました。

「最終選考に残った!」

 えっ、と声が裏返ってしまって恥ずかしいです。ちょうど、私はファミリーマートでおにぎりを買っていたところでしたので、辺りをきょろきょろ見渡して他にお客さんがいないことを確認して、ほっとしました。

「五十嵐のおかげだよ、マジで、ありがとう、ありがとう」

 日吉君はそう言って、何度もお礼を言いました。私は何もしていないのに、と思いながらも、どうしてか私は、とても嬉しく思っていました。こんなに、嬉しい、なんて感じたことは久しぶりなような気がします。それも、日吉君のことで喜んでいるのが、不思議です。

 日吉君によると、どうやら最終選考の日に、日吉君に電話がかかってくるとのことでした。その電話で、受賞か落選かが決まるそうです。十一月の下旬の木曜日でした。私は、カレンダーを確認するだけで、どきどき、としました。そしてその日、日吉君は私に夜に予定を空けておくように、と言いました。電話が来るのはきっと夜だから、一緒に受賞連絡を待とう、とのことです。私は、うん、と二つ返事で返しました。


 一日がこんなに遅く感じるのは久しぶりでした。毎日が進むのが遅くて遅くてたまりません。なんだか、苛々して、とても嫌な気分です。でも、いつの間にか、日吉君と約束していた木曜日になっていて、その日になったときはきょとんとしました。我ながら、感情が忙しいと思います。

 いつもの居酒屋に行くのか、と思っていると、日吉君は駅前で集合だと言いました。確かにがやがやした店で電話をするのはよくない気がします。ファミリーレストランに行くのかな、と思って駅前に出ると、日吉君はいつもよりちょっといい服を着てやってきました。

「じゃあ、行こう」

 どうやら少し緊張したような声色です。日吉君もそんなところがあるのか、と思うと少し面白く思いました。日吉君のあとについて、駅前の大通りを歩きます。いろんな光の看板が、ちらちら、と目に映りました。カラオケ、ファミリーレストラン、駐車場、薬局、不動産屋、青、緑、黄、青、とまばゆい光が目に止まります。

 そして、日吉君はその中にある、ひっそりとした路地の中に入って行きます。はて、と思うと、小さな雑居ビルの前で立ち止まって、そこにある地下へと続く階段に降りていきます。はて、と思っていると、階段の奥には扉があり、そこには「焼肉」という文字がありました。

「たまにはね、いいと思ってさ」

「えっ、こんな、高そうなお店」

 店内は薄暗く、しかし焼肉のイメージとは程遠いような綺麗な内装です。煙臭さもありません。テーブルも、ぴかぴかにワックスが輝いている木目のものでした。日吉君は「予約していた日吉です」なんて言って、スーツを着たお姉さんに案内されるがままに、奥の席に向かいました。三方に仕切りがあるテーブル席です。店内にはジャズの音楽が流れていました。

 すでにコースを注文しているのだ、と日吉君が言いました。店員さんに、ビールを二つ、と注文すると、滑らかな曲線が美しい、小洒落たグラスに入ったビールが届きました。いちいちびっくりしている私を見て、日吉君は嬉しそうな顔をしています。

「期待通りの反応をしてくれてよかったよ。俺の奢りだから、いいもん食えよ」

 つやつやとした丸いお皿に盛られたナムルとサラダがやってきました。乾杯、としてビールを飲むのですが、味がよくわかりません。冷たいということだけはわかります。日吉君はサラダをむしゃむしゃと食べ始めましたが、私はなぜか食べる気が出なくて、二人とも黙ったままで、そうこうしているうちに、ユッケ、とやってきて、私は、やっぱり箸を持てずにいて、黙って、日吉君の携帯電話を眺めていました。日吉君は、どうしたの、と問いかけはしましたが、そのあとは何も、言わなくて、一人で、黙々と食べています。肉の盛り合わせ、と言って店員さんが、木のまな板に、お肉がちょっとずつ盛られたものを持ってきました。ユッケはお早めに、と言われました。それでも、私は、やはり食べる気にならなくて、日吉君の携帯電話、ばかり見つめて、一体、どういうわけか、わかりませんでした。

 何か、胸の中で、いっぱい、いっぱい、何かが膨れ上がる、この気持ちが、とても、辛くて、苦しくて、どう、して、いいのか、わかりま、せん。

 てぃろりろりろりろん。てぃろりろりろりろん。

「きた」

 日吉君の携帯電話が、鳴りました。

 どくん、どくん、心臓の血管が、膨らんで、膨らんで、今にも、破裂しそう、です。

 はい、日吉です、はい、はい。

 肺が、膨らんで、ゆっくりと、膨らんでいって、胸の内を、押しつぶして、苦しい、です。

 はい、はい、あ、ありがとう、ございます。

 眉間の、奥が、じわじわ、と熱く、なって、頭が、ぎゅうぎゅう、と何かに、押されるようで、とても、とても――。

 はい、はい、はい――。

 日吉君の声が、小さくて、震えていて、私の、手も、息も、震えて。

 そして、日吉君は、ありがとうございます、と言って、電話を切って、私を、見ました。

「受賞、できなかった」

 そう、なん、だ。

 そのとき、ぶわっ、と、何かが、溢れました。

 涙、でしょうか。勝手に、私の目から、溢れ出たのは。でも、それじゃあ、足りない、ような気がします。

「な、なんでぇ……」

 私が、そう声を出したとき、また、ぶわっ、と何かが溢れ出ました。涙、涙、涙、が、止まらなくて、なんで、なんで、と声が出て、苦しい、なんで、か、苦しい、涙、涙、涙、ひよ、し、くん、は、面白いのに、なんで、どうして、ねえ、なんで、と、溢れ出て、苦しい、悔しい、ねえ、ねえ、と、私は、声が止まらなくて、涙が止まらなくて、熱い、顔が、熱い、目の奥が、鼻の奥が、熱い、胸が、張り裂けそうで、熱い、悔しい。

「なんで五十嵐が泣いてるんだよ」

 だって、日吉君、なんで、笑ってるの、だって、なんで、涙、涙、涙、ねえ、どうして、私、なんで、泣いてるの、こんなの、なかったのに、こんな苦しいこと、なかった、のに、私は、なんで、苦しい、の、ですか。日吉君、は、だって、凄くて、私は、そう、思っていて、なんで、なんで。

 私は、泣きました。溢れ出て、何もかもが溢れ出て、止まらなくて、泣くしか出来ませんでした。そんな私に、日吉君がおしぼりを差し出しました。日吉君は、にこにこ、と笑っていて、なんだよ、もう、なんて言って、私の、頭を軽く叩いて、顔を上げろ、と言いました。

「食おう、五十嵐。美味いぞ」

 顔を上げます。日吉君は笑っています。

「肉、美味いぞ。食おう」

 うん、と私は頷きました。いただきます、と言って、箸を取りました。色鮮やかなサラダはしゃきしゃきしていて美味しいです。ユッケをかき混ぜると、なんとも魅力的な色に変わります。美味しいです。日吉君がトングでお肉を網に乗せました。じゅう、と音が鳴りました。いい、音です。お肉が、じんわりと縮んで、そして、裏返すと、網目が少しついて、良い色です。日吉君が私のお皿にお肉を乗せました。こんなに分厚いお肉は初めてです。美味しそう。そう、思いました。

「めちゃくちゃ美味いな、五十嵐」

「うん、めちゃくちゃ美味い」

 涙は、やっぱり止まりません。

 でも、なんだか、悲しいけれど、とても、悲しいけれど、私は、この涙が、ちょっぴり、嬉しいと思いました。



 朝早く起きました。快晴です。家を出ると、隣の家の庭には紫の花が砂利の中より伸びていることに気が付きました。雑草でしょうか。この家の庭はいつも花が咲いていてとても美しいと思いました。

 路地を右に曲がります。この道はあまり来たことのない道です。路地を出て左に曲がります。この道も一方通行のようです。町工場や家屋が並んでいる中に、パン屋さんがありました。ガラス戸が大きなパン屋さんで、外から見てもショーケースに並んでいる、ふっくらとしたパンはどれもこれも美味しそうです。中に入ると、焼きたてのパンの香りがしました。トングとトレーを持って、クリームパンと、小さなコロネと、お昼ご飯にサンドイッチを買いました。オレンジジュースも買いました。クリームパンは、ずっしりと重くて、コロネは別によかったかな、と渡された袋を持ちながら思いました。

 空を見ると、青く、澄んだ色が広がっています。

 ファミリーマートの隣の家から、小さな子供が出てきました。ランドセルがぴかぴかと輝いています。おはようございます、と声をかけられました。なんだかとても嬉しいです。

 今日は、晩御飯は、ファミリーマートの隣の中華屋さんにしようと思います。

 美味しいでしょうか。ちょっと、不安だな、とどきどきします。でも、なんだか、その不安が、後ろめたさが、ちょっと、気持ちいいです。

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五十嵐さんのコンビニ うさぎやすぽん @usagiyasupon

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