氷雪の魔人

第4話 雪と氷の魔物

 操縦席のモニターには外の世界が映し出されている。

 暗く白い。

 雪が積もり、木々は凍っていた。凍り付いた寒風が吹きすさび悲鳴のよな風の音が響いている。


「ところでフェイス君、話がある」

「何でしょう。姫様」

「防寒着は無いのか?」

「ありません」

「こんな雪と氷の世界だとは言ってなかったな」

「言ってなかったかな? まあいいじゃないですか」

「良くはないだろう」

「大丈夫ですよ。ボクには毛皮があります」

「お前は大丈夫かもしれんが、私は凍えてしまうではないか」

「え? 姫様。まさか外で戦うつもりだったので?」

「戦うというのはそういう事だろう。表に出て思いっきりぶん殴る。他に選択肢はない」

「嫌だな。何のためにこのアルカディアに乗って来たと思ってるんですか?」

「外に出ないで良いのか?」

「多分。相手次第ですけど」

「それはまさか、この鋼鉄人形で戦うという事なのか?」

「他に選択肢はありませんけど」

「なあフェイス君。君が操縦するんだろ?」

「僕は霊力供給のための発電機みたいなものです。操縦士ドールマスターはララ姫ですよ」


 愕然とした。

 そう。私は、鋼鉄人形の操縦に対して劣等感があるのだ。


 鋼鉄人形とは、そもそも法術で動く人型兵器だった。

 古代の人形は木や石で作られており、それを法術士の霊力を使って動かしていた。戦闘人形と呼ばれたそれは身長が3mほどで人型だった。その戦闘人形でも通常の兵隊相手には十分な戦力となったし、攻城戦においては特に有効な攻撃手段となった。

 戦闘人形の素材は次第に金属製へと変わっていき、鋼鉄人形と呼ばれるようになった。身長が10m前後の鋼鉄人形に操縦士ドールマスターが搭乗するようになったのは一万年前だと聞いていた。


『皇族は率先して国民の盾となれ』


 私はそう教えられてきた。

 鋼鉄人形にも乗せられた。素質はあると何度も褒められた。


『鋼鉄人形の力は操縦士ドールマスターの霊力に比例する』


 この事も教わった。

 私の霊力は人並み外れて強かったらしい。


 私が乗った鋼鉄人形は素晴らしい出力を示した。

 格闘戦においては正に無双、天下無敵だった。


 しかし、私が操る鋼鉄人形はその膨大な出力の為に自らを破壊してしまった。


 練習機ネクサス。

 汎用機インスパイア。

 指揮官機ゼクローザス。


 その全てに乗り、そして壊してしまった。そして私は鋼鉄人形への搭乗を禁じられた。


「ララ姫?」

「何だ」

「こないだ、インスパイアをぶっ壊しましたよね」

「あれは不可抗力だ」


 先日、とある事情でインスパイアに乗って戦う事になった。相手の機体は格上であったが、私はそれを圧倒して倒したのだ。しかし、インスパイアのフレームは酷く歪んでしまい修理不能と診断された。


「そうでしょうね。アレは汎用ですからね」

「それはそうだが」

「このアルカディアは皇室専用です。ララ姫の様な馬鹿力の人を乗せるために設計してあるんです」

「そうなのか?」

「そうですよ。どんな鋼鉄人形でさえ一撃で屠る駆逐機。それがインスパイアみたいにやわであるわけがありません」

「自信満々だな」

「ええ。クレド様からそう伺っています」


 そうかもしれない。私の様な霊力の強い者が過去にいなかったはずがない。私が乗って壊れないからこそ他を圧倒できるのだろう。駆逐機であるなら納得できる。そして女神クレドはそのことを知っている。


「クレド様は何でもご存知なのだな」

「もちろんですよ」

「ところでフェイス。あれは何だ?」

「おや。出てきましたね」


 前方に吹雪が渦を巻く。

 周囲には視界がなくなるほどの吹雪が舞う。


 風雪は次第に人の形となっていく。

 風吹は止み視界は回復する。

 そこには身長が20mはあろうかという雪人形がいた。


「あれか」

「あれです」


 私は両脇にあるクリスタルに掌を乗せ意識を集中する。

 実剣を抜刀し目の前にいる雪人形に向かって斬りつけた。


 雪人形は真っ二つになったがすぐにくっついて元通りになった。


 三度斬りつけるも手ごたえはない。

 雪人形はバラバラになるのだが、すぐに元の形に戻ってしまう。


「おい。フェイス。これでは埒があかんぞ」

「確かにそうです」

「弱点は何処か。どう攻略すれば倒せるのか教えろ」

「わかりません」

「この役立たずめ!」


 私は雪人形の心臓を貫き霊気を込めた。

 雪人形は再びバラバラになったのだがすぐに再生を始める。


 しかも、今度は複数の雪人形になって再生した。


 計五体。大きさは変わらず20m級だった。

 その五体が一斉に飛び掛かってきて、そして崩れた。


 私が乗っていた鋼鉄人形アルカディアは雪山の中央に閉じ込められ、そして強固に凍結してしまった。


「フェイス。動けなくなったな」

「そうですね」

「どうするんだ?」

「どうしましょう?」

「策はないのか?」

「ありません」

「自信満々に言うな。この大馬鹿モンが!」


 ゴチン!


 私はフェイスの頭に拳骨を食らわせる。


「痛いです」

「当然だ。何の策もなく敵地に乗り込むなど愚の骨頂というものだぞ」

「ごめんなさい」

「どうする?」

「アルカディアの霊力子ビーム砲で付近一帯を焼き尽くすのは如何でしょうか」

「馬鹿者。ここはクレド様の心の中なのであろう。そんな物騒な武器をぶっ放すわけにはいかないではないか」

「それもそうですね」

「ならばやることは一つ。敵の本体を直接この手で叩く」

「えーっと。マジですか?」

「マジだ」

「敵の本体って?」


 ゴチン!


 再びフェイスの頭に拳骨を食らわせる。


「この阿呆。索敵は貴様の仕事だ」

「ごもっともです」

「本体は何処にいるのか。そしてその本質は何か。それを探せ」

「わかりました」


 銀色のフェイスは目を閉じて精神を集中させた。淡い光に包まれ瞑想するフェイス。

 このままだと何もせずに撤退することになる。できれば、この氷雪の魔物を攻略する手がかりが欲しかった。

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