第6章 捜査依頼 弐
「こ、こんにちわ。改めて聞くけどここで何してるの?」
逆に穂積が動揺していた。取り繕うように質問を続けると男性はこう答えた。
「宝物を探しているんだよ!」
それはまるで買ってもらったばかりの自転車を自慢するかのようにはしゃいで目を輝かせていた。
「宝物がそんなところに埋まっているの?」
穂積はオウム返しするしかなかった。まるで心境が掴めなかったためだ。
「ほら、人間が使ったり食べたりしたものがたくさんあるんだ、とても神秘的だとは思わない?」
その疑問はさらなる疑問へと深まった。
「なんでそう思うの?」
「だって生きてるじゃん!」
理由はとても単純だった。
「これ見て、歯磨き粉っていうんだよ。」
「歯磨き粉がそんなに珍しいかい?」
「うん!だって僕は使わないからさ。人間ってどうしてせっかく買ったものなのに簡単に捨てちゃうの?」
そんなこと一度も考えたことがなかった穂積は何も答えることができなかった。
「僕にはそれがうらやましくてしょうがないんだ。」
一拍置いて男性は続けた。
「時々僕は本当に生きているのかなって不安になるときがあるの。そんな時こうやって人間が使ったものに囲まれると落ち着くんだ。お兄さんたちはどんな時生きてるって感じる?」
この男性は見た目こそ20代ではあるがまだ製造されて間もないアンドロイドなのだなと二人は感じ取っていた。しかし自分にないものを嫉むのは人間でもあることだ。命に関してこんなに一生懸命に向き合っているアンドロイドに出会ったのはおそらく初めてだろう。
「そうだな、僕は大切な人と一緒にいるときかな。家族とか友人とかかけがえのない存在と共に過ごしている時が一番楽しいしなにより生きていく励みになるかな。」
もしも万が一のことを考え、穂積は由利の名前を出すのを控えた。
「あれ、穂積君。君は彼女と別れたりしたのかい?」
男性に向け放っている笑顔とは裏腹、怒りが内側を支配している。何とかギリギリのところで耐えたのを褒めてもらいたいものだ。
「そっかー、家族かー。僕にはそういう気持ちになれる人とは出会ってないなー。」
男性は答えた。穂積のことを察したのかは定かではないが彼女について触れてこないのだけが助けだった。
「君、名前は?」
今頃になって聞いていなかったことを思い出し、いいタイミングを見図って穂積は問う。
「
元気よく返事が来た。
「お、成英君。職業は?」
アンドロイドは個人、企業ともに発注することで購入が可能だ。その際親の代わりとして3ヵ月間アンドロイドの世話をしなくてはならない。もちろん衣、食、住をだ。
「僕、工場で買われたんだけど少し前に辞めちゃって。今はこの近くの橋の下で暮らしているよ。」
最近、アンドロイドのホームレス化が社会問題になっている。横暴な人間や職場になじめなかったり理由は様々だが、それの解決方法を生み出せずにいるのが現状だ。
「そうか、もしよかったら仕事探してみない?お兄さんが成英君の住むとこ探してあげるよ。」
アンドロイドにも人権はあるので生活保護が受けられる。しかしそんなアンドロイドはごまんといる中、申請が通らない方が多い。
「え、ほんと?でも僕ちゃんと働けるかどうか心配だよ・・・。僕、一人だから。」
環境が整っていてもモチベーションが続かなければ結果は一緒。振出しに戻るだけになってしまう。
「成英君はもう一人じゃないでしょ?」
穂積は得意げに言った。
「お兄さんたちはもうお友達だよ。」
「俺もかよ・・・。」
後からボソッと聞こえた。
「えー!ほんとー!やったー!」
成英は心の底から喜んだ。自分が生きてきた3年半、誰一人として心は通じなかったのだ。上司には疎まれ、ご近所にも疎まれ自分が生きる世界ではないとうっすら思い始めていた成英にとって涙が出るほど嬉しかったのだ。あるはずのない涙を。
「この近くにある警察署にお兄さんたちはいるからいつでも遊びにおいで。それとこれ、いつでもかけていいからね。」
そういって穂積の電話番号が書かれた紙を成英に渡した。
「わかった!ありがとう!」
成英は穂積に抱き着いた。
「あ、ただね。一つ約束。」
「ん?なあに?」
「これからゴミの中で泳いだり、遊んじゃ駄目ね。」
「うん、わかった。」
成英はしょんぼりする様子を見せた。
「それともう一つ。お兄さんたちね、仕事があるんだけど手伝ってくれる?」
「うん!いいよ!」
「手伝うって程のことではないんだけどね、成英君の話少し聞きたいんだ。」
「わかった!」
立ち上がり新木の方へ振り向いた穂積は、
「これで一件落着ですね。」
と親指を立てた。
「そうだな、穂積君。後は任せたよ。」
それを言い残すと新木は背を向け行ってしまった。
「えー、待ってくださいよー!」
穂積は新木の後を追いかけた。しっかり繋がれた成英と共に。
Idea ゴンザレス田中 @hamidasiTNK
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