《幕間》 浅間龍我の役割・後編

 二〇一〇年八月三一日──日本・東京

 山手線。一周の長さは三十四・五キロメートル。一周までの所要時間は内回り外回り共に約一時間。駅は全部で二十九駅──円の形をしており、それは太極図によく似ていた。


 ビルの合間を緑の車両が定期的に通過していく。都会では見慣れた光景だ。だが、その日、電車が動くことはなく、朝焼けと共に白い霧が消えると──山手線内の空間は《黒い霧》──いや深淵そのものが建造物のすべてを飲み込み、一瞬にして《異界》が顕現したのだ。


 ──それは生き物のように見えた。

 ──それは膨大で、禍々しくて、壮絶な黒い何かだった。

 それは黒々とうねり、雄たけびを上げるかの如く囂々ごうごうと蠢いている。

 山手線の内側はもはや人外の世界であり、建物がすべて深淵に浸り溶けていく。揺らめきは炎に似ているが、焼ける匂いなどはない。何もかもが分子レベルまで分解されて消えていく。

 二カ月前から住民の退去命令が出ており、あの中に人はいない。それだけ救いといえるが、絶望的な状況であることに変わりはない。


「……ふむ。やはりどう足掻いても、この未来だけはだったという訳か」


 凄惨な光景を前に、口を開いたのは官房長官──五十君雅也いきみまさやだった。五十代とは思えぬ引き締まった肉体、上質のスーツを着こなしている。オールバックで整えた髪が強風によって僅かに乱れた。しかし、彼は言葉を続ける。


「《鉄の結界》は道之神みちゆきのかみ、そして土地神からの助力により筑波山、成田山、高尾山の山の気を最大限に引き出す事で《異界》を部分的ではなく、一か所にまとめることが出来た。これは、三カ月前に起こった学校襲撃事件があったからこそ、対策が練られたともいえる。あの時は全国で同時に《異界》化に近い状況へとなった。ならば、こちらからあえて、一か所に顕現できるように仕掛ければ──この通りだ」


 山手線の線路に、漆黒がゆらゆらと近づいた瞬間──青い火花を散らしてソレは弾かれた。


「うわぁ、すごい。これがこの国にあるヨクナイモノですかー。凄まじい規模ですね」


「ふう」と紫煙を吐きながら、浅間龍我あさまりゅうがは眼下に見える巨大な黒いソレを見据えた。煙草は既製品とは異なり、その匂いはどこか花の香りのように甘い。

 凪いだ風が深緑色の髪を揺らすが、当人は全く気にせず猛禽類のように異界を鋭く睨む。


 国のヨクナイモノの集合体。それは間違いだと浅間は指摘しなかった。楓には状況が見えていないのだろう。眼前に広がっているのは、せいぜい《異界》の表面上に過ぎない。この規模で《異界》そのものであるなら、数千年前にカタがついている。


「よし第二段階に移行するぞ」


「ええ!? 聞いてないッスよ!?」と宇佐美楓うさみかえでは喚いた。


(こいつは本当に作戦会議に出ていたのか? あの時に役割も決めた筈だが……この分ではノインにもまともに情報が伝わっていないだろうな)


 案の定、ノインは自身の持つ情報を頼りに推測を立てて浅間に尋ねる。


「……推測。《MARS七三〇計画》では《七福之神》の力を借りて、負の力を昇華させて生の流れに戻す術式を使用。《OperationO AbsoluteA ZeroZ》では、秋月燈心の友その壱とのある契約によって、封じられていた《厄災》を浄化または削ぐ方法だった。今回はこの二つの方法──ではない第三の計画を実行すると判断できるが……間違いだろうか?」


 浅間はノインの言葉に、妙な引っかかりを覚えた。何かが脳裏に過るが、その違和感はすぐに消え去る。


「…………?」


 浅間は僅かに眉を寄せる。だが、その差異に気付くものは誰もいなかった。

 浅間の代わりにノインの問いに答えたのは、彼の父親である五十君だった。


「その通り。……《七福之神》の方法は昔から有名でね。御霊信仰ごりょうしんこうと同じく、《怨霊》や《祟り》によって生じた厄災に対して、霊魂の怒りを丁重に鎮め慰める。これによって負のエネルギーを清廉なエネルギーと昇華させて、国家安寧してきた」


「なるほどー。だからこの国で《幸福の象徴》とされている、《七福之神》を術式の核にしたってことですかね?」


 楓の発言に、浅間は灰が溜まった煙草を口につけた。「ふう」と紫煙を吐き出す。


「表向き《福を運んでくる神》だとされてきたと言う方が正しい」


「んん……と言うと?」と楓は首を傾げた。


「《七福神巡り》などは昭和五十年代半ば、一九七八年から八三年に急激に増えたもので、古くから信仰があったとは言えん。……と言うのも、日本が高度経済成長期を終えた後、先が見えない時代となりその不安を解消する一種の流行りとして爆発的な人気を誇ったからだ。この信仰の起源は室町時代に形成された──が、祀られた神々のメンツを見れば分かるように、《七つの神々》もまた《禍之神》から昇華され《福之神》へと転じた御霊信仰に連なるものといえる」


「むぅ? アタシは他の国から来たから、日本の信仰はちょっとよくわからないかも。なんというか独特で複雑。アタシたち魔女の一族は森の声を聴いて、星の瞬きを見つめて、動物たちに寄り添う。それ以外の厄災は駆除して弔うで十分でしょ」


 魔女の一族として生きてきた楓は、憮然に言い切った。浅間は否定せず言葉を続ける。


「なら今から異界より溢れ出る《物怪もっけ》のことをよく見ておけ。貴様らも知っているだろうが、《物怪》は人の負の感情によって膨れ上がったエネルギーが、アヤカシを引き寄せ《因縁》によって結びつき、それらに《形》を与えることで顕現する。ここでいうアヤカシとは、《古き神》や《神が零落した姿》という意味だ」


 浅間の言葉に楓はピンとこないのか、首をひねった。代わりにノインが口を挟む。


「理解把握──つまり、敵は《神》の形状をした人間の負の感情そのものだということ」


「要はカミサマモドキを、ぶん殴ればいいってことでしょ!」


 そういうと楓は「にひひ♪」と楽し気に拳を合わせて、足は軽くステップを踏み始めた。


「……シンプルに言うとそうだが」


 浅間は教師──いや、教官のような厳格な態度で次代を担うであろう二人に、言葉を重ねる。


「《物怪》の元となった人間の肉体はすでに朽ちており存在しない。故に思念体であり、想いが具現化して時を経て残っている。そしてそんなものでも、魂の一部から派生したものである場合、浄化と昇華が出来なければ、滅ぼすしかない」


「……っていうか、滅ぼすで良いんじゃないですか? 自業自得だし、魂の一部が欠けたとしても、数百年の間に善行を積めば戻るだろうし」


 楓は楽天的かつ、辛辣な考えを述べた。それは正しいのかもしれない。全てを掬い上げるなど傲慢で、愚かな身の程知らず人間の吐く絵空事だ。


「そうだな貴様の言う通り、善行──誰かの為に何かをする。極々当たり前で普通の事だが、魂が欠けていくとそれすら出来なくなる。そうやって転生を繰り返していくと魂が本来の形になれず、形を崩し──魂が歪んだ大多数の人間が転生すれば、どうなるかわかりきっているだろう」


「でも、出来ることと、できない事はありますよ!? だいたいあんな馬鹿でかいものの浄化なんて現実的じゃないじゃないですか。ある程度量を減らして、封印ってのが妥当なところですよ!」


 楓は浅間の話を軽く受け流し、戦う気満々のようだ。ノインも口にはしないが、考えていることは楓と近いだろう。

 一時的な解決なら力業でねじ伏せられる。だが、この手の問題は、それでは絶対に解決しない。それは何百、何千年と人間が繰り返してきた行為だからだ。


「《同じ事を繰り返しておきながら、異なる結果を期待するとは、頭がどうかしている》、アインシュタインの言葉だったか」


 独りごちる声は、二人に届いたかどうかはわからない。もし、ここに秋月燈がいたなら、なんと言っただろうか。


(アレは、浄化を第一に考える。なんであろうと、向き合おうとするからこそ、アヤカシ古き神々から好かれるのだろう。秋月燈が見ているのは、常に心の内であり本心だからな)


 《物怪》を倒す方法はいくつかあるが、たしかに、手っ取り早いのは跡形もなく滅ぼすことだ。浄化と昇華は時間も手間もかかる上に、リスクも伴う。

 なにせ眼前に広がっているのは、この国が先延ばしにして、封じるだけ封じてきた《呪い》そのものだ。誰もその事実に目を伏せてきた。だが、その事実を浅間は口にしない。


(結局、これもコイツらが気づかなければ、意味はない。それは今を生きる人間全てに当てはまる)


 魂が欠け続けた世界。

 烏天狗──冬青よそごの言葉を借りるならば、正しい心と法が崩れたKali Yugaカリ・ユガ──悪徳の時代。この国でいうならば末法思想まっぽうしそうが近いだろう。平安時代からある思想で、悟りと正しい行いがなくなった状態を、末法時代と定義づけられていた。もっとも浅間たち神々の認識では、人間そのものの心の闇を指し示す事であり、信仰形態そのものには関心はない。


「……さて、そろそろF-2A の準備も完了する。各位、準備についてもらおう」


 官房長官──五十君の言葉にノインは口を挟んだ。ここで話を終わらせぬように──


「室長。自分の眷族、《ヤマツチ》から得た情報知識では、冥界は封鎖され出入り口はない。そもそも冥界は現世にあったが、大量に溢れ出た《物怪》を封じるために、別けたと聞く」


「そうだが、……だからどうした?」


「……現世を四次元とするなら、冥界は四・五次元へと押し上げて、その間を《異界》として《物怪》を封じたと言える。とすれば、冥界が封鎖されているとは言え、向かうには難しくないのではないか?」


 それは例えるなら一枚のパンを横に薄く切り、現世と冥界に分けて、その間に《異界》を挟んだということになる。行き来の方法は封鎖されたとはいえ、完全に遮断されているわけではないのではないか。そうノインは指摘する。だが──


「ああ、冥界に行くなら方法はあるが、秋月燈たちとの合流点はそこではない。何より貴様らでは絶対にたどり着けない。だから、お前たちは現世を守れ。秋月燈たちが帰還するまで、必ず守り抜け」


 浅間の眼光が鋭くノインと楓を射抜く。



 否定などできるはずもなかった。浅間の言葉から並々ならぬ覚悟が伝わって来たからだ。二人とも規律正しく「はい」と言葉を返す。緊張感が高まる場に、小さく笑う声が入った。


「こんな状況だというのに、ずいぶんと賑やかなんだね」


 穏やかな声。しかし、その言葉にはどこか力強さと懐古的な意味合いが込められていた。姿を現したのは、二十代の青年。爽やかで不思議と人を惹きつける雰囲気を持っていた。前髪は左側だけ長く、まるで視界をわざと遮っているようだった。

 目鼻立ちは整っており、柔和な笑みはをしているせいか自然な印象を与える。背丈はノインよりもやや高いぐらいだろうか。

 体つきは、ほっそりとしてどう見ても戦闘向きではない。だが、四季冬樹しきふゆきは、黒い軍服を纏ってこの場に現れたのだ。


「四季冬樹、か」


 浅間は僅かに片眉を吊り上げる。


「室長。弟の柊次しゅうじが任務に支障をきたしたこと、本当に申し訳ありません」


 頭を下げた男は、《失踪特務対策室》専属特殊部隊に配属された四季柊次の双子の兄だ。

 三カ月ほど前、《柳が丘高校テロ襲撃事件物怪の襲撃》の職務中に任務放棄しただけではなく、秋月燈を射殺しかけた。幸い式神の機転により事なきを得たとはいえ、もし式神が何もしなければ、彼女は死んでいただろう。

 現在、彼は警察病院で表向きは入院となっているが、実際は隔離している。


「その件は済んだことだ。……それよりなぜ貴様がここにいる? 組織に加入した話を俺は聞いてないが?」


 浅間は作戦開始数分前にこうも初耳といえる情報に眉を寄せた。《失踪特務対策室》から《特別災害対策会議・大和》へと配属されて二カ月以上は経っている。立ち位置としては局長の副官としての席を蹴って、精鋭部隊隊長に着任。

 入院中という理由で、実際に指揮を執り動くのは三日前の作戦会議だ。だがその時にも彼の名前はなかった。


(……なにか、裏がある? それとも記憶の上書きによる影響か?)


 浅間は思考を巡らせるが、どうにも違和感が拭えない。切れ切れの記憶、ノイズ塗れの情報……。得体の知れぬ忌避感。

 だが、考えれば考えるほど砂の城の如く、情報や記憶は霧散していった。


(……六条院の術が、解けかかっているのか? 《狂神現象》、レベル伍……。人格の崩壊の前に起こる記憶の欠如。……だが、それも少し違う。違和感だけだ。《荒御魂》が暴れる様子もない)


 浅間の代わりに口を挟んだのは、五十君だった。軽い咳払いをしたのち、彼は経緯を語る。


「順序が逆になってしまってすまない。今日特例が降りて晴れて《特別災害対策会議・大和》の職員になったのだよ。なに、彼の家族はいろいろあったからね。書類の手続きなどでも無理を通したところがある。……それと、今回の作戦にも穴埋めの形で、急遽参加してもらった。彼の術式は、あの木下馨一きのしたけいいちと同等だと判明したからね」


 その言葉だけで、浅間は冬樹の戦力がいかほどなのか察する事が出来た。そして納得もする。あの一家の長男であれば、それぐらいは出来るだろう、と──


「なるほど。結界を貴様の力が必要ということか」


「再度?」とノインが呟き、冬樹へと視線を向けた。


「はい。この作戦は室長が考案したもので──と、そろそろ時間のようです」


 上空の厚い雲から戦闘機──F-2Aが姿を見せる。それに合わせて浅間の影から黒い湯気が立ち上るのが見えた。

 空色の機体がビルすれすれを飛び、警察病院に近づく。


「後は任せた」


 浅間はそれだけ言うと、凄まじいスピードで影が実体化し──F-2Aの機体にゴムのような粘着力で絡みつく。すぐに影はネットからロープはしごへと変形した。次の瞬間、浅間はロープに掴まり、屋上の床を蹴った。

 駆動音を立てて、飛び去る戦闘機と共に山手線内側──結界へと突っ込んでいく。

 それを見やって、冬樹は術式に備える。


「それじゃあ、私は術式展開に移る。キミたちは室長の──勇姿を見てあげてくれないかな」


 冬樹はこれから起こること、そしてその顛末もすべて知っているといった顔で涼し気に微笑んだ。


「四季冬樹。術者としての腕前は折り紙付きであるにも関わらず、警察への協力関係を拒んできたとデーターベースに記録が残っていた。それがなぜ──」


「……があるから、取引をしたんだよ。それに姉の予言した未来通りになった以上、私も静観している訳にはいかなくなってね」


 穏やかだが、その瞳は静かな炎が燃え上がっていた。ノインは彼の覚悟が本物だと気づき、目を伏せた。


「……心の友その弐の血縁者なだけはある」


「そうかい? 私なんかよりあの子の方がすごいさ。私は自分の大切な人が危機かもしれないというのに、ここで待っていることしか出来ないのだから」


 冬樹は山手線内側の奥に見える暗闇へと視線を向けた。いや、もしかしたらその先の──どこかかもしれない。

 一陣の風が吹き荒れ、ビルのガラスが粉々に砕けて吹き荒れる。


「おっと、長話をしている場合じゃなかったね。それじゃあ私も、私の戦いを始めるとしましょう」


 冬樹は手を翳すと印をいくつか組む。その間に、が屋上から飛び出していったのが見えた。しかし、彼は構わずに印を変え──言霊を紡ぐ。


「舞い散り空を漂う我が眷族よ──集え、集え、集え」


 その刹那、上空から白い紙切れが降り落ちる。まるで白銀の──龍の鱗のようにキラキラと空に煌めいていた。



 ***



 F闘機-2Aは徐々に上空へと飛び、ビルの合間を器用にすり抜ける。だが、そのスピードに、ビル周辺のガラスが粉々に砕け散った。戦闘機に間借りしている浅間はただ一点に向かって意識を集中させる。


 ──ああ、ようやく《役割》を果たす時が来たか──


 それは浅間の中に戻った《荒御魂》の声だった。酷く気だるそうな口調であくびをかみ殺す。


「まだだ。これはほんの小手調べだろう」


 浅間は口角を吊り上げると、結界に飛び込むように手にしていたロープを手放す。刹那、腰に携えていた刀を抜刀する。


 一閃、烈光れっこうと共に巨大なエネルギーがぶつかり合う。だがそれも半瞬ほどだ。なぜなら、浅間の穿った刃は結界をシャーベットのように切り裂き──結界そのものを突き崩したのだから。

 キィン、と音色が響いた音と共に、結界は崩れた。


「おっと。力が入りすぎたか」


 浅間は呑気にそう口にしながら、結界の中に入り込んだ。深淵の闇は蠢き、唐突に現れた存在を取りこまんと襲い掛かる。彼は深淵の中、自分の影から這い出た大蛇に足場を置いた。


 ──じゃあ、やるか──


「ああ」


 常人あらば数秒で《狂神現象》を通り越して《物怪》となっていただろう。だが、浅間は──いや、浅間の手にした剣が闇そのものを吸収していく。その吸引力に、危機感を覚えたのか、深淵の闇は見覚えのある形へと変わっていく。


 それは模倣であり、偶像。

 それは信仰の鋳型ではあったが、詰め込まれた想いは祈りではなく、呪い。

 禍々しい形の七つの神々。

 《七福之神》ならぬ、《七禍之神》が巨大な姿で顕現した。


 それらは偶像としてみたことのある姿だ。

 みな悪鬼羅刹の形相で浅間を睨みつける。その大きさは優に二十メートルを超え、浅間など一蹴出来るほどの体格さだった。


 三つ目の巨大な男は戦斧のような大槌を振り回し──

 武装した女人は八臂はちぴに鉾に剣と武器を携えて、同じく甲冑に身を包んだ武神もまた一斉に刃を振りかざす──

 二人の老人は杖で竜巻を起こし、数千の獣を浅間へとけしかける。

 釣竿を持った男はその糸で浅間の体を地面に縫い付け──

 僧は「ケラケラ」と不気味に笑いながら、真っ黒な袋から数千の毒をまき散らす。


「よう、久しいな」


 まるで昔の知人に語るように浅間は呑気に声をかける。

 だが、しょせんは模倣された形であり、七福神そのものではない。それを知ってなお、浅間は声をかけたのだ。かつての見知った友人たちに──


「纏え──《荒御魂》。鏖殺おうさつだ」


 浅間の影から吹き出す金色の炎は線香花火に似て美しく、黄金にすら匹敵する煌めきを見せた。それは大鎧に似てはいたが、部分的であった。脛当すねあて、篭手、大袖おおそでと、手足のみの武装。黒のロングコートが爆風で靡く中、浅間の周囲には金色の蛍火が浮遊していた。

 浅間は両手で柄を握りなおす──刀身は黄金の如く光を放ち、それはまるで太陽を彷彿とさせるほど輝いていた。


 ──■ェエ■■ェエ■■オエエ!!──


 おおよそ人とは思えぬ怨霊の声。全方位からの同時攻撃が、浅間を殺さんと襲い掛かる。


「壱の型、空白斬鉄斬くうはざんてつぎり」


 浅間が編み出し、長い年月をかけて鍛錬によって磨かれた──型。魂にまで叩き込まれたその構えからの技は、刀の威力をさらに引き上げ会心の一撃へと昇華した。

 次の瞬間、多重に炸裂する攻撃に対し──金色の奔流が全方位からの攻撃を押し返し──爆発する。


 轟!!


 金色の爆炎と土煙が連続で轟いた。

 肌を焼くほどの熱量。けれど浅間は顔色一つ変えずに、斬撃を打ち込む。解き放たれたエネルギーの本流は、全て繰り出した者たちに倍となって跳ね返り直撃した。

 

 ──■アア■■ァアア──


 衝撃で七つの神々を模倣した形は、紙くずのようにその姿を崩す。

 崩れ行く瞬間、浅間には偶像たちは穏やかに目を伏せたように見えた──


はもっと強かったぞ。貴様ら偽物と違ってな」


 浅間は刀の棟を肩に乗せると息も乱さずに告げた。















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