第五章 テーマパーク 編

「2・6・2」の法則①

 セリーヌ一行が王都へ帰ってから数週間。

 本来であれば浮き彫りになったホテル事業など、まだ進展しているはずもない。

 しかし、さすがは異世界。常識が通用しない。


 魔王城を使ってもいいとのことだったが、一番の問題はホテルの外側ではなく内側だ。

 建物ではなく、そこで働くスタッフこそが大切なのだ。

 メフィストに関しては問題ない。

 完璧と言って差し支えないだろう。

 しかしすべての人材に同様の質を求めるのは酷と言わざるを得ない。

 個人の特性は多様であり、その仕事ぶりも個人の特性によるところが大きい。

 勤勉な者がいる一方で、勤勉さとは無縁な者もいるだろう。

 しかしそれは致し方ないことだ。

 仕事のできる者、普通に仕事をこなす者、そして仕事のできない(しない)者。大きく分ければこの3つに分類できる。

 そして、どのような組織においても一定数の人間が集まれば必ず3種類の人間が生まれる。


 ところが魔王城においては無用な心配だったらしい。

 一言、「私一人でこなせますので」とメフィスト。

 頼もしいことこの上ない。

 それでも一人でベアトリーチェの世話に加えてホテル業務となるとさすがのメフィストと言えど疲弊すると思った夜一だったが、さすがはファンタジー世界。魔法という便利ツールがある。


「「「これで問題はないかと」」」


 声が幾重にも重なる。

 目の前には同じ顔、同じ声の人間――もとい魔族が柔和な笑みを浮かべていた。


「「「もう少し人手が欲しければ、まだ増やせますよ」」」」


 いえ、もう結構です。

 正直不気味だ。メフィストには悪いが今後は分身体の数などを調整してもらおう。

 もしかするとこちらの世界では普通の事として受け入れられることなのかもしれないのだから、要相談と言ったところか。



 やはりメフィストの魔法は常識の外にあり、後日、セルシアに相談したところ「そんなことができる人間はいません」との回答だった。

 メフィストには手間を掛けさせてしまうが、分身の魔法に加えて分身体それぞれに幻術魔法をかけてもらう事にした。

 顔は同じだが、周囲の人からは別人に見えるとの事だった。


 魔王城ホテル(仮)については大丈夫だろう。

 しかし問題は山積みである。

 急速な開拓により、観光事業は慢性的な人不足である。

 力のある魔人族だからなんとか仕事が滞ることなく進んでいるだけで、もしも人種であればすでに事業は停滞してしまっていたことだろう。

 そして現状において問題は表面化しつつあった。


 問題自体は簡単な事だ。

 真面目には楽者がいる一方で、遊びほうけている怠け者がいるという事だ。

 真面目に働いている者からすればいい気はしないだろう。

 同じ給金、見返りなのに、やっている仕事量は全く違うのだ。愚痴の1つや2つ零したくもなる。


 愚痴を零すだけならまだいいのだが、しまいにはやめるとの言いだした者までいるらしい。由々しき事態である。

 現場の人間がいなくなれば事業は頓挫してしまう。

 何か手を考えなければならない。


 組織とは上層部によって動くのではなく、現場の働きによって動かしてもらうものである。

 どれだけ精密な機器であろうとも電源が動くことはない。

 上層部が機器だとすれば現場は電源である。現場なくして組織は成り立たない。

 電源の確保。安定供給を図らねば観光事業に先はない。

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