第7話 命の声

 急いで生まれた命の声を聞いたのは、彼に電話をした三十分後だった。 愛しい我が子が腕の中で泣いている。

 愛しい我が子が腕の中で泣いている。

 出産予定日よりも三日早かった。朝はそんな気配はなかったのに。


「では赤ちゃんは検査室に」

「お願いします」


 赤ちゃんを看護師さんに手渡す。

 小さな手が握っていた私の人差し指が寂しくなる。

 ようやく授かった命。これから母親としてちゃんとやれるかという不安。

 旦那と協力していけるか。いろんなことが頭をよぎり、心臓の動きが早くなる。

 今だってお母さんに甘えている自分が母親になった。

 責任の重さに潰されてしまいそうになる。


「あかり! 生まれたのか!?」

「諒。うん、可愛い女の子」

「そうか。お疲れ様」

「ありがとう」


 急いできた彼の息は荒い。ネクタイも曲がっている。


「これからは三人だな」

「ちゃんと親になれるかな」

「もう親なんだから、一生懸命やるしかないだろ」

「そうだね」


 諒が頭を撫でてくる。大きくて温かい手。

 彼が父親でよかった。


「あかりがお母さんになってくれてよかった」


 私は頬を赤めて微笑んだ。

 今日も命は回っている。消える命、消えそうな命、生まれる命、燃えるように輝く命。

 今日という太陽に命は焼かれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太陽に焼かれる日常 雨月 葵子 @aiko_ugetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ