星空

深夜2時。


暖房の効いた室内で、裸のまま手を繋いでいる。


今日もいつものように、彼女の部屋でお互いの身体を貪り合って、その後の(幸福な)脱力感に身を任せてそろそろ寝ようかって空気になった頃だ。


「はっ、流星群・・・」


「はい?」


「今日!流星群見えるんですよ!」


思い出したかのように薫子さんが言う。


そろそろ眠気が来た頃なのに、彼女の声が跳ねるもんだから、眠気が飛んでしまった。


「忘れてた。思い出してよかった」


昼間にネットニュースで知ったらしく、今夜、一緒に見たかったらしい。そういうイベントごとにも随分縁がなかったなあと思い出す。


「行きましょうか」と言って彼女は裸にコートだけ羽織り始めた。


「どこに?」


「屋上。ここの屋上。こっそり入れるんですよ」


ニコッと笑って彼女は言う。僕も彼女のペースに困惑しながら、コートを羽織った。


彼女の部屋は最上階。深夜だし誰にも会わないとは思うけど。


裸にコートだけ羽織って廊下を少し歩くと、柵に塞がれた階段。しかし、彼女は手慣れた手つきで屋上への入り口を開ける。


「鍵かかってないんです、ここ」


と言って笑う。大人しい子だと思ってたけど、妙なところで行動的なとこもあるんだよな。


短い階段を上がって屋上に着くと、満天の星空。と、言っても街中なので、星は少しぼんやりしている。


「星、長野はもっとよく見えるんです」


と彼女が呟く。そう言えば彼女の田舎は長野県だったな。田舎に比べたら都会の星じゃやっぱり物足りないんだろう。


そんなことをぼんやり思っていると、彼女はコートを脱ぎ捨てた。


唖然としている僕に、


「ほら、武さんも」


と言うので、僕も全裸になる。


「ここ、ほんとに誰も来ないので」


「薫子さん、慣れてますよね」


「たまーに、夜中にここで一人で・・・」


「危なっかしいですよ」


「あー、露出散歩させたひとがそれ言います?」


と言って、少し呆れ顔で彼女は笑う。


夜中とは言え、屋上で二人して全裸。


「寒ーい。でも、気持ちいい」


僕らは本当にどうかしてるけど、彼女が楽しそうにはしゃいでいるので、まあいいかって気分になる。


それに、闇夜に浮かぶ彼女の肢体は本当に美しい。


寒さに僕の身体がぶるっと震えると、


「やっぱり寒いですよね」


と言って彼女が抱きついてきた。


身体が触れ合ってるところだけ、なんてあったかいんだろう。


「寒いのにごめんね。あとちょっとこうしていたい」


震えるくらいの気温の筈なのに、彼女の顔を見ていると、そんなことも忘れそうになる。


「あっ、薫子さん、今流れた」


僕が空を見ると、彼女の視線もつられて空に。


「流星?どこですか?」


「あ、またあそこに」


「見えました!すごーい」


同じ方向を見ているので、自然と僕が後ろから彼女を包み込む体勢になった。


そのまま後ろから胸を思い切り掴み、乳首を指で転がす。


「あっ・・・」


もう片方の手を彼女の股間へ伸ばすと、陰毛までしっとりと湿っていた。


「やっぱり、しますよね」


と、彼女が悪戯っぽく言う。


「寒いし、身体動かさないと」


と、答える。


ずっと彼女の柔らかいお尻に押し付けてた陰茎を位置をずらしてそのままゆっくりと挿入すると、


「星空えっち・・・素敵ですね」


と、彼女は恍惚の表情で笑った。


(ほんとにこの子は・・・)と心の中で呟きながらも、僕も笑みが溢れてしまう。


大人しくて、でもセックスが好きで、無邪気で、優しくて、品があって、でも貪欲で、常識的なのかぶっ飛んでるのかわからなくて。


いま僕の腰使いに柔らかく揺れて跳ねる小さな身体に、特異でとても美しい心が宿っていて、そしてそれは僕が愛してやまないもので。


「流星群を一緒に見たい」と言って、そのまま寒空で屋外全裸セックスしちゃうような、ロマンティックな変態女。


「・・・好きだ」


とつい漏れてしまった。そのまま両手に強く抱きしめながら、腰をぐっと深く突いた。


「好きだ。愛してる。世界一愛してる」


単純な言葉ばかりが溢れる。


「私も。私もだいすきです」


「私のしたかったこと、したいことぜんぶさせてくれる・・・夢みたいな人・・・」


「星の数ほどたくさん人がいるのに、こんなに広い宇宙の中で・・・あなたに会えた」


「会えて・・・よかった」


「あんっ・・・!」


彼女の身体が、満天の星空を背景にして大きくしなった。


射精の瞬間、まるで無限の空に向けて精子が放たれたような、そんな心地になった。


この子は僕の宇宙そのものなんだ。




放心していると、急に身体が寒さを感じ始めた。


「ちょっと無茶しすぎましたね。・・・でも、一緒に流星群見れてよかった」


と、彼女がしみじみと言う。


「部屋にもどりましょうか」と言って彼女はコートを羽織った。



「はー、あったかーい」


と、部屋に戻って彼女が漏らした。ずっと裸で寒空の下にいたので、部屋の暖かさが余計に身に染みる。


「そう言えば」


と僕が切り出す。


「最近ずっとどっちかの部屋に帰ってますよね。部屋、一つで良くないですか?」


彼女はすぐに、


「私もおんなじこと考えてました!」


と、ぱあっと笑顔になる。


「でも、ワンルームだと狭いか」


と、僕が言うと、


「じゃあじゃあ、明日は『どんな部屋に住みたいか会議』しましょ」


「あー、いいね」と僕が答える。


えへへ・・・と嬉しそうに笑って、今度は彼女が切り出す。


「あと、さっきちょっと話しましたけど」


「ん?」


「長野の星空、ほんとに綺麗なんです」


「うん」


「一緒に見に行きませんか? お正月にでも」


「うん・・・行こっか」


(ご両親にちゃんとご挨拶できるかな?)


と、僕はふと緊張したけど、


「一緒に帰省するでしょー、年明けにはお引越しできるかなー、そしたらそのあとは・・・」


と、にやけてる彼女を見て、


(幸せにしたいな)


という言葉が自然に浮かんだ。


幸せにしたいな。


ずっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やさしい調教 @monsiurbeat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ