第66話 秋月燈の戦い

「ひ、姫!?」


 思わず龍神は叫んだ。無理もない。脱出の準備を整えたにも関わらず、戦場のど真ん中──それも身動きが取れない空中に飛び出してきたのだ。

 悲鳴を上げたくもなる。


 燈と一緒に飛び出してきたのは、人の姿から黒い狐になった式神と──「ござる♪」となぜか楽し気な声を上げる木霊だった。

 龍神はご満悦な木霊の顔面に拳を叩き込みたい衝動に駆られた。だが──


「脱出できた! やったよ、椿!」


 歓喜の声を上げる少女。この危機的な状況が全く見えていないのか、無邪気に喜んでいた。燈は肌襦袢の上に、白亜色のロングコート──軍服を纏っている。金色の刺繍には椿の紋様が編まれており、軍服の裾が靡くと、翼を広げたかのように美しく見えた。次に目に入ったのは、登山靴に近い黒のブーツだ。あれは羽織ものと同じく、龍神が武器庫にしまって置いたものだ。

 そして彼女の片手には《退魔の刃》が鈍色に煌めく。もう片方の手に鞘に巻き付いた白い布が以前よりも長く、そして白く煌めいていた。


(なぜ、姫が……。いえ、今はそれどころではない!)


 龍神は素早く行動を開始した。

 

 ***


 燈は式神の力を引き出して、繰り出した一撃を素直に喜んだ。破壊力は申し分なく、ゴールデンウィーク最終日に使った時とは、まったくの別物だった。


(これなら、少しはみんなと一緒に……)


「かかかっ! 主人よ、これはどうも喜んでいる場合ではないな」


「へ?」


hominum人間……? hominum人間!!」


 空中に放り出された燈──人間の登場にその場にいた冥界の神々はもちろん、敵影の反応はすさまじかった。

 獲物を見つけた狩人の如く一斉に少女を殺さんと刃が向く。燈はわずかに反応するものの間に合わない。


「まったく、世話の焼ける主だ」


 真っ先に動いたのは式神だ。三メートルほど巨大化した黒狐の尾は四つ。そのうちの一つの尾を使い、燈の体を抱きしめる。

 残り三つの尾が鋼鉄のような刃となり、四凶の一角、《渾沌》の攻撃を弾く。

《渾沌》──それは燈の学校で顕現した姿とは異なる。《史記・五帝本紀》の記述にある一節が記されていた。


 ──昔、鴻氏に非才の子があった。義を貶め賊を匿い、凶行悪事を好み天下はこれを《渾沌》と言った──


 のちに古代の五帝の一人、帝舜により追放されるまで、破壊の限りを尽くしたという。

 その一節によって四凶は、人から獣へと変貌し《物怪》よりも面倒なモノへと、変貌を遂げたのだ。《物怪》の上位存在とも言える。


 ──グオオオン!──


 上空にしぶとく残っていたのは、巨大な犬姿をした《渾沌》。その凶暴な牙が燈を襲うかに見えた。だが──突如、目にも止まらぬ速さで、巨大な白銀の刃が《渾沌》の巨体を貫いた。絶叫を上げる暇もなく、金色の光に包まれ消えていった。


「今の攻撃……!?」


 燈は地上へと視線を向けると、白銀の長い髪、白の和装姿の龍神に気付く。


「姫! 動かないでくださいね」


「へ?」


 刹那、不可視の攻撃が少女の背後──深々とフードをかぶった黒い外套の敵影に直撃する。それも一人ではない。二桁を超える数の敵が一瞬にして金色の光となって消えていく。


(なにこの人たち! 人じゃない? 敵……!?)


 燈はあわあわと周囲を見つめる。《常世之国とこよのくに》という穏やかさからかけ離れ、苛烈な戦場が広がっていた。おおよそ人には到達不可能な神代の戦だと、燈は直感でそう思った。白銀の甲冑を纏う者と黒い外套を羽織った者たちがぶつかり合っている。


hominum人間……occidere殺せ……Ne propitieris許すな!」


 宙に浮遊する黒狐と燈を標的としたのか、黒い外套を羽織った者たちは一斉に、数千の矢を射る。その禍々しい矢の雨に、燈の双眸が大きく見開いた。


「あ……!」


 不意に矢が燈の右目を貫き、視界がぐるりと回転する。

 鬱蒼と生い茂る森。

 篝火が燃えさかる何処か。

 誰かの叫びと怒号。

 白銀の……長い髪――

 酸漿色の瞳が矢の向こうから、燈を見据えていた。


「っああああ!」


 気づけば燈は無傷の右目を抑え、悲鳴を上げていた。唐突な激痛に少女は声を押し殺してもだえる。両手に握りしめていた鞘と刀は、いつの間にか手から滑り落ちていた。

 刹那──数千の矢は、龍神の放った白亜の斬撃に飲み込まれ消滅する。


『主、それはお前ではない。しっかりしろ!』

「姫、何をしているのですか、目を覚ましなさい」


 黒狐と龍神の怒号に、燈はハッと顔を上げた。


「あ……」


 夢と片づけるには、あまりにも生々しい感覚だった。少女は慌てて右の目蓋に触れると傷などはなく、怪我ない。


「今の……」


 ふいに視界の端に銀の長髪が映り込む。地上にいた龍神は燈のすぐ横に浮遊していた。


「貴女という人は、本当に規格外ですね。……まさか戦場の真ん中に飛び出してくるとは、さすがの私も予測出来ませんでした」

 

 長い白銀の髪が風によって揺らぐ。酸漿色の瞳は不安げに少女を見つめていた。


「りゅう……じん」


 黒狐は未だ顔色が悪い燈を見やると、彼女を掴んでいた尾を揺らして龍神へと放り投げた。


「ふぁ!?」

「な!!」


 燈は一瞬の浮遊感に体をビクリと震わせたが、龍神が慌てて抱き上げて受け止める。少女は落ちないにしっかりと龍神に抱き着いた。


「まったく。さっさと封印術式の解除をしてしまえ」


 式神は嘆息しながら襲い来る敵影を瞬時に潰していく。四つの尾は鞭のように変幻自在に伸縮し──稲妻の如く鋭い。また龍神は燈の傍に駆けつけた段階で、周囲に目に見えぬ水の結界を張っていた。そのため、敵は突撃を躊躇う。

 むやみやたらに突撃すれば、式神の迎撃によって沈むからだ。しかし、その中心にいる燈は高度な戦いに気付いておらず──


(あわわわ。この高さから落ちたら死ぬ。この高さから落ちたら死ぬ!)


 燈は真っ青な顔で、抱き上げられている龍神にしがみついていた。


(姫がこんなに近くに……! 第一級特異点で同じような状況になりましたが──今なら胸に秘めた想いを──いや、しかし……。迷うな……!)


 龍神は意を決して燈へと熱い眼差しを向ける。その熱意──威圧に近い視線を浴びて少女は酸漿色の瞳を見返す。


「ええっと……、龍神?」


「抱き着いて不味かっただろうか」と少女は額に汗が浮かび上がる。いつにもまして真剣な──鋭い瞳に、燈は生唾を飲み込んだ。

 ややあって、龍神は躊躇いがちに唇を開いた。


「姫、私は──」


「ごーざ、ござる♪」と燈の肩にいた木霊が空気をぶち壊した。


「あ、福寿さん」


 その木霊は雪だるまに似ており半透明で、少女の頬に触れる小さな手はプニプニしている。龍神は想い人に触れている木霊に、嫉妬の炎を燃やす。


「……姫。この木霊、葬ってもいいでしょうか?」


 酸漿色の瞳に殺意がこもり、木霊の頭を片手で掴んで燈から引き剥がした。少女を片手で抱き上げているが、その腕はまったくもって微動だにしない。


「だ、駄目! 絶対に駄目です! あと急に片手を放さないでください! 落ちたらどうするんですか!?」


「ならしっかり掴まっていてください」


「言われずとも!」と燈は首に手を回してしがみつく。しっかりと抱き着いた後で、少女は白檀の香りにふと顔を上げると──目の前に陶器のように白い整った顔立ちの龍神が飛び込んできた。


「…………!」


 そして唐突に思い出すのは式神──椿との会話。


 ──かかかっ。主よ、とんでもないモノに惚れられたものだな──


 少女の脳内にその言葉が繰り返し響く。心なしか心臓の音がうるさい。

 木霊は空気を読んだのか、静かに透明化して姿を消した。


(い……いやいやいや! えっと、椿の気のせいだよね!? だって、表情一ミリも変わってないし、いつもと同じで手厳しいし!)


 燈は熱が出そうになって顔を俯かせた。その一挙手一投足に、龍神は瞳が大きく揺らいだ。


(……トモリっ! 記憶を取り戻したからか、感情が──くっ……、幸せすぎる。このまま抱きしめてしまいたい。そしてずっと言えなかったことを──)


 龍神の中で感情と理性がぶつかり合っていた。それほどまでに彼の中で感情が高ぶり、自制が効かなくなってしまうのは、眼前の少女だけだろう。


(いや、駄目だ……。今、想いを告げて──同じように強制術式が発動すれば……ここから彼女を逃がすのが、より困難になる……!)


 龍神は歯を食いしばり、膨れ上がる感情を押し殺して燈を見つめる。

「さっさと話しを進めろ!」と式神が声を上げようとしたその時だった──


「姫……、本来ならキチンと説明と手順に則るべきですが、不本意ながら《封印術式》の解除を、ここで行います。それにあたって、一つ約束して欲しいことが……」


「はい。えっと、何でしょうか?」


 龍神の提案は唐突だったが、その真剣な面持ちに燈は頷いた。


「絶対に死なないと、約束してくれますか?」


「死──」


 龍神のその瞳は酸漿色に煌めいていたが、燈には今にも泣きだしそうな──どこか人間味を帯びた脆さが伝わってきた。


「死ねないです。だから、死にません。私も、龍神も、椿も」


「貴女が死ななければ私も、式神も死にはしません。逆に、貴女が死ねば──」


 どうなるのか、龍神は口にしかけて言い淀んだ。すでに一度体現している。彼女が無情にも亡くなった時のことを思い出し──唇をきつく結んだ。

 躊躇うものの龍神は次の言葉が、中々出なかった。


「…………」


 代わりに燈が声をかける。


「うん。じゃあ、その《封印術式》の解除を始めちゃいましょう。……って、言っても龍神が施してくれた、腕と目の術式とは違うものだってぐらいしか知識がないですけど、大丈夫です?」


 迂闊に聞けば、燈は強制術式による拒絶で記憶を失う上に、肉体にもダメージを負う可能性が高かった。だからこそ、少女は慎重に言葉を選んで尋ねたのだ。

 龍神は、一拍置いて答える。


「ええ。私と再会し、記憶を取り戻そうとする強い想いが今の貴女にはあります。……私も、姫の記憶が戻ってほしい。たとえ……、辛い出来事がたくさんあっても……それだけじゃなかったという思い出があるはず……です」


 懇願に近い言葉。力強い声が弱々しく消え入りそうなほど──

 燈は彼の熱意──想いに、胸が熱くなる。何か言おうとして口を開くが、声が出ない。訳も分からず鼻がツンとして、涙が溢れた。


「姫……」と、不安げに声をかける龍神に少女は想いを紡ぐ。


「絶対に大切な記憶はあるよ。……だって、記憶を失っていても、私の傍にはたくさんの大切な人たちがいてくれた。私を独りにしないで、守ってくれていた──だから、辛い記憶があっても、それだけじゃないって言える!」


 いつの間にか少女の瞳から、ポロポロと涙がこぼれていた。

 形容しがたい想いが込み上げてくる。それでも、燈は龍神に微笑んだ。


「私、この世界が好きですし」


 それは止めの一言だった。

 龍神は力が抜けたのか、こつんと額をくっ付けた。


「ええ、知ってます。……ずっと前から」


 龍神の張った結界が敵の攻撃により歪んでいく。もうまもなく悠長に会話をする機会もなくなるだろう。それでも式神は何も言わずに敵を迎撃する。

 二人の邪魔する無粋な連中は、ことごとく屠った。


(本当に世話の焼ける主と神だな)


 式神はそう思いながらも口角を吊り上げ、手を緩めることなく敵を薙ぎ払う。


 ***


 龍神はそっと燈にだけ聞こえるように、ある言葉をつぶやく。

 それは、ある呪文だった。


「〝隠れるモノ、怒りと転じれば、贄の泉を求めん。

 恐ろしき黒き神が、名無しの地で眠る。

 隠れた神の 真名を思い出せ〟」


 それはまるで耳に心地よい音に聞こえた。忘れた何かが胸に込み上げてくるような、そんな感覚に襲われる。


 次いで、ガチャンと何かが燈の中で、音を立てて崩れる。周囲を見渡してもそれらしいものは見つからない。


「これで、私がすべきことは姿を済みました。後は貴女が同じく《言の葉》を告げれば、封印は完全に解かれます。と言っても一気にではなく、徐々に段階を踏んで失った記憶が解放されます」


「え、あ、龍神……。本当にそれだけでいいの?」


 燈の中では、儀式場などの場を整えるような印象があったので、肩透かしを食らった気分だった。


「ああ、しめ縄や榊に玉串は必要ありません。あれは人間が神を吊るし──祀り上げる為の呪物ですから」


 燈にはその意図がわからず、小首を傾げた。


(神様感覚だと、ものの捉え方が違うのかな?)


 そうぼんやり考えていたが、すぐに頭をを振った。今はそれどころではない。燈は先ほどの言葉を口にしようとした。

 刹那──漆黒の大剣が水の結界を貫き、燈と龍神の真上から降り落ちる。


「「!?」」


 その一撃に気づいたのは、龍神と式神の二人だけ──だが気づくのがあまりにも遅すぎた。大剣は龍神と式神で弾いたが、頭上の刃に気を取られている一瞬の隙に、全方位からの同時攻撃。

 黒く錆びた投擲武器チャクラムのようなものが数十と、結界をぶち破って少女を襲う。


「くっ……」

「チッ……」


 鈍い音と、血飛沫が舞った。


「なっ……!?」


 燈が気づいた時には、龍神の胸元に顔を押し付けられ──何かから守ろうと覆いかぶさってきた。次に横目でとらえていた黒狐は姿を鎧武者に変え──黒い何かチャクラムを弾き返す。式神の姿は三十代の精悍な男で、長い黒髪が宙に舞う。鍛え上げられた体に纏うのは、紅色の大鎧。いつもの兜と頬甲冑頬当がない。鈍色に煌めく大刀を軽々と振り回す。

 金属音が悲鳴を上げるかのように、火花を散らした。


「がっ……!」


 ──それでも黒い何かチャクラムの数は多く、式神の肩と腹部に深々と突き刺さる。


「椿!?」


 咄嗟に燈が動こうとしたが、龍神は抱きしめたまま離さない。


「……姫、大丈夫です。ですから、動かないでください」


 ──終わりよ……! 極東の神!!──


 上空から何かが真っ逆さまに急降下する。《常若国ティル・ナ・ノーグ》の三割を所有している死者の鳥の女王モリガンだ。彼女は両肩から生えている巨大な烏の羽根で空を飛び、灰色の髪、猛禽類を彷彿とさせる鋭い瞳の美女が、黒い外套をたなびかせ急降下する。矛槍を両手に持ち、外套の中に見えるのは真っ赤なドレス──はだけるのも気にせずに龍神と燈の脳天を穿たんと突っ込む。


 ──フフフッ、二人、イエ三人そろって仲良ク殺してあげル──


 同じタイミングで結界内に突っ込んで来たのは、《ニヴルヘイム国》海と死の女神ラーンだ。彼女もまた、黒い外套を羽織ったまま飛んだ。亜麻色の長い髪は常に水に濡れており、金色の瞳と透き通る白い肌は鱗のようなものが輝いていた。


 ──シニ、なさイ──


 燈たちの動きを封じようと、水で編まれた巨大な網が襲い掛かる──はずだった。


「最悪な展開ですね……」

「最悪だな」


 同時攻撃に対して、龍神はごく僅かな仕草だけで上空から飛んできたモリガンの矛槍を紙一重で避け、予備動作なしで彼女の下顎に掌底を叩き込んだ。


 ──ぐふっ……!?──


 その一撃でモリガンは首から上がもがれ、数メートルほど吹き飛んで地面に転がり落ちた。

 半瞬後、式神の視界にラーンの網を捉えた。彼は網ではなく、一歩手前の空間そのものを引っ張った。


 ──なっ!?──


 ラーンは身動きもとれぬまま、強引に式神の間合いにまで引き寄せられ──打ち合わせなしで、構えていた龍神の攻撃が炸裂する。回避もできず、ラーンは斬撃をまともに食らった。

 骨と肉を切り裂く生々しい音と、血しぶきが飛ぶ。


 ──がっ、……打ち合わせなしニ、こんな馬鹿、ナ……!──


 吐血し、ラーンは地上へと落ちていった。すでに事切れた女神の身体は、光の粒子となってその場から退場する。僅かに金色の残滓が蛍火のように宙に漂う。それは人の死とは明らかに異なる現象だった。


(な……。早すぎて残像も追えなかった……)


 ふと燈の頬に生暖かい何かが落ちてきた。赤く、鮮やかな紅葉色の──液体。


「りゅっ……」


 燈が叫ぶ暇もなく、視界には龍神の左腕が映り込む。その左腕には、黒い草刈鎌が深々と、突き刺さっていた。流れる深紅の血は、止めどなく地上に降り落ちていく。


「龍神!?」


「私は問題ありません。……それよりも姫。先ほど言った言葉をお忘れではないですね?」


「え? ……私が死なないってこと?」


 少女は起こっている状況をようやく理解して、体がブルリと震えた。


「ええ、その通りです。貴女がここの国から無事に脱出できれば、私たちの勝ちです」


 勝利宣言を告げる龍神の表情は、いつもと変わらずに無表情だ。だが、口元が僅かに笑っているように燈には窺えた。


「式神、トモリを──頼みます」


 緋色の全身鎧に身を包んだ式神は、鷹揚に頷いた。


「承った」


 龍神は抱き上げていた燈へと視線を落とす。彼女はそれに気づき、顔を上げた。


殿しんがりは、この国の王である私がやるべき《役割》です。……落ち合う場所は、臣下の柳に告げています。もうそろそろ竜馬と共に現れるでしょう」


「そんな怪我で」と言いかけて燈は黙った。今、人間である燈が、ここにいることは足手まといでしかない。先ほどの攻撃も燈を守ろうとしなければ、式神と龍神が傷を負うことなどなかった。


(駄目……。私のせいでなんて言えない。そんなのは、私を守ろうとしてくれた二人に失礼だ!)


 涙が零れ落ちそうなのを堪えて、燈は大きく頷いた。


「龍神。行ってきます! また後で。……絶対に追いかけてきてくださいね!」


 龍神は口角を上げて、薄く笑った。


「ええ、当然です。私はいつだって貴女の元に駆けつけますよ」


 その言葉はなにより力強く、嘘でないことを表していた。絶対に戻る。死に行く気などないという姿勢に、燈は背中を押してもらえたような気がした。


「行くぞ、主」


「うん!」


 差し出された式神の手を燈は掴んだ。少女は決意を新たに自らの戦いに身を投じる。何があっても生き残る。

 それが、秋月燈の新たな戦いだった。










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