白昼の再会
購買や学食には生徒が押し寄せ、仲の良い友達同士でお喋りを楽しんでいる子達もいる。昔も今も、学校の昼休みというのはあまり変わらない。変わっているとすれば、それは私自身。
話す相手も、一緒にご飯を食べるような仲のよい友達もいない。昔はちゃんと皆の輪の中に入っていたのに、今では完全に孤立している。
別にそれでも良いんだけどね。無理して仲良くしようとしても、話が合わなかったりギクシャクしたりするのは目に見えているし。
というわけでお昼をとる相手もいない私は、一人購買にやってきていた。
復学して以来、昼食は大抵学食か購買を利用している。手っ取り早い購買の方が多いかな?以前はお母さんが作ってくれていたお弁当を、教室で皆で食べることが多かったけど、今は違う。
しかし、私は未だ購買の昼食戦争にも不慣れだ。ノートをとっていたら、教室を出るのが遅れてしまい、購買についた時には殆ど物が残っていなかったのである。
「最悪……」
廊下にたたずみながら、今にも鳴り出しそうなお腹を押さえる。
夕べ遅く帰った私は、晩御飯抜きだった。朝はコンビニでパンを買ったけど、とっくに消化してしまっている。どうしよう、学食に行こうか?でも今から行っても、絶対に混んでいるだろうし。
こんなことなら、ちゃんとお弁当を持ってくればよかった。一瞬そう思ったけど、すぐにその考えを払拭する。ダメだ、幸恵さんの作ったお弁当なんて、絶対に食べないんだから。
実は復学してからというもの、幸恵さんは毎日お弁当を用意してくれていた。だけど、それを受け取ったことは一度もない。食べてしまったら、幸恵さんをお義母さんと認めてしまうことになる気がするから。
あんな人、お母さんじゃない。私のお母さんは、今は会えない本当のお母さん一人なんだ。
そう思った時、ついに押さえていたお腹が鳴った。どうやら不機嫌な時でも、体は正直らしい。
誰かに聞かれていないかと慌てて周囲を見てみるも、幸い廊下を行き来する生徒達は気づいていない様子。ホッと胸を撫で下ろすと、ふと廊下の向こうからこっちに向かって歩いてくる、見覚えのある人影を見つけた。
(あれ、桐生君?)
そこにあったのは、昨日出会った桐生君の姿。同じ学校だって言ってたけど、本当だったんだ。
どうしよう、昨日はお世話になったし、挨拶くらいしておいた方がいいかな?でも、馴れ馴れしいって思われるかもしれないし……
あれこれ考えているうちにだんだんと距離は近づいてくる。やっぱり、素通りするのは感じ悪いよね。挨拶するのはあくまで社交辞令であって、断じて人恋しいわけでも、桐生君が格好良いからでもない。そう自分に念おしして、声をかける。
「桐生く……」
しかし口を開いた瞬間、誰かが桐生君に、背後から抱きついてきた。
「輝明!今日こそは逃がさないよ!」
「ちょっ?おい
しがみついてきたその人……その女の子を、引き剥がそうとする桐生君。ずいぶん仲が良さそうだけど、友達かな?しかし桐生君は、彼女の激しいスキンシップに困り気味の様子。
「お前なあ。学校ではこういうことやめろって言っただろ」
「むうー、学校じゃなくても、やめろって言うくせにー」
「だったらなおさらやめろ。もうガキじゃないんだから」
よくわからないけど、なんだかお取り込み中のようだ。ここは声をかけない方がいいかな。そう思い直して、立ち去ろうとしたけど。
「あれ、龍宮?」
桐生君の方も私に気づいた。となると、このままスルーって言うのも失礼か。改めて挨拶しようとしていると。
「探したぞ龍宮。昨日話してたことなんだけどな」
そんなことを言ってこっちに近づいてきた。あの渚って子のことはいいの?
「今日の約束の件だけど、今から相談しても良いか?すぐに終わるから」
「ちょっ、ちょっと待って。いったい何の……」
何の話?そう言おうとしたら、行きなり手で口を塞がれた。そして桐生君は、そっと囁いてくる。
「いいから話をあわせてくれ。アイツを撒きたいんだ」
「そんなこと言われてもー」
困っていると、渚と呼ばれた女子生徒もこっちによってくる。小柄な体にボブカットの頭、背は私と同じくらいの可愛い感じの子だった。
「輝明、その人誰?」
怪訝な目で私を見る渚ちゃん。そういえばこの子、桐生君を下の名前で呼んでいるけど、ひょっとして彼女とか?
そんなことを考えていると、桐生君はとんでもないことを口にする。
「最近仲良くなったんだ。夕べも会ってたけど、俺に全てを任せてくれて、可愛かったぞ」
「ええっ⁉」
「はあっ⁉」
私と渚ちゃんの叫びが重なった。
いきなり何言い出すんだこの人は。よくもそんなデタラメを言えたものだ。
だけど桐生君は、私の心中を察したように再び囁いてきた。
「嘘は言ってない。絡まれていたところを助けに入ったら、任せてくれたじゃないか」
「それはそうだけど……」
言いよどんでいると調子に乗ったのか、今度は声のボリュームを上げて発言し始めた。
「あとお前、俺に色々とさらけ出してくれたじゃないか」
「はあっ?それは身の上話をしただけで。わざと変な言い方してるよね!」
間違いなく確信犯だろう。焦りながら渚ちゃんの様子を窺うと、プルプルと肩を震わせていた。
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