[番外編短編小説①]砂塵の中で
砂漠の魔物
ここはラメル王国東部の砂漠地帯。
乾燥した岩山が連なっているちょっとした山岳地帯だ。
ここに魔物が出るという。
その魔物にラメル国防隊が手をこまねいている。
ラメル王国も何度も討伐隊を派遣したがその都度敗退しているのだという。最強の鋼鉄人形でさえ退けたその魔物の正体は分かっていない。
ラメル王国軍では手に負えない。それはすなわち、アルマ帝国の中央部隊、すなわち帝都防衛騎士団の出番になるという事だ。
今回、この地に訪れた鋼鉄人形は2機。
俺の乗るゼクローザスと部下の
乾燥した風が吹き抜ける。
それはつむじを巻き砂塵を舞い上げる。
「このあたりだな。黒猫」
「はい大尉。間違いありません」
相手の姿は見えないが、俺は構わず実剣を抜刀した。そして盾を構え周囲を見渡す。
目の前に砂塵が渦を巻き、それは黒い塊となって実体化していく。
それは何と、自分が搭乗している鋼鉄人形ゼクローザスの姿となった。身長10mの人型機動兵器が、鏡に映したように正確に再現されている。しかし、左右逆ではない。右手に盾を持ち左手に実剣を握って構えている。銀と黒のツートンカラー。そして隊長機の印である黄色のマーキングまでそっくりだ。
「大尉。それは!?」
「黒猫。見えるか」
「はい。大尉のゼクローザスが向かい合っています。自分ではどちらが本物か見分けがつきません」
「下がっていろ。火器で支援だ」
「了解」
黒猫の乗った鋼鉄人形インスパイアは後退しライフルを構える。
俺は迷わず、目の前の俺に向かって剣を打ち込む。目の前の俺はそれを盾で受け止め打ち返してくる。踏み込みの癖、打ち込みのタイミングなど自分そっくりな目の前の自分に閉口する。自分と戦うことが、こうもやり難いとは思わなかった。
「こんな経験はしたことがないからな」
「大尉。援護は」
「不要だ」
数度打ち込み、また打ち返される。
実剣と盾を使った攻防では埒が明かないようだ。
俺は盾にありったけの霊力を込める。盾は眩しく光り始めた。
すると眼前にいるゼクローザスの盾も眩しく光り始める。完全に真似をしているのが分かるのだが、中身まで真似できるのかどうか試してみようじゃないか。
この、光り輝く盾はどんな攻撃でもはじき返す最強の盾。しかし、どんなものでも弾き飛ばす最強のハンマーにもなる。
俺は光り輝く盾を構え、目の前の俺に突進していく。目の前の俺も眩しく光る盾を構え突進してくる。盾と盾がぶつかり激しい閃光が弾けた。
その刹那、目の前の俺はただの岩塊となり砕け散った。
「黒猫。付近に術者がいるはずだ。探せ」
「了解」
黒猫は鋼鉄人形から降り付近を捜索する。程なく銀色の毛並みを持つ子ぎつねの獣人を捕まえて帰ってきた。
「そいつが犯人か?」
「そのようですね」
「離せ。この野蛮人。下衆猫」
「おいおい。どんな悪ガキだ。こいつは」
俺も鋼鉄人形から降り、その子供の前に立つ。
「あ、貴方は、帝都防衛騎士団のハーゲン・クロイツ大尉ですね」
「知っているのか」
「もちろんです。全ての少年が憧れる最強のドールマスターですから」
「そう言われてはいるが、私が最強という訳ではないんだ。ところでお前の名は?」
「僕はフェイス。この聖地の守護者さ」
「ここが聖地だとは聞いていないが」
「僕とクレド様の聖地なんだ。勝手に入ってくる奴はやっつけてやるんだ」
「ほう。女神様とどういう関係なのかな」
「大尉。法術人形の法陣を見つけました。そこの洞穴の中にありました」
「破壊しろ」
「止めて! 三年かけて作ったのに!!」
「お前の悪戯が迷惑なんだよ」
黒猫の拳骨を食らうフェイスだった。
フェイスはその場に正座をさせられ、小一時間説教をされた。
以後、この地域に魔物が出現することはなくなったと言う。
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