嬉しい誤算①

「なんですかコレは?」


 王城の一室。

 第二王女の私室において夜一は首を傾げていた。


 セルシアを国王に報告と言う名目で引き合わせる契約のついで――というのは表向きで、その実は第二王女に貴族たちの間での《ジャンク・ブティコ》の評判をリサーチしてもらっており、その結果の報告を受けている。

 国王への謁見の方が「ついで」なのである。


「一国の王女様の部屋がこんな汚部屋でいいんですか?」


「お、汚部屋とはなんですか!? これは全て宝の山です!!」


「なんでそんなに自信満々なんですか? ただのゴミをそんな高らかに自慢されても……」


「ゴミではありません!!」


「いや、ゴミですよソレ。空き缶にペットボトルの山……しかも全て空。それってゴミですよね?」


「違いますっ!!」


 頬を膨らませて怒る第二王女。


(普通に可愛い……ん? 悪寒が)


 視線を感じ、顔を向ければ……


(うん。怖いけど可愛いね!!)


 親指を立てたくなる衝動を抑える。


 微笑んではいるが目の奥が笑っていない。


「ま、まぁ、とにかく片付けましょうか」


 強引に話の舵を切る。


「そうですね」


 こちらの心のうちを見透かしたような視線を一度寄越してから片付けを始める。


 セルシアさんマジすんませんでした!!

 と、額を地面につきたくなってしまう。

 もちろん、そういった癖があるわけではない。

 これはきっと人間のもつ生存本能的な何かが猛烈な勢いで仕事をしたせい。


 黙って仕事をした方が良さそうだ。

 これは本能ではなく良識による判断だ。


 黙々と空き缶や空のペットボトルをまとめてポイする。

 ひたすらポイ。それは、それは見事なポイであったそうな……

 そんなことを考えていると殺気。

 またもや心を見透かされたか!? と腹をくくる。


 恐る恐る気配のする方を見ると、そこには第二王女が涙を浮かべてこちらを見ていた。

 懇願を通り越して、もはや脅迫と言っても過言ではない。


 破壊力抜群の懇願顔であった。

 隣に店長がいなければ、せっかく集めたゴミ宝物を王女様の部屋に忘れてきていたことだろう。


 まぁ、忘れてこようものなら……

 想像の中で三回ほど死にました(笑)


 なので袋に詰め込まれたゴミを抱えて王女の部屋を出た。


 王女の情けない声に専属メイドが何事かと走ってきた。

 なにも知りません、という顔で会釈をしてその場を立ち去った。


 それにしても、こんなゴミの何が彼女をあそこまで突き動かしたのだろう? 疑問は尽きない。



 しかし、この出来事は新たな事業の序章となるのだが、まだ夜一はその事に気づいていない。

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