第42話 二〇一九年マイベスト


 年が明けて、あっという間に二月。去年こっそりと公開した「二〇一八年マイベスト」の二〇一九年版を。

 ルールとしては、私が二〇一九年の間に見聞きしてきたもので、一番よかったものを独断と偏見で紹介していくという回です。どうぞ、お付き合いください。




・マイベスト小説  アヴラム・デイヴィッドスン『どんがらがん』

 収録されている「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」を目当てに読んだら、「とんでもない当たりを引いたぞ!」とひっくり返った一作。

 もしもこの先、「尊敬する作家は?」と尋ねられたら、ドヤ顔で「デイヴィッドスンです」と答えたい。この一冊しかまだ読んだことないけれど。


 ミステリー、SF、ファンタジー、幻想、小噺、人情話、創作神話、どんなジャンルもどんと来い、舞台も時代も縦横無尽な、個人的には理想の短編集。

 一冊で、古今東西を旅してきたような、満足感があってとってもお得。


 どの話が好きなのかは、このエッセイ内の別の話で語っているので、よろしければこちらも→https://kakuyomu.jp/works/1177354054887276308/episodes/1177354054888944873


 次点は、恩田陸『蜜蜂と遠雷』、メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』。




・マイベスト漫画  『CreepyCat猫と私の奇妙な生活』 コットンバレット

 毎日四コマ漫画を掲載しているツイッターのアカウント、ツイ4に連載中の作品。

 遠い親戚から譲り受けた古いお屋敷で一人暮らしを始めたフローラは、そこで猫のような謎の生き物、クリーピーキャットと出会い、共に暮らすことになる。


 見た目はぽっちゃっりとした白猫、しかし真っ赤な目が不気味なそのクリーピーキャットは、無限増殖する、空を飛ぶ、壁をすり抜けるなどの能力を発揮して、フローラを振り回す。だが同時に、そのふかふかボディはフローラを魅了する。

 フローラに片思い中の警察官のオスカーや、クリーピーキャットを診察する獣医さん、お屋敷に残る幽霊など、サブキャラも個性豊か。さらりと、吸血鬼なども出てきちゃう。


 ゴシック調な絵柄と雰囲気だが、蓋を開けてみると勢いのあるギャグマンガなのが癖になる。登場人物たちやクリーピーキャットの顔芸や動きが腹筋にアタックしてくる。

 一方でクリーピーキャットがその不気味さを発揮させるエピソードもあり、猫らしい動きや行為をするエピソードもあり、そのギャップに夢中になる。


 実のところ、クリーピーキャットはピクシブの一枚絵で投降されていたのを見ていた。作者さんがタイの方なので、台詞は簡単な英語だったのだが、それでもその独特なクリーピーキャットの生態やユーモアが非常に好みだった。

 まさかツイ4で、しかも日本語で連載するとは驚かされたが、素直に嬉しかった。一巻以降も新たなキャラクターが登場して、クリーピーキャットの謎も深まっていくので、引き続き追いかけていきたい。


 次点は、ソウマトウ『シャドーハウス』、南郷晃太『こじらせ百鬼ドマイナー』




・マイベストドラマ  NHK総合『いだてん』

 大河ドラマを見たのは初めてだったが、最初が『いだてん』で良かったと心の底から思えるほどに大好きで忘れらない作品になった。

 一部では、日本人で初めてオリンピックに参加した金栗四三を主人公に、二部では、東京オリンピック招致に全力を注いだ田畑政治を主人公に、彼らの挑戦や成功、挫折や失敗を描き出していた。


 時代の描写とか、歴史との整合性とか、そこら辺は詳しい人に任せることにして、私個人に刺さった部分はたくさんあった。

 黎明期から発展していくスポーツの歴史を描いているのだが、それには軍事と政治とが深く深く絡んでいる。特に、平和の祭典を掲げているオリンピックと政治の関係には、胸が痛くなるシーンが多くあり、これから二回目の東京オリンピックを迎えようとしている私たちへの課題として立ち上がってくるようだった。


 嘘のような本当の話に驚いたり笑ったりしたが、同時にフィクションと描かれた部分にも重要な意味を与えられていて、そこがまた素晴らしかった。

 フィクションの例としては、このエッセイでも力説したけれど、ストックホルムオリンピックでの四三とポルトガル代表のラザロのエピソードや、志ん生に弟子入りした、架空の人物の五りんの出自など。


 それから個人的なことだが、このドラマが、今まで一番泣かされたドラマだと思う。最終回は、別のシーンで二回泣いた。

 DVDが出る予定もあるので、これ以上の説明は野暮かもしれない。見たことない人、途中で離脱した人も是非!


 次点は、テレ東『きのう何食べた?』。




・マイベストアニメ  『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』

 これは、正直『鬼滅の刃』と非常に悩んだ。

 漫画原作のアニメが面白かった場合、その面白さは漫画によるものなのか、アニメによるものなのか? とか色々考えてしまった。


 私自身、ジョジョは大好きなので、黄金の風は二〇一八年から引き続き見ていた。

 二〇一九年一発目から、VSプロシュート&ペッシで、否応なしにテンションが上がった。五部にもベストバトルが多くてたまらん。個人的には、ギアッチョ戦やスクアーノ&ティッツァーノ戦が好きだ。


 アニメオリジナルシーンも多くて、その素晴らしさがマイベストになった一番の要因だと思う。

 ラストバトルで、ちらっと、離脱したフーゴが出ている所とかがね、もうね、最高でね……。


 次点は、『鬼滅の刃』、『まちカドまぞく』。




・マイベスト短編アニメ  『みんなのうた』より、米津玄師『パプリカ』

 二〇一九年を代表する一曲になった『パプリカ』だが、その制作者である米津さんバージョンを聞いて、全く異なった曲調に驚いた人も多かっただろう。

 私は、そこ以外に、別で気になったところがあった。……このアニメーターの名前、見たことあるぞ、と。


 担当したアニメーターは加藤隆さん。私は、中学生の時にやっていた、インディーズの映像作品を紹介する番組でその名前を知った。内容は、アニメを作る自分自身の葛藤をストレートに描いたものだった。

 その後、NHKの星新一のショートショートを映像化する番組でも、いくつかの作品を担当していた。今の、報道ステーションのオープニングも作っている。


 加藤さんの『パプリカ』の映像は、私が昔見た時の画風と結構変わっていて驚いた。かつては暗い色彩と影と厚塗りが印象的なアニメーターで、星新一のショートショートの「午後の恐竜」を担当していたと言ったら、なんとなく想像つく人もいるかもしれない。

 そのため、柔らかくて明るくて、筆の運びもはっきりわかる『パプリカ』のアニメには驚かされた。生き生きと動き回る子供たちや動物たち、懐かしさと切なさを感じる夏の描写がまた美しい。


 『みんなうた』で使われた映像が、公式のMVでも採用されるというのは珍しいと思う(MVの製作が先かもしれないが)。それくらい、映像と米津さんの曲と歌声にマッチしていたのだと思う。

 米津さんのYouTubeチャンネルにアップされているMVは、『みんなのうた』バージョンよりも長くなっているので、二度味わった気持ちになれた。




・マイベストMV  Creepy Nuts『よふかしのうた』

 一時期ほぼ毎日見ていたMV。曲と映像にこんなにはまったのは久しぶりかもしれない。

 この曲は、「オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー」の公式テーマソング。そのため、撮影場所は春日さんがかつて住んでいたむつみ荘の部屋である。


 白状すると、私はそれほどオードリーのオールナイトニッポンを聴いていない。春日さんがダイエットとして筋トレをする企画が始まったころは少し聞いていたけれど。

 このMVは、オードリーのオールナイトニッポンの小ネタがあちこちに散見しているという。コメントでの解説を見ながら見直すのもまた楽しい。


 それでも、レッドカーペット時代からM-1敗者復活からの二位になり、現在はテレビに欠かせない二オードリーを知る私個人としては、色々刺さるものが色々あった。

 例えば、若林さんのエッセイ本(持ってる)とか、アメフトのボール(二人が高校時代にやっていた部活)とか、春日さんとサトミツさん(どきどきキャンプのツッコミで放送作家、二人の親友)のツーショットとか。


 撮影場所は、春日さんが実際に住んでいた部屋なので、ものが雑然と置かれているけれど、撮り方がいいのか非常にスタイリッシュになっている。ラストシーンでは、その部屋でクラブのようにCreepyNutsが曲をプレイしている中で観客が縦ノリしているのだけど、そこもかっこいい。

 ラストに映ったものには、グッとくるものがあった。二〇一九年は、春日さんの結婚とむつみ荘からの引っ越し、若林さんの結婚と、オードリーにとってたくさんの出来事があった年だったから、このMVは記念碑として刻まれるだろう。


 次点は、星野源『Same Thing』、Powder『New Tribe』。




・マイベスト音楽  ポルノグラフィティ『VS』

 二〇一九年は、何といってもポルノグラフィティデビュー二十周年の節目の年であった。

 その年に、アニメ『MIX』のオープニングテーマと五十枚目のシングルとして発売されたのが『VS』である。


 晴れ渡った青空を想像させるような爽やかなメロディーと歌声が素晴らしい歌なのだが、単純な応援ソングではない。

 この曲は、少年だった自分と現在の自分とを、対比ではなく「向き合う」という形の「VS」を描いている。


 「青春」というには恥ずかしい現在を生きていて、しかしそれでも闘うことを続けている。そのことを、あの日の自分に、誇らしくも恥ずかしそうに「こっちもまだ闘っているんだよ」と語りかける。

 「あの日」というのは、ポルノの五枚目のアルバム『THUMPχサンプ・サンプ・サンプ』に収録されている曲『プッシュプレイ』内で歌われている、歌詞中の「僕」の原動力になっているロッカーのライブの日のことだ。そのことに気付いたときには、感激して鳥肌が立った。


 また、MVのコメントで知ったことだが、歌詞の中には『MIX』の登場人物たちの名前が隠されているという。こういう粋なところも大好きだ。

 今の自分に自信が持てないとき、過去に戻りたくなったときに、力をくれる、私にとっても最高の一曲となった。


 次点は、米津玄師『海の幽霊』、やくしまるえつこ『放課後ディストラクション』。



 二〇一九年版は以上である。

 去年は全く映画を見なかったし、DVDレンタルもしなかったので、今回は映画関係は省いてしまった。今年はぜひ、ベストだと思える映画に出会えるようにたくさん見ていきたい。

 また、バラエティ番組やお笑い関係は、『BAR「笑う門」』で紹介したいと思っているので、お暇な方は是非、そちらもよろしくお願いします。


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