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「おつかれ」
どうやらバイトの面接で満点を貰ったらしいみんが、初出勤を終えてから、
「あなた、本当に初めてのアルバイトなの?」
「え、なに? あたしの優秀さに嫉妬してんの?」
物凄くギスギスした店内を後にして、二人を店の外へと移動させた俺はもう慣れてきた二人の喧嘩をただただ眺めていた。
「そうじゃないわよ。ただ、すごいと思っただけ。私は覚えるのに二週間かかったから」
「そう。ありがと」
「え? あ、うん」
まったく、仲が良いのか悪いのか分からないが、最近みんは『ありがと』という言葉を覚えたらしい。
最初の罵詈雑言時と比べると、大きく成長したようにも思えるけど、
「ほら帰るわよ。変態」
「急だなおい」
少し俺が油断すれば、この通り不規則な豆鉄砲を当ててきやがる。
「帰りになんか買うか?」
「お金ないんでしょ? なら今日も晩ご飯作って」
「気使っててくれたのか。でも最高に不味いぞ? 俺の料理は」
「もう慣れた」
そろそろ俺の激マズ料理を食わせるのも悪いなと思って言ったんだけど、余計なお世話だったらしい。
俺も料理スキルの底上げが今後の課題になってきそうだな。
ほら、女の胃袋を掴めって言うだろ?
それ逆か。
「あなた、料理苦手なの? 良かったら私が教えようか?」
もう帰ったのかと思えば、どうやら柚原は俺たちの後を付いてきていたらしい。
「ああ。超苦手だけど……って、ホントか!?」
「ええ。私こう見えて料理は毎日作ってるからそれなりなの」
ここに来て救世主発見!
近々料理教室にでも通おうか真剣に悩んでいた俺だが、同時に入会量金が高すぎて手を出せなかったのも事実。
そんな時にこの話は、おいしいという他あるまい。
「ぜひ……!」
「ダメ」
俺が一つ返事でオーケーを出すと、光の速さのごとくみんがそれを否定。
「いやダメって言っても、今後俺の作る料理が劇的に美味くなるかもしれないんだぞ?」
「それでもダメ。あたしがダメって言ったらダメ」
「いや、どういうことだよ――」
俺がみんの訳分からない言葉に苦悩していると、その刹那彼女は俺の手を勢いよく引っ張って家路に向けて走り出していった。
「――ちょっと!」
後方から柚原の声が聞こえるが、俺もよく分からないんだ!
「おい、みん」
「いいから」
◇◆◇
「いったいどういうつもりなんだよ。せっかく料理教えてもらえたのによ」
みんに強引に引っ張られたせいで、物凄い疲労感を覚えていた俺は自宅の玄関で突っ伏していた。
ただでさえ体力がないんだ。
この仕打ちは辛すぎる。
そして
「はぁ……疲れた」
「そりゃそうだろ。急にどうしたんだよ」
こいつらしくないと言えばこいつらしくない。
いつものみんならば、言いたいことがあればはっきりと、口悪く言ってくるはずだ。
それなのに、今日のこいつは何だかおかしい。
「ねえ、あんた」
するとみんが俺を見つめながら一言。
彼女は手うちわで自身の顔を仰ぎながらも、その反動で首筋には一滴の汗が胸元の中へと流れるように落ちていった。
「何だよ」
「あの女、誰なの?」
柚原のことか。
「俺も最近知り合ったばかりでよく分からん」
「知り合ったって、どこで?」
「ゲームショップだよ。ほら、近くの」
「いつ?」
「んー、確かお前に告った日の放課後だった気がする」
「へぇー」
え、何怖い!
みんの野郎、めちゃくちゃ睨んでくるんだけど!
「貸して」
「……ん?」
「あんたのやってるゲームよ。早く貸して」
「……え? でもお前ギャルゲーは嫌いなんじゃ――」
「気が変わったの。面白いの貸してね」
バイトが終わったと思えば俺を引きずり回し、ギャルゲーを罵倒しておきながら今度はギャルゲーを貸せと。
この前までの俺ならわけが分からな過ぎてブチ切れていたところだが、こいつに説教が逆効果なのは知っている。
それに珍しくみんの方から俺に歩み寄ってくれているんだ。
このルートは下手に逃すものではない。
「フフフ、良いだろう! 今夜は寝られないと思うんだな!」
「え、なに。あたし今夜襲われるの?」
「は……はあ? ち、ちげーよ!! ……まあ、いいからこれから始めてみろ」
俺が手渡したのはギャルゲーの前に、超感動作としてギャルゲー黎明期に日本全国の紳士たちを感涙させた、いわゆる泣きゲーというやつだ。
初心者にこの作品を最初にプレイさせるのは少し気が引けるが、逆に言えば最初にこれをプレイしてハマれば素質があるというものだ。
「なんか、目が大きな女の子が現れたんだけど……どうやって捕まえるの?」
「それ捕まえるゲームじゃないから! ……いいか、まずは俺が手本を見せてやろうじゃないか」
「あ、めんどくさいスイッチ入った」
まあ、明日から学校だが今日ぐらいは良いだろう。
授業中に寝れば万事解決だしな。
結婚、相手は腹黒アイドル。学生です。 全人類の敵 @hime_sakura
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