第37話 拙作問わず語り 「小説的な、余りに小説的な」編


 久しぶりに語ってみる、拙作の裏話的なあれこれ。

 今回は、『日常キリトリ線』の第18話「小説的な、余りに小説的な」という一編がテーマである。


 正直、PV数も応援数もさほど振るっていないこの作品を語りたい理由はただ一つ。めちゃくちゃこだわって書いたから、めちゃくちゃ語りたいから。

 なぜならこちらの作品、「地の文やセリフに出来るだけたくさんの小説のタイトルを入れて書いていく」ということを目標に書いているのである。


 そもそものきっかけは、ふと「真相は藪の中であった」というワンフレーズが思いつき、「『藪の中』って元々芥川の小説から来た慣用句だよなー」と思い、小説のタイトルばかり使っている小説を書くことができるんじゃないかと考え始めたからであった。

 主人公の名前は夏目漱石にちなんで「三四郎」ということはすぐに決まった。ストーリーは陳腐なくらいがいいのではと、男女が本屋で同じ本を手に取ってしまうという情景を描くことを思いついた。


 ざっくりとした内容は固まったものの、いざ書こうとするとなかなか難しい。私自身が小説のタイトルというものをあまり知らないことに愕然とした。

 そのため、ネットなどで「かっこいい小説のタイトル」を検索したり、思いついた作家の著作を調べて使えそうなタイトルを引いてきたりと、いろいろ工夫しながら書いていった。


 そうやって完成……した後も、まだタイトルを織り込むことができるんじゃないかと、何度も改稿した。

 カクヨム上でアップされている作品の中で一番編集した作品が、この「小説的な、余りに小説的な」である。


 だが、完成後もまだ満たされない。「ここに載っている作品名を一つ一つ教えたい!」という欲求にかられたからだ。

 近況ノートなどで解説をすることも考えたが、この場を借りて、書いていこうと思い立った。ここからは完全に趣味の世界なので、とことん付き合っていただけたら幸いである。


 ルールとしては、「タイトルをたくさんそのまま載せる」「難しいものでも途中まで入れる」ということである。

 ちなみに、「小説的な、余りに小説的な」は、芥川龍之介の評論「文芸的な、余りに文芸的な」のパロディである。


 小説のタイトルと作者名を本編に付け加えようと思ったのだが、非常に読みにくくなるので、未読の方はこちらお願いします。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054881796766/episodes/1177354054884635075

 では、前置きが長くなりましたが、ここからが解説です。





   〇〇〇





 ある、『冬の日』(梶井基次郎)のことだった。上空では『風が強く吹いている』(三浦しをん)ため、『浮雲』(二葉亭四迷)が『猛スピードで(母は)』(長嶋有)『流』(東山彰良)ていく。

 『斜陽』(太宰治)が『窓』(星新一)から差し込む、『高円寺純情商店街』(ねじめ正一)の古い本屋に『三四郎』(夏目漱石)は訪れていた。


 その『理由』(宮部みゆき)は、『白昼の悪魔』(アガサ・クリスティー)のように厳しい『文学部唯野教授』(筒井康隆)の出したレポート課題のための参考資料を探すためだった。

 本棚に並んだ『カラフル』(森絵都)な背表紙を目で追いながら、三四郎はレポートに使えそうな本を選んでいく。それは、『絵のない絵本』(アンデルセン)を探すかのように、『途方もない放課後』(鷺沢萠)(『放課後』は東野圭吾)の作業となった。


 ふと、『知りすぎた男』(チェスタトン)のごとく聡明な三四郎はレポート完成のための、『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ディプトリー・Jr.)が載っている本のことを思い出す。

 すぐ右の本棚の上から『六番目の(小夜子)』(恩田陸)段の左から『64』(横山秀夫)冊目に、『きらきらひかる』(江國香織)その本を見つけた三四郎は、周りも見ずにその本に『片腕』(川端康成)を伸ばした。


 『またたき』(河原れん)よりも速く、三四郎は伸ばした『薬指(の標本)』(小川洋子)が、女の人差し指と重なり合ったことを理解した。

 隣の人の『爪と目』(藤野可織)を見る。『やまなし』(宮沢賢治)の香りが『鼻』(芥川龍之介)を掠めた。


 隣に立っていたのは、『鴉』(麻耶雄嵩)のような黒髪に『虞美人草ぐびじんそう』(夏目漱石)の髪飾りを付けた『うつくしい人』(西加奈子)だった。

 三四郎の方を見ると、彼女は頬を『桜桃』(太宰治)色に染めて、口元に『神々の微笑』(芥川龍之介)を浮かべると、すみませんと小声で謝った。『兎の眼』(灰谷健次郎)のようなそれを僅かに『伏(贋作・里見八犬伝)』(桜庭一樹)せる。


 彼女はそのまま、『限りなく透明に近いブルー』(村上龍)のワンピースを翻して、『かきつばた』(井伏鱒二)のような優雅さでその場を立ち去ろうとする。

 『石ノ目』(乙一)に見詰められたかのように動けない三四郎だったが、『こころ』(夏目漱石)は『青春デンデケデケデケ』(芦原すなお)と鳴り響き、『情熱と冷静のあいだ』(江國香織/辻仁成)を揺れ動いている。


 短い『沈黙』(遠藤周作)を『破戒(※意図的な誤変換)』(島崎藤村)して、三四郎は「あの、」と声をかけた。

 『女のいない男たち』(村上春樹)の一人でもあった三四郎は、このまま彼女と『(彼女が)その名を知らない(鳥たち)』(沼田まほかる)ままで『惜別』(太宰治)したくなかった。


 しかし『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)まで遡ると、三四郎は女性に関してあまりいい記憶がない。

 『小学五年生』(重松清)の運動会のリレーで、『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子)なかった三四郎は、クラスメイトの少女から「『芋虫』(江戸川乱歩)」というあだ名をつけられた。

 詳細は省くか、『友情』(武者小路実篤)を感じていた『或る女』(有島武郎)からは、はっきりと「『死ねばいいのに』(京極夏彦)」と言われたことさえある。


 このような半生を送っている三四郎にとって、『さかなはさかな』(レオ=レオニ)だと言わんばかりに去ろうとする彼女を呼び止めることは、大いなる決断(柳田邦男)であった。

 『鬼のあし音』(道尾秀介)を耳にしたかのように振り返った彼女は、『舞姫』(森鴎外)のような、『赤ずきん』(グリム童話)のような、『さよなきどり』(アンデルセン)のような可憐さを感じさせた。


 未だ『デンデラ』(佐藤友哉)と鳴るこころを押さえながら、三四郎は『果てしなき渇き』(深町秋生)に覆われた口を開く。


「君、名前は?」

「『おぎん』(芥川龍之介)」


 驚きながらも、彼女はあっさりと名前を教えてくれたので、三四郎はこころの中で、『神様』(川上弘美)、『ヘヴン』(川上未映子)はここにあったのか! と叫んだ。

 次に三四郎は、自分の『鞄』(安部公房)からまるでそれが『神様のメモ帳』(杉井光)であるかのように、大事に『黒革の手帳』(松本清張)を取り出した。


「あと、アドレスを教えてくれないか」


 『あるキング』(伊坂幸太郎)のような『雄気堂々』(城山三郎)とした物言いに、三四郎は満足していたが、おぎんという名前の彼女は『挙動不審者』(佐竹一彦)を見る目を向けている。

 『ちんぷんかん』(畠中恵)なことを口にしたのだと気付いた三四郎は、『アリアドネの弾丸』(海堂尊)よりも速くおぎんに弁明した。


「いや、この本を必要みたいだったから、僕が使った後に貸そうかと思って」

「『あ・うん』(向田邦子)」


 おぎんは『青い花』(ノヴァーリス)が開くかのように微笑みがえし(乃南アサ)すると、自身のメールアドレスを伝えてくれた。

 三四郎は『月の裏側』(恩田陸)をスケッチするかのような心持ちで、黒革の手帳に彼女の『告白』(湊かなえ)を一字一句漏らさず書き込む。


「ありがとうございます」


 お礼を三四郎が言うと、おぎんはただ頷いて、『第七官界彷徨』(尾崎翠)するような足取りで去っていく。

 三四郎は『(アンドロイドは)電気羊の夢を見るか』(フィリップ・K・ディック)のように、ぼんやりと突っ立っていてたが、彼女の姿が見えなくなって『それから』(夏目漱石)、本の支払いを済ませて『門』(夏目漱石)から出た。


 外は『日の名残り』(カズオイシグロ)も消え、『細雪』(谷崎潤一郎)が降り出しそうな『つめたいよる』(江國香織)になっていた。

 『半分の月がのぼる』(橋本紡)空の下を、三四郎は『陽気なギャングが地球を回す』(伊坂幸太郎)かのように、『リズム』(森絵都)よく『スキップ』(北村薫)しながら帰った。






   🔲






 『7月24日通り』(吉田修一)沿いのアパートの『203号室』(加門七海)、三四郎は『蒲団』(田山花袋)にくるまり、『笑わない数学者』(森博嗣)のような顔で自身の携帯電話を握っていた。

 おぎんに本を渡すためのメールを、恋愛『名人』(中島敦)ではない三四郎は、『恋文の技術』(森見登美彦)を総動員させて、書き切った。


 もちろんそこには、『暗いところで待ち合わせ』(乙一)をして、直接手渡す『約束』(村山由佳)を書いていた。

 あわよくば、『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)よろしく彼女をリードして、『夜のピクニック』(恩田陸)にしゃれ込み、『秘密の花園』(バーネット)で共に『冷めない紅茶』(小川洋子)を飲みたいという願望が隠されていた。


 おぎんからの『変身(※意図的な誤変換)』(カフカ)を待つ間、三四郎は住み慣れた部屋が『瓶詰の地獄』(夢野久作)のように感じられた。

 さながら心持ちは、『悪魔のパス天使のゴール』(村上龍)を受ける『PK』(伊坂幸太郎)中のゴールキーパーのような、あるいは『オセロー』(シェイクスピア)の相手の『ターン』(北村薫)を待つかのようである。


 ようやく『仄暗い水の底』(鈴木光司)から届いたメールを開くと、そこには『凍りのくじら』(辻村深月)のようなエラーメッセージが載っていて、頭が真っ『白』(芥川龍之介)になった三四郎は携帯電話をぽとりと落とす。

 まさかおぎんという名前からも『ソロモンの偽証』(宮部みゆき)だったのか? という『疑惑』(芥川龍之介)を三四郎は抱くが、結局真相は『藪の中』(芥川龍之介)であった。





   〇〇〇





 ……ここまで、趣味全開の解説に付き合っていただき、ありがとうございました。

 

 何気に、小説以外の名前もちらほら入っている。『さかなはさかな』や『赤ずきん』など。

 ただ、レオ=レオニ作品は私にとってターニングポイントなので、個人的には無理矢理にも入れてみたかった。『赤ずきん』に関しては、言い訳ができないのだが。


 それから、どうしてもこのタイトルを入れたくて無理やり省略したものも少々。

 『破戒』とか『変身』とかは変換をわざと間違えている。ギリギリ反則な気もする。


 もう十分にうざいのだが、さらに付け加えたい解説を。

 個人的に、「この作品名を連続して出したぞ!」というウルトラC的な文があるので、そこについてもちょっと触れたい。


 まずは、「驚きながらも、彼女はあっさりと名前を教えてくれたので、三四郎はこころの中で、『神様』(川上弘美)、『ヘヴン』(川上未映子)はここにあったのか! と叫んだ。」、ここは川上弘美と川上未映子のダブル川上を意識している。

 それから、「三四郎は『(アンドロイドは)電気羊の夢を見るか』(フィリップ・K・ディック)のように、ぼんやりと突っ立っていてたが、彼女の姿が見えなくなって『それから』(夏目漱石)、本の支払いを済ませて『門』(夏目漱石)から出た。」は、『三四郎』も含めて、漱石の後期三部作を並べた。ついでに、『三四郎はそれから門を出た』という三浦しをんさんのエッセイも念頭に置いている。


 そんなこんなでこだわりまくって書いた「小説的な、余りに小説的な」であるが、執筆したのは同題異話を開催するよりも以前であった。

 今でこそ、同題異話を通してタイトルの変態と進化した私であるが、その萌芽はここで見えていたのだろうかと、どうでもいいことを考えてしまった。



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