第39話 勝手におすすめ回『百鬼夜行抄』編


 十月二十五日まで、ニコニコ漫画にて、今市子先生の『百鬼夜行抄』が第一話から第五話まで、無料で公開している。

 私はこの漫画大好きで、単行本も全部ではないが持っていて、ニコニコ漫画で掲載されている分も何度も読んだのだが、また読みふけってしまっている。ただ、若干知る人ぞ知るな漫画なので、僭越ながら勝手にご紹介したい。


 ストーリーをざっくり紹介すると、小説家だった亡き祖父・飯嶋蝸牛と同じく強い霊感のある主人公の少年・律が、自分や家族やその周囲で起こった妖魔に関する事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりしてしまうという話。一話完結なので、どこから読んでも入りやすいと思う。

 覚えてほしい設定としては、律の父は実は亡くなっており、その遺体には祖父の使い魔「青嵐」が宿り、父として生活しながら律を守っているということ、とある事件がきっかけで、小型の鴉天狗、尾白と尾黒が律を慕っているということ、母(霊感のある祖父の娘)と祖母は全く霊感がないということ、母方のいとこである、大学生の司ちゃんと社会人だったが大学に編入した晶ちゃんにも霊感があり、律は彼女たちと協力したり厄介ごとを持ち込まれたりするということくらいだろうか。


 妖魔に関する事件と言ったら、派手に戦うシーンを想像されるかもしれないが、そうではない。妖魔は彼らなりの理屈で、あるいは単純におなかが空いているから、人間を襲おうとするのだが、青嵐は律を守る最低限のことしかしないし、律に忠誠心のある尾白と尾黒は霊力が弱くて対抗馬にならない場合が多い。

 ではどうするのかというと、律は妖魔側の事情を調べて、それを解決していく。相手によっては倒すこともあるが、大体は交渉で何とか収まることがあるし、収まらないこともあるし……。


 これが結構斬新だった。妖怪物のセオリーとは異なっているという印象で、ミステリーやサスペンスのような読み味があるのだが、美しい筆致で描かれたシーンはしっかり怖く、しかしユーモアがちりばめられているので非常に読みやすい。

 また、妖魔が一方的に悪いというわけでもないという点が目から鱗だった。判明した事実から、人間が妖魔の約束を反故にしたり、昔からの儀式を怠ったりが原因だったこともあり、人間側のいざこざが負の感情と妖魔を呼び寄せているということもあり、現代のせせこましさと怪しげな闇の世界の融合にぞくぞくする。


 それから、これは何度も読んできたからこそ気付いたことなのだが、シナリオの組み立て方がとんでもなくうまいのだ。

 次々と起こる厄介ごとが、一つの流れとしてつながっていき、解明するラストは圧巻だ。読後感も作品によって異なり、単純に「よかったね」とならない独特さもある。


 あと、個人的な話だと、妖魔のキャラクターデザインがとても素敵。こちらにも、今市子先生らしさが出ていて、ファン同士でどの妖魔の見た目が好きかでも話が盛り上がりそうである。

 ちなみに私は、尾白と尾黒の夜の姿には、グッドデザイン賞をあげたい。それから、青嵐の竜の姿と人の中間、変身途中の姿が非常にグッとくる。


 さて、現在ニコニコ漫画にて、定期的に掲載されている『百鬼夜行抄』、一番新しいのは十二話の前編である。

 私が好きな話、「隣人を見るなかれ」「骨の果実」「凍える影が夢見るもの」「小さい虫」「異界の水守」がニコニコに掲載される時を楽しみにしている。

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