時は流れて、今

第16話 再び、祭囃子を聞きながら


 長い回想を終え、再び木葉の方を向く。初めて出会ってからもう六年。今や私も高校二年生だ。思えば随分と長い時間一緒に過ごしたものだ。


「志保、そろそろ下りるよ」


 私を抱えながら白い翼で空を飛んでいた木葉は、そう言って地面へと降り立った。ここまで来れば、夏祭りのあっている神社まではもう少しだ。


 少し歩くと、やがて件の神社が見えてきた。色とりどりの電飾で施された屋台が並び、境内にはそんな賑やかな様子につられてきた人達で溢れている。

 木葉もその中の一人だ。


「かき氷食べたい。あと、綿菓子とイカ焼きとフランクフルト」


 まるで子供のように、自分の食べたい物をあれこれ催促してくる。こんなとこは、初めて出会った六年前からちっとも変わっていない気がする。

 こうして木葉と一緒に夏祭りにきているなんて、出会った頃は想像もしていなかった。


「はいはい。それじゃ、買ってくるからここで待ってなさいよ」


 そう言うと、神社に入る事の出来ない木葉を残し私は境内へと入って行く。 お参りする気も無く、完全に屋台の食べ物目当てだけど、神様には広い心で許してほしい。

 木葉は射的や金魚すくいもやってみたいと言っていたけど、立ち入ることができない以上諦めてもらうしかない。





「あれ、志保じゃない」


 屋台に並んでいると、急に名前を呼ばれた。声のする方を見ると、そこには高校のクラスメイト数人の姿があった。その中には陣内さんの、陣内幸音じんないゆきねの姿もあった。


「あっ、ユキ。それにみんなも。来てたんだ」


 実は入学したての頃にあったお煎餅の一件以来、私達はよく話すようになり、一年以上経った今ではお互いを『志保』、『ユキ』と、名前やあだ名で呼び合っている。ユキ以外にも、彼女を介して沢山の友人が出来た。

 図らずも、木葉が言っていた友達を作ろう計画が実現できたというわけだ。


「志保の家にも、一緒に行こうって電話を入れたんだよ。なのに留守だし、返事もしてくれないんだもん」

「ごめんごめん。知らなかったのよ」

「って言うか、いい加減ケータイくらい買ってもらいなよ」

「何となく苦手なの。ボタンが沢山あるのを見ると、どうすれば良いか分からなくなるの」

「アンタは原始人か。どれだけアナログなのよ」


 こんな風に馬鹿な事を言ってじゃれ合うなんて、中学までの私からは考えもしなかった。

そんな中、私の格好を見て一人がこんな事を言った。


「それにしても浴衣とは、随分気合が入ってるね。さては彼氏とでも一緒に来たの?」


 木葉の事は皆には話したりしていないけど、今までの私の発言の節々から、仲の良い男の子がいるというのは仲間内では周知の事実になっていた。とはいえ彼氏だなんていった覚えは一度も無い。


「そんなんじゃないってば。一人で来たの!」


 声を荒げて否定する。だけどそれは逆効果だった。


「慌ててる」

「怪しい」

「ああ、だから私達とは一緒に来れなかったのか。女の友情よりも男をとるんだね」


 だから彼氏じゃないって言ってるのに。だけど彼女らはそんな私の言う事なんてちっとも聞いてくれず、ニヤニヤとはやしたてる。それどころか――――


「それじゃ、これから一緒に回る?一人で来たんなら別に良いでしょ」

「えっ……」


 それは困る。一緒に回っていたら木葉の所に戻れないし、戻っても妖怪である木葉を見る事が出来ない彼女達からすれば、私が何をやっているのかわからない。こんな時、何と言ったら切り抜けられるのだろう。


「あんた達いい加減にしなさい。志保が困ってるじゃないの」


 困る私を見かねたのか、とうとうユキが助け船を出してきた。


「せっかく彼氏と二人きりなんだから、邪魔しちゃ悪いでしょ」

「いや、だから彼氏じゃないって……」


 木葉を彼氏と誤解している事は置いといて、だけどその気づかいには素直に感謝する。


「ごめんねユキ。私も一緒に回りたいんだけど……」

「いいって。その代わり、今度どこまで行ったか詳しく聞かせなさいよ」


どこまでって何が!そう思ったけど詳しく聞くのが怖くて、私は頼まれていた買い物を終えると、そそくさと木葉の所へと戻る事にする。


「彼氏と仲良くねー」

「浴衣脱がされないように気をつけなよー」


 何言ってるの⁉周りの人がビックリして見てるじゃない!

 去り際に掛けられた声に顔を真っ赤にしながら、私は足早にその場を離れて行った。

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