白い国で少年は王になる

@nihunn

第1話 白い国

世界にはなんでもあるらしい。

人も、魔物も、ドラゴンも。

世界にはなんでもあるらしい。

剣も、盾も、お宝も。


世界にはなんでもあるらしい。


全部本で読んだこと。

僕は一つも見たことがない。


世界にはなんでもあるらしい。

僕は一つも見たことがない。


僕の視界に映るのは 白く染まった僕の森。


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「寒い」

黒いローブを着た少年が街の入り口で一人たたずんでいる。

年のころにして、15、6ほどだろうか。

体格はあまり大きくない。


「早く帰らないと凍えてしまう」

そうつぶやくと、少年はローブを深くかぶりなおして歩みを進めた。

活気に満ちた街並みには目もくれず、通りにひっそりと建つ露店を訪れる。

露店には熊のような主人が一人でいて、鼻をすすりながらごそごそと作業をしている。少年はその後ろ姿に声をかけた。


「寒そうだね」

「おお、ちっさいの。また木の実を持ってきてくれたのか」

「ああ。良かったらまた日用品と交換してもらいたい」

もちろんいいさ、そう答えると店の主人は、大きい体躯を揺らしながら自身の後ろにある大量の荷物をごそごそさぐった。

「そろそろお前が来ると思って用意していたんだ。持っていきな」

そう言うと、主人は大きな袋を重そうにズリズリと引きずり少年の前に置いた。

「いつも悪いな」

少年は袋の口を開け、いくつか中身を取り出し確認すると、また袋の口を閉じた。

随分ぎっしりつまっているな。そう呟くと、今度は懐から小さな袋を取り出す。

「毎回毎回、本当にこんなものでいいのか?」

少年は少し不安気な顔をしながら主人にその袋を渡す。

「これがいいんじゃないか。食べると体がぽかぽかしてよう」

そういうと、その大きな体には少々物足りなそうにも見える木の実を、ぽいっと口に放り込んだ。

「かーっ。寒さにはやっぱりこれが一番効くよ」

顔を紅潮させながら、目と口を全力で細める様子は、なにか酸っぱいものでも食べたかのようだ。

「本当は、自分で取りに行きたいんだ。でもおれには店があるし、なにより森は寒すぎる。お前は良くあんなところに住めるよな」

「あんたがいいなら、いいんだ」

街の方が格段に寒いじゃないか。少年はそう考えながらも口には出さず、フードの上から頭をかいた。

「また、時間を空けてくるよ」

「荷物、今回はちょっと多めに入れといたから。こぼさないようにな」

そういうと主人はにかっと笑った。

「本当に、助かる」

少年は目の前の大きな袋に手を伸ばした。ずしっとした重みが体に伝ってくる。

「これは、あまりにも重すぎないか・・・?」

「遠慮すんなって」

そう言うと、主人はまた、嬉しそうににかっと笑った。


少年は懸命に袋を引きずっていた。

街から家のある森へ繋がる門までは、それなりに距離がある。

門まで辿り着けば馬車があるのだが、街の中は徒歩で移動をするしかない。

なるべく目立たないよう、人気の少ない道を選んでいたので、どうしても遠回りになってしまった。

「あまり、長居はしたくないんだけどな」

必死に荷物を引きずりながら角を曲がった途端、人の通りが急に増えた。

重い荷物のせいで予定よりも時間がかかり、昼時になってしまったが、それでも普段はそこまで人の多い通りではないため、少年は不思議に思った。

「今日は何かの祝祭だったか・・・?」

少年は、街にくるときはいつも休日や祝祭を避けるようにしていた。

いつも行く露店の主人が店を閉じている可能性があることも理由の一つだが、なによりも人ごみを避けたかったからだ。

「少し人が減るのを待つか・・・」

荷物を持つ手に汗がにじんでいる。

重い荷物と壁際まで移動すると、周りを気にしながら、深くかぶったローブから少し頭をだした。

ふと、近くを歩く大人の会話が耳に入る。

「いやー活気があるのはやっぱりいいぜ」

「酒と祭りがかかせねえよな。こんだけ寒い国で楽しくやるにはさ」

「久しぶりのでけえ祭りだからな。騒ぐしかねえぞ」

「ああ。姫様には感謝だ。祭りの準備にも精が出るってもんよ」

酒を片手に歩く男たちは、かなり上機嫌なようだ。

「祭り?なにか祭りがあるのか?」

少年は誰に話すわけでもなく呟く。

「姫様?って言ったな。祝い事か?誕生日でもあるのか。」

去年の今頃はこんな騒ぎはあっただろうか。とにかく、しばらくは街に近寄らないほうがいいな。心の中でそう決めると、ローブを深くかぶりなおし、また荷物を引きずって歩き始める。

楽しげな住人も、一人歩く少年も、街行く人々の吐く息は、街と同じ白色だった。

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