贅沢な悩みと、その活用法(死の谷)③

 スコラは大陸各地から優秀な人材が集まる王立学院において、トップクラスの成績を誇っている。座学だけ見れば優秀な人間だ。

 だが、学院内での彼女の評価は少し異なっていた。


 異端児、変人、変わり者etc.

 呼び名は様々だ。


 スコラ自身は、誰にどのように呼ばれようとも気にも留めはしなかった。

 成績優良者である彼女が、何故そのような扱いを受けているのかというと、研究テーマが問題となっているのであった。


 大陸にある国家はその威信と生存のために魔法の研鑚を重ねていた。

 暗黒大陸を治める魔王の強大過ぎる力に対抗するために魔法技術は進歩してきた。

 魔法という概念が発見されたその瞬間から、世界は魔法を兵器転用した――そうするほかなかった。

 それほどまでに魔族の力は強大であった。

 人間が生き残るためには、魔法をより攻撃に特化したものへと作り変えるほかなかった。


 魔法は攻撃力を伴って初めて意味を成す。

 これがこの世界の理。

 それ以外の魔法に価値を見出す者は少なく、回復魔法を除く魔法(攻撃力を持たない魔法)はあくまで攻撃魔法の副産物、おまけ扱いであった。

 そんな世界においてスコラは、魔法の軍事利用以外の可能性を模索していた。

 すでに市民の間では生活魔法(生産、家事に活用)を用いて、生活の質の向上を果たしている。

 スコラはそのさらに先を見据えていた。


 現在、市民の間で使われている生活魔法は簡単なもので、火をおこしたり力仕事の際の魔力的補助くらいしか使われていない――使えない。


 火を発生させる魔法と造形魔法戸を組み合わせて《火球ファイヤボール》を作り出す。

 身体補助も込める魔力量を増やせば《身体強化ビルドアップ》となる。

 多くの生活魔法(基礎魔法)は研究と改良の末、戦闘用魔法へと昇華される。


 しかしスコラは、攻撃力を無視。

 より高い水準の生活魔法を開発しようとしていた。

 その一つの形が自立式ゴーレムである。

 現代におけるロボット工学とでも言えるだろうか。


 独自の分野――道を行くスコラ。

 そんな彼女に対する風当たりは強い。

 頭脳の無駄遣いと陰口をたたかれ、研究費はいつもカツカツ。

 資材も不十分。

 加えて購買、《ジャンク・ブティコ》学院店でも資材の調達がかなわない。

 スコラ自身が人見知りであるため、人ごみの中に飛び込むことがないのも資材が調達できない要因の一つであった。

 だが、もし彼女が人見知りでなく、積極的に調達に動いていたとしても実情に大きな違いはないだろう。

 それほどまでに魔法研究は軍用魔法を神聖視している。


 故にスコラを始めとする変わり種の魔法研究者は見向きもされない。

 研究費、資材、そうした様々な点で研究開発に結び付かない。

 そんなジレンマに陥っていた。


 そんなところに降って湧いた話。

 スコラは目の前の商人の話をどのように扱うべきか思案していた。

 とても魅力的な話ではある。しかし、何か裏があるのでは?

 これまでの不遇を経験してきたスコラは素直に話を受け入れることができずにいた。

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