僕が死ぬまであと五分。

Oz

大好きだった君へ

 さて、僕はあと五分で死ぬ。

 え?何をいっているのって?


 そりゃ、僕にもわからないさ。

 でも、確かに、なんとなくだけれども、本能的に理解しているのさ。僕が、あと五分で死ぬって。


 うーん、君のことだから、きっと、訳がわからない、とか、何言ってんの?って首をひねっていると思う。けれども、諦めて読み進めてくれ。


 うん。まずは、君に謝罪を。


 急に死んじゃって、ごめん。


 ……軽いなんて言わないでよ。僕のバカさ加減はきっと君が一番わかっているのだろう?


 ああ、もう一分も過ぎてしまった。


 母さんや父さんにも別れを言いたかったけれども、この調子じゃあ、どう考えても時間が足りないから、君だけに別れを言おう。


 初めて君と出会ったのは、中学校だったかな?僕は何も考えずに過ごしていて、初めて、君とであった。


 はじめの印象は、何か、お高く止まっていそうだなって。


 でも、同じクラスで、同じ委員会で、だんだん、君の印象が変わってきたんだ。


 おっと、もうあと三分か。過去を振り替える時間はもうないね。


 さて、僕の持っている、少ない遺産は全部父さんにと母さんに譲るよ。こんな僕を育ててくれた、大切な両親だからね。悪いけど、君には何もあげられない。

 両親には、返せるだけ返したいから、君には渡せないんだ。


 うーんと親不孝だな、僕は。だって、今、16歳だよ?こんなに早く死んじゃうとは思ってもいなかったよ。


 うん、まだ何であと五分で死ぬのかわからないって言うのは止めて。僕もわかっていないのだから。


 あれ、もうあと二分?早くない?


 ……ちょっと、寂しくなってきたな。君に、もう会えないのか。過去を振り替える時間はもうないけれども、君に、お礼を言わなくちゃ。


 僕を、救ってくれて、ありがとう。

 僕に、人を好きになることを教えてくれて、ありがとう。

 大好きだった……いや、大好きだよ。君のことが。


 あと十年もいきられるのだったらきっと君に、結婚を申し込んでいたのじゃないのかな?


 迷惑だったらごめんね。


 時間が早すぎるって。もうあと一分。


 ………あっ、まって、ちょっと、怖くなってきた。


 死ぬのって、一体どんな感じなのかな。あと一分もしないで死ぬ僕は今さらだけどちょっとだけ興味を持ったよ。


 ああ、さみしい。怖い。嫌だ。死にたくないよ。


 君に、会いたい。君に、触れたい、抱き締めて、大泣きしたい。


 ああああああああああああああ!!!

(暫く解読不能)




 あとじゅうびょう。


 きみがしあわせになることを、いのっています。ぼくは、しあわせでした。いままで、ありがとう。



 じゃあね。









 大通りのテレビから、テレビキャスターの澄んだ声が淡々と流れる。


『○○県のマンションで、十六才の男性の遺体が見つかりました。遺体の側にあった遺書には意味不明の言葉が書かれており、警察は、事件の可能性も視野に入れて捜査をしています。死因は脳出血であると見られており_____』


 道を歩くサラリーマンの群れは、いっそ面白いくらいに見ることも聞くこともせずに、何処か目的をもってと足を進めていた。

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