この小説の責任はすべて私にあります!

ちびまるフォイ

責任を取り続けた男

「こんな失敗をして、どういうつもりだ!!」


「す、すみません! 本当にすみません!」


「こっちは謝ってほしいんじゃない!

 どう責任を取るつもりなんだと聞いているんだ!!」


「助けてー―! 責任マーーン!!」


そのとき、空のキラメキからマントをはためかせた半裸の中年がやってきた。


「私を呼ぶ声が聞こえたからJALで飛んできたよ」


「な、何だお前は!?」


「私は責任マン。またの名を……責任マン!」


「そんなことはどうでもいい。

 とにかく今回の失敗をどう責任取るつもりなんだ!?」


「それらの責任はすべて、この私、責任マンにあります!!」


「……なんだと?」

「あらゆる責任を取るのが私、責任マンの仕事ですから」


「今回の件とお前はなんにも関係ないじゃないか!」


「いいえ、もとはといえば、私が彼女に仕事を頼んだのが悪かったのです。

 彼女は彼女で忙しいというのに、私の認識不足でした」


「え……そうなの? そんなことしてたの?」

「これから過去に戻ってそうします」


責任マンは大きく胸を張って宣言した。


「ということで、この度の責任はすべて私にあります!!」


その後、責任マンのおかげで丸く収まった。


「ありがとう責任マン」

「いいえ、これしきのこと。困ったときはいつでも呼んでくれたまえ」


責任マンは再び空の彼方へと飛び去った。




「責任マーーーーン!!」


「とうっ! 呼んだかい!?」


「実は新しいプロジェクトを頼まれたんだけど……。

 最初のプレゼンで思いっきり失敗しちゃって……」


「みなさん、聞いてください。このプレゼンの失敗の責任はすべて私にあります!

 責任マン、責任マンがすべての元凶です!!」


「あんたは関係ないだろー―」

「そうだそうだーー!」


「いいえ、もとはといえば、彼女にこのプレゼン資料を渡したのも私

 ひいては資料を作ったのも私なのです!」


「そ、そうなの?」

「これから過去を改変してそうなります」


「……ならしょうがないか」


責任マンはあらゆる責任を肩代わりしてくれたので、それ以上の追及を逃れることができた。

どんな小さなことでも、どんなに大ごとでも責任マンはやってきた。


「責任マン! 会社の備品を壊しちゃった!」

「それはすべて私の責任です!!」


「責任マン、プロジェクトの粉飾決算がバレちゃった!」

「とぅ! それもすべて私の責任です!」


「責任マン! プロジェクトでの採点基準に不正があったの!」

「当然、それも私の責任だ!!」


「責任マン!」

「責任マン!」

「責任マーーン!」


責任マンを使い潰したある日、責任マンに聞いてみた。


「ねぇ責任マン。どうしてあなたは責任マンなの?」


「それはキミがのびのび仕事をするために責任マンはいるんだよ」


「どういうこと?」


「この世界じゃみんな誰もが責任を取るのを恐れて挑戦しなくなっている。

 それでは人の成長はできないと私は思うのだよ。

 私が責任を取ることで世界が少しでも豊かになればそれいいんだ」


「責任マン……!! そんなボランティア精神だったのね……!」


「もちろんだよ!」


その時の責任マンには後光がさして見えた。


「責任マン、私決めたわ! もう責任を取ることに怯えない!

 どんなことでも前向きにチャレンジしていく!」


「その意気さ! 失敗しても責任は私が取るからね!」

「責任マン最高!!」


それから見違えるように努力するようになった新人を誰もが見直した。


今までは「失敗しないようにする努力」だっただけに、

その成果は所詮想像できるレベルに留まっていたものが、

今度は想像を超えるようなものをどんどん作り出していった。


「見違えたなぁ、こんな才能があったなんて……」


ぼやく上司をよそに新人は羽が生えたように成長した。

やがて、大ヒット商品の開発成功にこぎつけた。


「新人君、キミはすごいよ。こんな新商品を作れるなんて」


「ありがとうございます、嬉しいです!」


「開発者のキミにインタビューしたいって、記者たちが詰め込んでいるよ。

 なにか一言いってきたらどうだ? きっといい記事になるよ」


「はい!!」


新人はついに社会に認めてもらえた気がして嬉しかった。

扉を開けると、すでに集まっていた記者団は別の人にインタビューをしていた。




「ええ、そうですね。今回の成功の責任はすべて私にあります。当然でしょう?

 他の誰にも手柄はありません。全責任は私にあるのだから!!」

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