制約からの解放(消費社会)

 経済はリスクの上に成り立っている。

 経済を動かすためには事業を展開しなければならない。

 そのためには資金運用が必要になる。

 莫大な資金を投じて採算が取れないなんてこともある。


 はたまた、利益を得ても顧客が付かなければじり貧になるだろうし、顧客を得ることができても常に顧客離れの可能性は付き纏う。

 安全安心な経営などありえない。


 事業を軌道に乗せるためには生産、消費のサイクルを確立させる必要がある。

〈大量生産―大量消費〉という社会は実際には成り立たない。

 大量生産には原材料確保のために大量採集が必要となり、大量消費の後には大量廃棄が行われる。

〈大量採集―大量生産―大量消費―大量廃棄〉のサイクルは環境と資源の両面で制約を生み出す。


 本当の意味で自由な事業とは存在しない。

 制約の中で事業を展開しなければいずれは自分たちの生活が脅かされる。

 故に環境に配慮した施設や商品がアピールポイントとなりえる。

 しかし、この異世界において環境問題などまったくもってアピールポイントになりえない。

 急速な技術革新は急速環境問題を引き起こしかねない。

 環境問題が周知されるまでどの程度の時間がかかるのか全く予想がつかない。


 そうなれば技術革新を隠し通すか、はたまた別の方法を考えるほかあるまい。

 そもそも異世界こっちで現代技術って再現できるのだろうか?

 映画やなんかは再現できたが、他の分野はどうなのだろうか。

 テーマパークのアトラクションは再現どころか本物以上のクオリティだ。

 まあ、むしろ本物は異世界こっちなんだろうけど。


 魔法は万能ではないが汎用性が高い。

 魔法発動時のイメージによって発動する魔法の性質を変化させることができる。

 つまりは魔法の活用次第では現代技術に追いつくことも、追い越していくことも可能性としてはあるという事だ。


 魔法の可能性について模索する必要があるな。

 専門的な研究も必要になるだろう。

 だが、当面の間は彼女の力を借りるほかあるまい。


 夜一は魔導に関して世界最高峰である共同事業者を尋ねることにした。


 ………

 ……

 …


 ふむふむ、と夜一の話を聞き相槌を打つ魔王ベアトリーチェ。

 本当に理解しているのか不明だが、了承は得ることができた……のか?


 手始めにプラスチック容器でも作ってみるか。


 まずは……原油が必要だよね?

 確か暗黒大陸の一帯にある黒い沼地があったはず。


「黒い沼地……あぁ、あそこはちょっとしたスポットでな、かの巨匠、ダーヴィンチが描いた『沈みゆく勇者一行』の描かれた場所なのだ」


 そんな恐ろしい場所だったのかあの油田。

 それは兎も角、油田があるのだから後は魔法がどこまでの汎用性を持つかだ。


 ためしに原油を蒸留させて原料を製造して、その後の工程はよく分からないのでスマホで検索した事を読み上げた。


 その間、「つまりナフサとは……」とか「えちれん、なるものが……」などとベアトリーチェは配下のメフィストとともに思案し、あれこれやって……プラスチックを作り上げてしまった。


(マジか……)


 予想をはるかに超える魔法の汎用性に驚くと同時に、歓びに打ち震えていた。


 魔法の汎用性を考えれば〈大量生産―大量消費〉の幻想の実現も夢ではない。


 魔法の存在は現代社会での制約を完全に打ち破るとまではいかないが、制約の緩和には確実につながる。


 ローリスク・ハイリターンの新たな消費社会の可能性に崩れる表情を抑えきれない夜一であった。

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