この超絶スペックの俺にあいつが落ちないはずがない!
プル・メープル
プロローグ 完璧ライフの始まり
ガチャリと玄関の扉が閉まる音が、薄暗い家の中に響く。ふぅとひとつため息とともに疲労感を吐き出し、靴を脱いで風呂場に向かう。
今日も5キロ、いつも通りだ。
独り言を呟きながらやや冷たいシャワーの水で汗と疲れを流す。朝からのランニングでの体の火照りが落ち着いていくのを感じる。
蛇口をひねり水を止め、風呂場から出て髪と体を拭く。
「今日も俺、朝から頑張ってる!」
俺は脱衣所と一体化している隣の洗面所にある鏡の前に立ち、軽く決めポーズをしてみる。
「ふふん、我ながら引き締まった筋肉が輝かしいぜ」
そんなふうにいくらか決めポーズをしていると、脱衣所兼洗面所の扉が開いた。
「あ、里奈、おはよう」
俺は最高改め、超絶イケメンな笑顔で妹のグッドモーニングを飾る。ちなみに義妹だ。
「………」
「ん?里奈?おはよう」
聞こえなかったのかもしれないと、もう一度呼びかけてみるが、里奈の目は真っ直ぐに、そして冷徹に俺を見つめている。
少しの沈黙の後、やっと里奈が口を開いた。
「キモイ…」
里奈はそうとだけ言うと扉を思いっきり閉めて行ってしまった。
「あはは、相も変わらず素直じゃないなぁ」
洗面台の横に置いてあるスマホを横目で見てみると、里奈から7通もメッセージが来ていた。後でゆっくり確認するとしよう。
「あ、お兄ちゃん!おはよ!」
スマホから視線をはずし、もう一度扉の方へ向ける。その瞬間、俺の目の前に小さな影が飛び込んできた。
「お兄ちゃ〜ん!今日も朝からランニング?さすがだね!」
まだ外は薄暗いと言うのに、瑠里は目をきらきらさせながら俺の目を見つめてくる。ちなみにこっちは血の繋がった妹だ。
「えへへ、相も変わらずいい体してますなぁ〜」
「や、やめろって…あはは!」
遠慮なしに脇腹をくすぐってくる瑠里をなんとか引き剥がす。もう少しで窒息するところだった…。「きんにくぅ…」と、しょんぼりとする妹を脇に抱えてリビングに向かう。途中でまだ服を着ていないことに気づいて戻ったことは内緒だ。
リビングの扉に手をかけたところで足が止まる。
「この匂い…炭水化物と脂質たっぷりの匂い……」
俺は急速に方向転換し、階段を上る。
「お兄ちゃん!私をどこに連れて行く気!」
「あ、忘れてた…」
悪者に連れ去られる美少女的心情の妹はそっと下ろしてやって、階段を上る。
その時、下からガチャッと言うとが聞こえた。
「はるくーん!るりちゃーん!ご飯よ〜!」
その声の主は俺と瑠里の実の母親、里奈からすれば義母だ。
里奈が家に来たわけはおいおい話すとして…。
「みーつけたっ」
その声とともに影から小さな影が顔を出す。俺の母さんはとてもせが小さい。推定98cmだ。
「今日こそは逃がさないもんねっ」
母さんは俺のズボンをがっしりと掴んで離そうとしない。もう、ズボンを引きずり下ろさんばかりの勢いでグイグイ引っ張る。ゴム伸びるからやめてくれ…。
「…わかったよ、食べるよ」
俺がため息をつきながら言うと、母さんはニコッと笑って、
「お母さんの勝ちねっ」
なんて言いながら喜んでいる。
いや、別にかわいいとか思ってないけど。
母さんは俺のズボンを握ったままリビングの方へと引っ張る。俺は身長175くらいあるし、幼稚園児並みの体格の母さんに引っ張れるはずもなく、「んー、んー、こっちー!」と、精一杯力をふりしぼっているようだ。俺は仕方なく引っ張られる演技をしてやる。
「んへへ、こっちこっち〜」
母さんも嬉しそうだし、よしとしよう。
「沢山食べてね!」
俺の目の前に並べられた朝食は、
・トンカツ
・カレーライス
・唐揚げ
高カロリー朝食が目の前で狂気を放っているように俺には見える。
「いや、無理…」
「え…」
先程までニコニコしていた母さんは今は一転して目に涙をためている。
「そんな目をしたってダメだ。せっかくランニングしてきたって言うのに、こんな高カロリーのもの食べたら無駄になるだろ?」
「でも、はるくんのことを想って、頑張って作ったのに……」
「じゃあ里奈にでもたべてもらう」
「冷たい!?」
「じゃ、行ってきます」
「えぇ!?朝ごはんはぁぁぁ?」
母さんの声に扉の閉まるガチャリという音が重なる。そのまま振り返りもせず、俺は学校への道を歩き始めた。
少し昔話をしよう。
俺は昔、太っていた。別にたべ過ぎとか運動不足とかじゃなく、体質的に太りやすかったらしい。
その時にいろいろとあったんだが、そのことはまた今度にでも話すとしよう。
とにかく、その出来事があってから俺は変わった。
普通のものを食べても太るなら、普通以下のカロリー摂取にすればいい。幸いにも俺は少ないカロリーでも人一倍運動が可能だった。
それからというもの、俺の人生は変わった。見事に痩せた俺はちょうど成長期を迎え、今の高身長を手に入れた。
前の学校では我ながらモテモテだったし、おかげで自信もついた。あの人に会うまでにもっと完璧な男になる、あの時俺はそう決めたんだ。今更過去の自分は裏切れない。
考え事をしているうちに学校についた。
「俺の完璧ライフがここで始まるんだ!」
俺ははじめの一歩を踏み出した(2日目だけど)。
この超絶スペックの俺にあいつが落ちないはずがない! プル・メープル @PURUMEPURU
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