第9話 コミュ障な私
クラスの誰かに声をかけてみる。そう木葉と約束したのはいいけれど、そう簡単にできたら苦労しない。高校に入ってから、もう半月。ほとんどの子はもうすでにグループを作っていて、その中に割って入るのは、中々難しかった。
「上手くいかないなあ」
気が付けば、そんな独り言が漏れていた。
今は放課後。結局、声をかけてみるという約束は果たせないまま一日が終わってしまった。
いくら何でも自分がここまでコミュ障だとは思わなかった。流石にショックで、私は何をするわけでもなく、教室にある自分の席について黄昏ていた。
いつもなら木葉のいる山へ遊びに行ってる時間だけど、約束を果たせなかった手前、ちょっと行きにくい。声をかける事すらできませんでしたなんて、とても言えない。しかも今日一日を振り返ってみれば、頑張ったとすら言えない。やった事と言えば、せいぜい朝に「おはよう」と挨拶をしたくらいだ。相手の子は挨拶を返してくれたけど、まあそれだけで終わった。
とは言え、いつまでもこうしてジッとしてても始まらない。もう教室には誰もいないし、今日は木葉に会いに行かないにしても、いい加減家に帰ろう。
私は鞄を手にすると、そそくさと教室を後にする。
やるせない気持ちを抱えながら、朝通った通学路を、今度は逆方向に歩いて行く。それにしても今日は、自分のふがいなさを改めて思い知らされた。
昔から他の人には見えないものが見えたせいで気味悪がられ、変な奴だと言われ、気が付けばすっかり人と話すのが苦手になってしまっている。このせいで、中学の頃は友達が一人もいなかったわけだし。
ふと道路の脇を見ると、そこにはフワフワと風になびく一反木綿と、チューチュー鳴く化けネズミがたむろしていた。皆よくこの辺で見かける妖怪で、たまに話をした事もある。妖怪除けの腕輪をしていても、こういう悪さをしない奴らとは普通に接することが出来るのだ。
「おや志保ちゃん、今お帰りかい?」
「あれまあ、制服姿が様になっちゃって。あんなに小さかった志保ちゃんがもう高校生かあ。人間の成長って、早いものだねえ」
まるで近所のおばさんのようなノリで声をかけてくる妖怪達。今更だけど、私って何で人間よりも妖怪とコミュニケーションをとれているんだろう?
大多数の妖怪は未だに警戒の対象ではあるけれど、木葉の影響もあって、最近じゃ悪意のない妖怪と話をするのにはそれほど抵抗が無くなってきている。
「どうでもいいけど、道路で遊んでいたら危ないよ。運転手はアンタ達の事見えないだろうからねえ。お喋りするなら他所でやりなよ」
「はっはっは。アタシらがそんなドジに見え……ああ―――っ!」
言ったそばから、一反木綿が吹っ飛ばされた。と言っても、何も車に撥ねられたわけでは無い。近くを通ったトラックが起こした風で、吹き飛ばされてしまったのだ。
トラックの運転手さんはこの惨事に気づいていないけど、一反木綿も飛ばされただけで怪我はしてないみたいだし、まあ良いだろう。
「一反木綿、あんた大丈夫?」
「平気平気―。ちょっとビックリしただけだよー」
「やっぱり、あまり道路でウロウロしない方が良いよ。ほら、アンタも遊ぶなら安全な所にしなさい」
「はーい」
挨拶をして、そそくさと退散していく化けネズミ。一反木綿もその後を追って去っていく。だけどここでふと気づく。近くで私と同じ制服を着た女の子達が、こっちを見て何やらひそひそと話をしているのを。
「あの子、誰と喋ってるの?」
「危ない人?」
マズイ、人に見られてしまった。妖怪を見る事の出来ない彼女達から見れば、私は誰もいないのにブツブツ言ってる変な奴にしか映らないだろう。
これ以上おかしな所を見られたくないと、慌ててその場から立ち去る。
「……こういう所を見られるのも、友達ができない理由なのかなあ?」
私にしてみればただ妖怪と話すだけ。だけど他の人にとって、それは奇行としか映らない。だから人前では極力話しかけないようにしてきたのに、油断した。
いっそ完全に妖怪と話すのをやめればこんなことも無くなるのだろうけど、見えるモノ、気になってしまうモノを放っておけないのは、私の性分なのである。
とはいえ、今日はこれ以上変なモノにはかかわらないでおこう。木葉と会うのも……今日はいいや。家に帰って、ゆっくり宿題でもするとしよう。
そう思っていたのに、ふと気になるものが視界に入ってきた。道のわきにあったのはバスの停留所と、バスを待つ人たちが腰を休めるためのベンチ。その前で身を屈ませながら、ベンチの下を覗き込む人影があった。
あの人、何やってるんだろう?
そこで屈んでいたのは、妖怪でなく同じ学校の女生徒。着ている制服が同じだ。けど一体、何をしているのだろう?もしかして、財布でも落としたのだろうか?気になって見ていると……
「お煎餅、お煎餅~」
何だろう?奇妙な事を言っている。
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