プロローグ

 一定の電子音が真っ白な空間に落ちる。代わり映えのない景色に僕はため息をつく。


『ため息をつくと幸せが逃げるよ』


 外にはいつぞやを彷彿とさせるような雪が降っている。

 君が好きだと言った雪も嫌いになりそうだよ。


「僕のせいだよな。あの時、ちゃんと時間通り行ってたら」


『私もちゃんと周り見てなかったから』


 思わず彼女の眠っているベッドのスーツを握りしめる。


「僕の幸せは君が笑っていることなんだけどな」


『ずっとなんて笑っていられないけどね』


 独り言ちるがいつもの減らず口も返ってこない。


「君がいないと僕はダメなんだ」


『京也は私がいなくても平気でしょ?』


 弱音が零れる。真っ白な空間は彼女の色まで奪ってしまいそうに感じ、相当疲れているんだな、と自嘲気味に笑う。


「僕のことなんて嫌いだろ?」


『それは前に言ったじゃない。でももう一度声が届くなら…』


 君がいないだけで相当参ってる。

 目を覚ましたら君の好きなものをうんと作るよ。

 それから一緒にどこか遠出しよう。

 そういえば前に北海道に行ってみたいって言ってたっけ。

 それから桜が見たいんだっけ。

 きっと休みも取るし美味しいお店も探すよ。

 あの時に言えなかったことを伝えたい。

 だから早く、早く目を覚ましてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る