ミッドナイト小話
――泣かないで。どうか、泣かないで。自分の胸に何度も言い聞かせた。だって、泣いたところを誰かに見られると、泣かないでって、言われてしまうものね。泣くことは、いけないことだから、どこか、人のいないところへ――。
――夢からふと目を覚ますと、真っ暗な部屋の中。手探りで見つけた携帯電話の画面には「A.M 2:21」とありました。そう、ド深夜です。正直なところこんな時間に起きていたくはないのですが、私のこの胸の中はなぜか不安でいっぱいでした。シンと静まり返った夜、さも世界に自分一人しかいないような、そんな不安に。
とはいえ、こんな夜中ですから誰かに連絡するのも考え物です。自分が誰かの大事な睡眠時間を奪ってしまうのは、とても気が引けることですから。……と、実際に誰かの睡眠時間を奪ってしまったわけでもないのに、奪うことになるかもと考えるだけで目がみるみる熱くなってきました。恒例の一人泣きタイムです。
こんなこともあろうかと、毎晩、枕には清潔なタオルを敷いてあります。こんなこともあろうかと、サイドテーブルにはティッシュペーパーが置いてありますし、こんなこともあろうかと、すぐそばにはゴミ箱が……。母が起きれば、私は顔を洗って、まぶたを冷やし、家を出るまでには何事もなかったかのように取り繕います。慣れっこなのです。
部屋で泣きっぱなしも厄介なものですが、まあ、人前で泣くよりは、完全な個人の空間では、誰も何も言わないのですから、自分がちゃんと用意をしていれば済む話なのでずっとマシなのです。……私さえ、ちゃんとしていれば、それで。
「――ッ!」
一人泣きタイムでぼんやりと考え込んでいた最中、ずっと手に握っていた携帯電話が突如として震えたので、それに驚いて携帯電話を投げ飛ばしそうになるのを抑え込みながら、どうにかその通知の旨を確認しました。
田中良久
遅くにごめん。妹に起こされてどうにか寝かしつけたんだけど、今度は僕が眠れなくなってしまって……
田中良久
何か安眠のコツはありますか?
私はクスリと笑いました。
神崎渚子
私も。
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます