第3話 鋼鉄人形アルカディア

「皇帝機ジニア。指揮官機ロクセ・ファランクス。汎用機サリッサ。すべて過去の遺物だ。これらの鋼鉄人形は操縦士ドールマスターの霊力を吸い尽くす呪いの人形と呼ばれていたんだ」

「そうらしいね。その中で特別な奴がいるんじゃないの」

「ああ、そうだ。複座型のアルカディア。特別な高出力を与えられたが故、皇室専用となっている奴だ」

「それはどうして? 皇室が恰好つける為なの?」

「馬鹿者。皇室の人間が率先して戦うという意思表示だ。国民の盾となれ。そう教えられてきたからな」

「へえー」

「なぜおまえがこのアルカディアを知っている?」

「クレド様からこれに乗れと言われたんだ。特別なこれに」


 特別なこれ。


 鋼鉄人形アルカディア。


 ドールマスターと法術士がペアで乗り込む特別な鋼鉄人形。万一、有事が起きた際、この帝都を守護するための駆逐兵器。どんな鋼鉄人形でも一撃で屠る力を与えられたその姿は、ほかの人形たちよりも二回り大きい。そして、そのけた違いの能力を発揮する為二人がかりで駆動する。しかし、それでも霊力の消耗は激しく、闘えば操縦士の命を落とすと言われていた。その為、実戦に参加した事は一度も無いという。


 たった一機現存しているアルカディア。私は、その操縦席のある胸の部分へとジャンプして取りつきその扉を開く。扉が開くと私よりも先にフェイスがするりと入り込んだ。私も乗り込んで席に座る。フェイスはちゃっかりと私の膝の上に座った。


「さあ、アルカディアに乗ったぞ。これからどうするんだ?」

「まず人形を起動してください。起動できたならある場所へとテレポートします」

「起動か……。私がやって起動できるのかな?」

「皇室の人ならできるはずですよ。さあ両脇のクリスタルを操作して」

「うるさい。黙ってろ」


 私は操縦席の両脇にある球形のクリスタルの上に手を置き目を瞑る。クリスタルは徐々に光を帯び輝き始める。そして正面にあるモニターが点灯し周囲の様子を映し出した。計器盤も輝き始め、霊力子反応炉が起動シークエンスを開始する。女性の声で鋼鉄人形がアナウンスを始めた。


『霊力子反応炉起動のため、操縦士と法術士は所定の位置についてください。繰り返します。霊力子反応炉起動のため、操縦士と法術士は所定の位置についてください』


「鋼鉄人形がしゃべった?」

「昔のモデルは皆喋っていたみたいですよ」

「知らなかった。ところでフェイス。お前が法術士なのか?」

「ええそうですよ。この体じゃ不味いんで変身しますね」


 銀狐のフェイスがポンと煙に包まれるとその姿は人間の少年となっていた。狐の耳と尻尾がそのまま残っているのはご愛敬といったところだろうか。服装もララと同じグリーン系の迷彩服を着ている。

 私の頭を乗り越え後席に座るフェイス。彼も両脇にあるクリスタルに手を乗せた。


『起動準備完了しました。霊力子反応炉起動します。急激な霊力の消耗にご注意ください』


 ブルンと全体が震える。

 

 グゴゴゴゴ……。


 霊力子反応炉が起動した。その瞬間まるで魂を吸い取られるかのような消耗感があった。ゴゴゴゴという重低音であった反応炉は次第に回転が高くなり音も次第にかん高くなっていく。


 キュイイイイイーン


 高回転となりさらに音は高くなる。そして音は聞こえなくなり振動もなくなった。反応炉は完全に起動した。


『霊力子反応炉起動完了しました。現在、高次元出力アイドリング状態で安定しています』


「上手く行ったね。こんな古いのにちゃんと起動するんだから大したものだよ」

「それは帝国の整備士がきっちりメンテナンスしているからだろう。ここにある鋼鉄人形はどれも稼働可能な状態だと聞いている」

「なるほどね。じゃあ行こうか」

「何処へ行くんだ。それと、ここから出るには中央広場のエレベーターに乗る必要がある。それを動かすと即バレるぞ」

「だからこのアルカディアを使うんでしょ。テレポートで目的地まで瞬間移動するんです。移動直後の霊力不足を解消するためのタンデム仕様なんですから」

「それもそうだな。貴様、霊力は大丈夫なのか」

「お任せください。ボクはクレド様の眷属なんですよ。鋼鉄人形の一つや二つテレポートさせても平気のへっちゃらですから」

「ならばやって見せろ」

「了解」


 フェイスはクリスタルに両手を乗せ瞑目する。そこにアルカディアが応えた。


『テレポート準備完了しました。目的地を念写してください』


「むむむ」


 フェイスが唸っている。鋼鉄人形のテレポートなど、上級のドールマスターでないと不可能なのだ。この狐の少年にそれができるのか、不安に思いながらも正面のモニターを見つめる。


『目的地入力完了しました。鋼鉄人形アルカディア、只今よりテレポート開始します』


 途端に操縦席内が光に包まれる。この虹色の光は高次元空間に満ち溢れる眩いエネルギーでもある。目を瞑っていてもその眩しい光に目がつぶれるのではないかという危機感にさいなまれる。

 眩しい光も消え去り、通常の空間へと戻っていた。


 見覚えのない風景。雪と氷に閉ざされた純白で暗い世界。


『テレポート完了しました。霊力子反応炉、アイドリング状態で安定しています』


「ふう。無事到着」

「ここはどこだ?」

「ここはクレド様の心の中だよ」

「え?」

「驚いた?」

「ああ、当然じゃないか。この氷雪の世界がどうしてクレド様の心の中なのだ」

「だから、ララ様にお願いして来てもらったのさ。本来ここは陽光の輝く温暖な場所なんだ」


 陽光の輝く温暖な場所が雪と氷に覆われている。

 私はやっとクレド様の意図が分かった気がした。

 この場所を氷に閉ざしている元凶を討てと、そういう願いだったのだ。


「そうか、そういう事だったのか。ならば私が適任かもしれないな」

「そういう事。やる気になってくれたんだね」

「ああ、話は分かったからとりあえず朝飯だ。ほらお前も食え」


 リュックから取り出した糧食をフェイスに手渡し、自分もボリボリとかじる。雪と氷の魔物をどう退治するのか。


 その時、私はきっと不敵な笑みを浮かべていたのだと思う。


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