第15話 霊宮ラァストゥ

 ーーーある少年少女の会話


『ねえあそこに見えるブライア島に幽霊が出るんだって恐いでしょ?』


『恐く無いさ、この名剣レイピアがあれば魔物なんてイチコロさ僕の先生は、王宮剣士の指南役ヤハルア先生だよ』


『リタムなんかの剣より、この俺の杖を見ろよ。凄い退魔の力が宿ってて、悪霊や死霊も寄ってこれないってパパとママが言ってたから俺は平気だ』


『僕だって新品の船のキャラックを好きな時に乗っていいってパパから言われてるんだ。それに僕の銀の鎧は魔虫の攻撃も防げるから、リティーナを魔物から守ってあげるよ』


『あの島の地下にはお花畑や空のような景色があるんだって私1度見てみたいわ』


『じゃあ連れてってあげるよ』


 事の発端は些細な会話だった


 ーーー*

『では、ぼっちゃま後で御迎えに上がります』


『パパとママに言ったら怒るからね』


 背筋のしっかり張った老執事がお辞儀をする。


『心得ております。マロンぼっちゃま』


 キャラック船がアグアの港に向けて去って行った。


『最初はギルドに行くのかしら?』


『僕らは貴族だよ、平民の許可など要らないよ』


『簡単さ、向こうの奥にキレイな建物があるからあそこに行けば、いいんだよ』


『そろそろ僕のレイピアの出番かな?』


 子供達は、霊を見えないので退魔の杖の力に気付く事もなく難なく霊宮に着いた。


『リタム! はやくやっつけてよ!』


『こんな大きいの無理だよ!』


『戻って逃げよう!』


『階段の方に、魔獣がまだいるから奥に逃げよう!』


 奥の右側の扉を開けて逃げ込んだ、そこに拡がるのは。


『有ったわ素敵なお花畑。綺麗ね嬉しいわ』


『地下に滝がある。空も雲も太陽も』


『ペガサスがいるよ』


『リティーナ僕と踊ってくれないか?』


『いいわ踊りましょう』


 地下で子供達の舞踏会が始まった。


 ー ー ー *


 神流かんな達が扉を覗くと先に入った3人が魔物達に囲まれる中で、手を繋いで陽気に踊っていた。


 柱だらけのピロティ風の石造りの殺風景な広間に人間や魔物の死骸が散らばっている。


 少し離れた場所に聳える魔樹イービルプラントから混乱花粉が飛散し、頭の上で乱れ飛ぶ魔蛾ポイズンモス2匹は、幻惑鱗粉が降り注いでいる。

 3人にイービルプラントから蔓が伸びて絡み付きポイズンモスが持ち上げて運ぼうとする。


 2人が、すぐさま救出に動いた。


 神流かんなはベリアルサービルを起動ファイアアップさせ後ろから、セーリューとレッドに向けて【脳防御ブレインガード】、【精神冷静メンタルカーム】を撃ち援護してから後を追う。


 玄人であるセーリューの槍捌きで羽根を落とされた魔蛾ポイズンモスは、2匹一緒に串刺しにされ胴体に大きな風穴が空き息絶えた。


『手応えないのう、なぁ?』


 槍応えが無く、不満そうなセーリューを余所に、レッドは魔樹の蔓を短剣で切っていきリスト達3人を開放していく。


 奥には糸でくるまれた人間のような繭が無造作に転がっていた。

 それに群がるポイズンモスの幼虫達が、それを食べているようだ、幾つかはもう残骸になっていた。


 セーリューとレッドが槍と短剣で瞬く間に魔蛾の幼虫達を殲滅する。幼虫達は小さな呻き声をギユーギユー上げ絶命していく。

 幼虫達を一掃し終えて、中の人間に傷つけないように慎重に繭を切り裂いていく。


 神流かんなは、まだ混乱花粉を撒き散らして邪悪な動作を見せるイービルプラントの前に行く。

 【麻痺レームング】を重ね撃ちし動きを鈍らせ、レッドから借りたランプの油をかけジッポで燃やした。


かなりの広さだから一酸化炭素中毒にはならない。


『ブハッ』『ゲホッ』『プハッ』

『遅いよ!』『ワーン!』『パパー!』


 取り合えず依頼の子供達を含めて、生き残った6人を救出する事が出来た、リスト達には刻印を撃ち回復させている。


 混乱と幻惑のコンボは悪辣過ぎる、魔物自体は弱いが、どっちから吸い込んでも認識が遅れたらアウトだ初見で見破るのは、かなり難しいだろう。


 その時の神流かんなは気付かない、左手の小指の指輪が鉛色から青い銀色変わっていき明滅し始めている事に。


 それより目的は済んだ早く戻ろう。


 神流かんな達は追い縋るサソリ魔獣を蹴散らしながら螺旋階段まで無事辿りついた。


 階段を登り終えると神流かんなは2人に声をかける。


「レッド、セーリューさん、チョッと忘れ物したから取ってくる」


『了解ですよ』


『その歳で、もの忘れじゃ先が思いやられるなぁ、なぁ?』


「先にギルドに戻るなら必ず走る事、一応、塩を渡しておく、直ぐに戻ってきますよ」


 神流かんなは薄暗い螺旋階段で下へ戻って行く。


暫く降りていくと階段の途中にべリアルのものでは無いシジルゲートが凶兆を告げるように浮かんでいた。


小指の指輪は、悪寒を誘うように青く、そして白く明滅していた。

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堕天使マニピュレイション第一楽章 愛沙とし @ststst205

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