名前
「で……本当にこの店で良いんだよな?」
「うん」
「家から少しかかるけど、本当に良いんだな?」
「しつこいな~、自転車行くから大丈夫」
「誰の?」
「あたしの」
「いや、俺のだろ」
「うるさい」
ジャイ○アンかよ。
「まあ、あんたが心配してくれてるのは嬉しいけど、あたし有能だから心配いらないんだけどね」
「ちっ、可愛くないやつめ」
「本音じゃないくせに」
などと、いつもの様なやり取りを終えたところで、そろそろ黒ずくめ金髪女がなぜここにいるのか理由を聞いてやろうじゃないか。
「あー、なんだ、その……久しぶりだな」
「え? あ、うん久しぶりね」
「会うのは三度目かな。一応顔見知りだし、名前を聞いてもいいか?」
「そうね。私の名前は
「俺の名前は安達申。よ、よろしく」
「よ、よろしく」
この黒ずくめ金髪女、というか今は黒ずくめではないためただの金髪女だが、柚原というらしい。
「いきなりで悪いんだけど、何で柚原はこの店にいるんだ? それもこの店の従業員しか着れない制服着てさ」
こんなこと、わざわざ訊かずとも分かりきったようなものだが、
「私、このお店でアルバイトしてるの」
まあ、当然の返答だ。
すると先程から居心地の悪そうなオーラを醸し出していたみんが、遂には口を開けて柚原の前に飛び出し、
「あたしも今日からここで働くから。よろしく、柚原“センパイ”」
「あらあら、そうだったのね。まあ精々皿を割りすぎないように頑張るといいわ、“コウハイ”」
何か女の黒い部分を見てしまった俺だが、女のドス黒い部分ならいつも見てるので案外寛容な自分が怖いぜ。
でもさ、みん。
「店長、この人このお店のアルバイト志望だそうです」
「ほー、えらいべっぴんさんやのう」
柚原が厨房に戻るなり連れてきた女店長が、みんを容貌を見るなり口をあんぐりと開けていた。
俺だってこいつを初めて見たときは、このくらい驚いたものだ。
「いえいえ、そんな」
こいつまた猫被ってやがるが、内心では『あたしが可愛いとかそんなの当り前だし、だから早く合格させてよ~』とか思ってそうだな。
そこで俺がみんの目を見つめると、彼女は露骨に逸らし始めていた。
恐らくは図星だろう。
今は女店長からポイントを稼いでるところだから余計なこと言ったら許さないみたいな顔してるので、俺は敢えて何も言わないことにした。
まあ、言ったら言ったでみんのバイト先決まるのが遅くなって、最悪携帯料金払えないといった地獄が待っているからな。
「なら」
「はい」
「今から面接を行うから、別室まで付いて来て頂戴。ゆゆこちゃんはその間店番頼んだよ~」
「分かりました!」
するとみんはカウンターパンチを食らったせいか、突如としてあまりにも下手くそな作り笑いを浮かべながら、
「め、めんせつ……このあたしが」
幸いにも女店長には聞こえていなかったようだが、可愛さだけで渡れるほど世の中は甘くないということだな。
だから三次元はクソゲーなわけだが。
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