夢の大陸
ジャンク・ブティコにて――
「夢の国?」
「ええ、僕のいた世界にはそのように呼ばれる場所がありました」
「場所? 国ではないのですか?」
「国というよりテーマパークですね。人気者のネズミさんのいる世界観を再現した幻想空間みたいなものです」
「よく分かりません」
セルシアは首を傾げる。
「この世界では勇者様が人気なようですから、勇者様の冒険譚を追体験できる場所を用意する――つまり、伝説・神話の世界を再現するわけです。
大陸の人たちは夢中になりますよ」
「確かに勇者様の冒険譚は王国でも人気です」
「そこで、大人も子供も楽しめるテーマパーク――夢の国――いや、夢の大陸と言った方がいいですかね。そんな場所を作りたいんですよ」
まるで子供が語る夢物語のようだとセルシアは思う。
しかし夜一ならば、そんな夢物語を実現してしまうと確信していた。
夜一自身はただの学生に過ぎず、本来ならばそのような力など持たない。
だが、現代知識とファンタジーとの融合は奇跡をも可能とする。
「そろそろ暗黒大陸が夢の大陸に変わった頃ですかね」
「えっ?」
浮かんだ疑問を投げ掛けるよりも早く、
「ほら、来ましたよ」
二人の目の前の空間がグニャリと歪む。
そこから立派な角を携えた魔族が現れた。
「できましたか? メフィストさん」
「ええ、ご希望通りの仕上がりになってますよ」
「そうですか」
夜一とメフィストは視線を交わすと、ニタリと不敵な笑みを浮かべた。
またなにか企んでる。
二人を遠目に見ながら、その企みが実現するのを楽しみにしているセルシアがいた。
「これから忙しくなりますよ」
嬉しそうに夜一が言う。
「それじゃあ、頑張らないといけませんね」
セルシアは笑顔で答えた。
!?
あまりにも美しく、胸が締めつけられたかと錯覚するほどの、動揺を覚えた。
夜一は顔が熱くなるのを感じた。
***
「おや? なんだいコレは?」
常連客の一人が店内に貼られたポスターを指差す。
「あっ、気付きました?」
気付くも気付かないもないだろう。
店内の至るところに貼ってあるのだ。気付くなという方が難しい。
「自信作です!!」
胸を張る夜一。
セルシアが、違うでしょう、と優しく軌道修正。
夜一は絵を学ぶ学生だったことを思い出す。
(きっと絵描きとしての本能が刺激されたのですね)
「おっと、そうでした。ちゃんと宣伝しないとですね。
もうすぐ
論より証拠。実際に行かれてみることをオススメします」
「でも遠出の準備なんてしてないしね」
「ご安心下さい。私どもの旅行プランでは遠出の準備は不要でございます。
面倒な馬車の手配は不要。加えて、移動時間も半分以下!!」
(胡散臭いですわ)
ビジネスパートナーではあるが、その語り口調は怪しさ満点であった。
「さらに今なら! 事前予約で料金割引の特典付き!!」
こんな調子で夜一はお客を集めていった。
お客が集まるのはいいことなのだが、セルシアには一つ引っ掛かることがあった。
「ヨイチさん。お客様はドラゴンで暗黒大陸まて運ぶのでしょう?」
「ええ、そうですよ」
「なんの説明もなく、いきなりドラゴンが現れたら皆さん驚かれるのでは?」
「大丈夫ですよ。あの子達(ドラゴン)大人しいですし。なにより、夢の大陸に行くんですよ。今から冒険が始まるって感じがしていいじゃないですか」
「そういうなものですか?」
「そういうものです」
夜一は力強く言ったが、セルシアの中に生まれた不安は拭いきれなかった。
出立当日。
王都ではドラゴンの襲来騒動(パニック)が起こったという。
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