第38話 森羅万象を歌うポルノグラフィティ


 二〇一九年九月八日、ポルノグラフィティが二十周年を迎えた。

 気が付けば、私は人生の半分以上の年月で、ポルノグラフィティの曲を聴いていることになる。


 ここ最近は、勝手に二十周年記念とかこつけて、車の運転中とかゲームをしている時とか、ひたすらにポルノの曲を聴いているのだが、そんな生活の中で思ったことがある。

 「ポルノの曲、あらゆる場面に対応してるんじゃね?」ということである。


 たとえば、「ポルノのラブソングと言えば?」と尋ねられても、焦がれるような悲恋の「アゲハ蝶」、女性目線の失恋「サウダージ」、落ち着いた形の愛を綴る「黄昏ロマンス」、『愛』そのもののまなざしで歌った「愛が呼ぶほうへ」、手探りで愛を確かめ合う「リンク」、ヒリヒリするような男女の駆け引き「痛い立ち位置」などなど、代表的なシングルだけでも、一言でまとめられないくらいの多彩な愛の形を描いている。

 アルバム収録曲、カップリングも含めれば、さらに幅は広がっていく。同居中カップルのささやかな幸せを描いた「約束の朝」、デートの様子が可愛らしい「ラビュー・ラビュー」、行きずりの二人の一夜の「まほろば〇△」、結婚した元カノを思う「スロウ・ザ・コイン」、恋人との死別説もある「月飼い」、社会人になって初めてクリスマスを迎えた二人の「Hard Days, Holy Night 」などなど、もう、ポルノのラブソングだけこのページが埋め尽くされてしまいそうである。


 ただ、「章題にあるような森羅万象って、ファンの贔屓目なんじゃない?」というようなツッコミが聞こえてきそうだが、もうちょっと待ってほしい。

 大体J-POPは、非常にざっくり分けたら、ラブソングと応援ソングに分けられると思うのだが、ポルノはそれに当てはまらない曲もたくさん出している。もちろん、生まれ持った才能をポジティブに歌った「ギフト」、一休みする大切さの「ブレス」、努力が実を結ぶ姿を描いた「Rinbow」、上京した人たちに贈る「東京ランドスケープ」などなど、名曲がたくさんあるのだが、それはひとまず置いといて。


 ラブソングでも、応援ソングでもない曲、例えるならば「クリスチーナ」。初めて車を買ったペーパードライバーの、ドタバタ劇だ。歌詞だけならばコミックソングのようでもあるけれど、メロディーと歌い方はすごくロックである。

 他にも、ロックバンドの訪問に浮かれる田舎町の様子の「ロックバンドがやってきた」、都会と時代の中の冷酷をなぞる「ANGLY BIRD」、自らの仕事の使命に燃える「ポストマン」などなど、微笑ましかったり、ぞくっと来たり、涙を誘ったり、アルバムを聞いているだけでポルノの世界に振り回されっぱなしだ。


 しかし、なぜこんなに色んな曲を書いていけるのだろうか。これは完全に私の妄言だが、ポルノは自分の体験や感性から歌詞を書いているだけではなく、小説を書くように登場人物を決めてストーリーを描いているのではないかと思う。

 「シスター」「カルマの坂」が顕著だと思うが、この二曲はどこか異国の、きっと時代も異なる誰かの物語、として描かれている。


 他にも、「Aokage」は具体的な街並みと青影トンネルという地名も出して、ストーリーにより入り込め易くいるし、「Name is man~君の味方」は不器用ながらも真っ直ぐに「君」を愛そうとする男性の姿が浮かんでくる。

 また、自分の心境をストレートに歌詞に落とし込んだ歌は、「デッサンシリーズ」だと晴一さんが明言しているように、歌詞を作るときはストーリーを意識しているのかなーと勝手に思っている。


 さて、こんなにいろんなタイプの曲を歌っているのなら、こんな気持ちには、この曲がおすすめ!」とポルノソムリエごっこができるのではないだろうかと妄想している。

 「絶対に叶わない恋のお話が好きです」と言われたら、「『ライン』とか、キュンキュンと絶望のバランスがいいですよ」と答えるし、「自分に甘くなってしまうところを何とかしたい……」と言われたら、「『MONSTER』は共感できると思います」と答えるし、「ギターの人(晴一さん)が歌っている曲とかないよね?」と言われたら、「『ウェンディの薄い文字』という名曲がありましてね……」と答えられる。


 そんな風に、たくさんの曲があるポルノグラフィティだが、新譜が出るたびに「こう来たのか!」「この曲調は聞いたことない!」と毎回驚かされる。最近だと、「ライラ」と「一雫」が個人的ヒットだった。

 これからのポルノグラフィティにも、大きく期待をしながら追いかけていきたい。

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