第43話 拙作問わず語り「KAC2020参加作品」


 去年開かれた、カクヨム3周年選手権が開かれる際に、私は皆勤賞を狙っていたのだが、一日目の締め切りを勘違いしていたせいで、二作品しか参加できなかった。

 今年の4周年選手権を開かれると聞いたときは、何度も何度も締め切りを確認して、絶対に皆勤賞を取るぞ! と意気込み、ひいひいしながら書いてアップし続けて、応募規定が守られていたなれば、皆勤賞を取れると思う。


 さて、今回はこの場にて、各お題に対して私がどのようにアイディアを練っていき、それを形にしていったかを解説していきたい。

 ここから先はネタバレ注意です。






・KAC20201「三月一日、深夜十二時過ぎの呼び出し」

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054894485492


 お題は「四年に一度」とあり、早速「難しっ!」と思ってしまった。

 四年に一度と言えば、うるう年かオリンピック……しかし、全く捻らずにストレート過ぎてもいいのだろうか思い、もっと考えてみることに。


 イメージとして浮かんだのは、夜の居酒屋で飲んでいる友人同士の二人。語り手が、かなり酔っぱらっている友人の「四年に一度なんだ、四年に一度なんだよ」という戯言を聞き流しながら、肩を貸して居酒屋を出て歩いていると、その「四年に一度」と遭遇する、と言う話だった。

 ただ、その「四年に一度」が何なのかが思いつけなかった。満ち潮とか、蛍とかをイメージしたけれど、なんだかしっくりこなくてボツ。


 お題発表の翌日に考えたのは「四年に一度が誕生日だったら、盛大にするだろうなー」ということ。今はSNSとかあるし、そこにアップしそうだとか。

 そして出てきたのは、四年に一度の誕生日を精一杯楽しむ「キラキラ女子」、その写真を冷ややかに眺める、性格が正反対の友人……そこから話を広げていった。


 二月二十九日ではなく、その翌日を舞台にしたのは、いっぱい遊んで楽しかったのに、なんだか疲れているという心情をストレートに書けるんじゃないかと思ったことから。

 あと、「幼馴染」と言う全然気を置けない関係というのも描きたかった。ついでに、「趣味と性格は違うけれど、それを否定しない」という形の友情も。






・KAC20202「雨の夜は妖怪祭りへ」

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054894524811


 お題は「最高のお祭り」で、まあ、言わんと欲するところは分かるが、これも中々……と思った記憶が。

 一番最初にイメージしたのは、妖怪のお祭りに人間が迷い込んでしまう話。アップした内容とほぼ変わらない。


 ただ、「妖怪のお祭りに行ってどうするんだ?」という疑問がわいてしまい、一回保留に。

 次に考えたのは、「最高のお祭り」を作るために会議をするという話。文化祭か商店街のお祭りか、そこら辺はまだ不透明で、会議が紛糾して、船頭多くして船山に上るみたいなギャグちっくな内容だが、これも今一つ練りこめなくてストップ。


 そこから原点回帰して、妖怪のお祭りをもう少し考えてみることに。

 主人公の女の子がどうして迷い込んでしまったのか、そこで何を見たのかまでは組み上がってきたのだが、どうしてそれが「最高のお祭り」になるのかまでのプロセスが色々と大変だった。


 形になったので、実際に書いてみると、今度は文字数オーバーしてしまった。本当は書きたかったシーンや会話もあったけれど、そこら辺は泣く泣く削った。

 ただ、ラストシーンは絶対に変えたくなかったので、うまく収められてほっとしている。


 ちなみに、主人公の名前を考えるのがちょっと面倒くさかったので、すでに別作品の登場した人物の過去と言う形にした。「誰にも言わない」という約束があるから、矛盾はしていないだろうと。

 ただ、出そうと思った人物は、名字だけで呼ばれていたので、結局は下の名前を考えることになってしまった。なんという本末転倒。『日常キリトリ線』に丸山ちゃんが出ているので、お暇な方はぜひ探してみてください。






・「マンションのベランダから見た話」

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054894576230


 「Uターン」というお題に、「なんで?」と疑問に思ったが、これはすんなり思いついた。

 帰郷とか、本来の意味で使うのではなく、どホラーにしてやろうと。

 

 道を歩いていて、何の前触れもなくUターンをする人がいたらびっくりする。

 ただ、そのようなことを私は何回かやったことがある。理由は単純に、三十分間近所を散歩しようと思っているので、十五分を過ぎたらどの地点からでもUターンして帰宅しようとするから。


 ウォーキング中なら、そういうUターンは珍しくはないだろう。でも、明らかにウォーキングをしていない人がやっていたら? 

 例えばヒールを吐いている女性とかが、短すぎる距離でUターンを繰り返していたら。これは客観的に見たら怖いのでは。


 舞台設定として、マンションのベランダから見ているという形にしたのは、絶対に話しかけられないという状況にしたかったから。

 また、恐怖体験をする本人ではなく、それを見ている人が語り手になったのは、あれはいったい何だったのかというのを分からないままに終えたかったから。


 私は怪談話が好きで、実話もよく見聞きしているけれど、たまに疑問を抱く。こういう経験をした時、冷静に第三者に話すことができるのか、と。

 あと、小説という形である以上、「私は『キャー』と悲鳴を上げた」と描写をしたら、どこか冷める気持ちが出てくる。まあ、これは普通に三人称語りにすればいいけれど。


 さて、この女性の正体は何だったのか、隣人との関係などは謎のままにしているけれど、どうしても一言だけ言いたい。

 追いかけてくるのも怖いけれど、先回りされるのも怖い。






・「おくりもの」

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054894617724


 「拡散する種」というお題に対して、「こ、これはどう料理すれば……!」と頭を抱えてしまった。何度も抱えているけれど。

 種が拡散していくというイメージでいえば、タンポポの綿毛が思いつくが、つい最近題材にしてしまったばかりである。


 「拡散」と言えば流行とか、SNSとか、噂話もある。しかし、現代ファンタジーとホラーはすでに書いているので、出来れば違うジャンルでやりたい。

 行き詰ってしまったので、「拡散」の意味を今一度検索し直してみた。「液体などが交じり合う」という意味もあることを知ったが、そこから先に進まないので、やはり一般的な「拡散」の意味で考えてみることに。


 異世界ファンタジーで「拡散する種」があるのならどんなのだろうと、逆にジャンルを絞って考えてみることに。

 伝説の種を探す話もあったが、もうちょっとシンプルにしてみようかと、魔法の力で亡くなった人の想いを伝える種という形に整った。


 さて、書いていて困った点が二点。一つは、主人公の友人として登場したセジの性格の説明について。

 最初は何も考えずに、「ガキ大将」と書こうとしていた。しかし、異世界ファンタジーでガキ大将と言う語彙はおかしいので、「小さい頃は血の気が多い」という表現に落ち着いた。でも、やっぱり「ガキ大将」がベストな気がする……。


 続いて、宿を出てから、ラルッコとセジが二人きりで話すシーンを書きたかったのだが、そのためにどうしてジェド家族と別れたのかという理由付け問題。

 ジェド家族は朝食がまだだったので宿でとることにした、は配達人がいるから普通に帰った方がいいと思いボツ。お墓にお参りにする、は微妙に違和感があってボツ。


 最終的に、教会でお祈りをするで落ち着いた。

 ファンタジー世界の生活感と言うのは、中々描き辛いんだなとしみじみ思った。もっと勉強していきたい所存。






・「深夜の錯綜」

 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054894657855


 ラストのお題が「どんでん返し」と分かった瞬間、頭が爆発する音が聞こえた。大げさではなく、本当に困った。

 ミステリー好きとしては、どんでん返しと言えば色んなパターンが思いつくのだが、実のところ結構それらはいろいろ書いてしまっている。「どういうどんでん返しにすればいいんだっ!」とひたすらに自分のカードを捲っていった。


 候補としては、「何気ない日常だけど、違和感があり、それが回収される系」、「語り手が普通じゃない系(信用できない語り手)」、「登場人物の一人が人間じゃない系」などなど。

 でも、やっちゃってるんだよ、長編のアイディアとして取っているんだよと、地団駄踏みながら、何かないかと考えまくった。頭からプスプスとショートする音が聞こえてきた。


 で、最終的に、拙作の「今日も町に夜が来た」でやりたかったけれどできなかった、時系列シャッフルに再挑戦してみようかと。

 丁度土曜日に、映画の『グラスホッパー』を見て、「めっちゃ殺し屋書きたい!」と盛り上がっていたので、「ベッドで機関銃」の赤毛とマーシーに再登場してもらうことに。


 「ベッドで機関銃」の続きを書くならと考えていたのは、赤毛とマーシーがクラブに潜入してターゲットを殺害するのだが、その死体が見つかってクラブが閉鎖、そこからどう逃げ出そうかという話だった。

 それを元手に、どんでん返し要素を入れていこうと。捕まった赤毛をマーシーが助けるというシーンの構想もあったが、ちょっとストレート過ぎたのでもっとひねってみることに。


 ネタ帳に時間軸を書いてみたのだが、中々の長さになった。これでも、トイレでG氏を脅すシーンは削っているのだが、それでも危うかった。

 しかし、マーシーが襲撃するガンアクションは絶対に書きたかった。あと、赤毛とマーシーのやり取りは、前回の話の肝でもあったので、そこも短くとも盛り込みたかった。


 結果、文字数ギリギリで出来上がり、ほっとした。完成まで何度も描写を削ったりなんなりしたか。

 一番私の好みてんこ盛りの作品になった。まあ、最後だからそれでいいかとも思うけれど。ちなみ、執筆中のBGMは『オーシャンズ11』のサントラだった。






 以上が、KAC2020 の参加作品だが、実のところこれらには共通点がある。

 一つ、作中に夜の描写があること。二つ、タイトルにひらがなの「の」が付いていること。三つ、ジャンルがバラバラなこと。


 「マンションのベランダで見た話」をアップ後にその事に気付いて、そこから意識して考えた。本当は、全部一人称にしたかったけれど、「深夜の錯綜」は構造上できないので諦めた。

 ただ、そういう細かい点に気にしすぎたので、タイトルに「深夜」が付いているのが二作品になってしまったのは、非常に悔しかった。「真夜中の錯綜」でも良かったよなと。


 来年もまたKACが開催するのなら、今回の反省を生かして、また頑張って皆勤賞を目指したい。

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