贅沢な悩みと、その活用法(死の谷)②

 魔鉱石、魔水晶を山のように買っていく常連客。

 その少女に連れられて夜一は、王立学院に足を運んでいた。


「やっぱり学院の関係者だったか」


「やっぱりと申されますと?」


 少女は首を傾げる。


「お嬢さんみたいなゴーレムを作れる技術者はそうはいない。だから王城の専属魔法師か、学院の魔法師のどちらかだと思っていたよ」


「なるほど。たしかに私はスーパーでパーフェクトな自立式ゴーレムですので、そのような結論に至っても不思議ではありませんね」


(意外とふざけた性格(?)してるなコイツ……)


 確かに彼女(?)は、完璧な――スーパーでパーフェクトなゴーレムであった。

 そんな完璧な彼女は、学院の長廊下をひたすらに歩く。

 途中、《ジャンク・ブティコ》学院店の前を通る。以前にも増して繁盛していた。


 学院店は、近頃出店数を増やしている食事処への料理人派遣により、人手不足感が否めない。

 国王に頼んで追加で料理人を派遣してもらうことも考えた。

 だが、経費が掛かり過ぎる。

 王族専任の料理人の球菌は法外である。

 決して料理人を馬鹿にしている訳ではない。そして夜一は料理人の給金の相場を知っている訳でもない。

 それでも王族専任料理人の給金は高い。

 付加価値を付けたとしても「はい、そうですか」と二つ返事で支払える金額ではないのだ。

 そんな事を考えながら歩いていると、数歩先を歩いていた少女が歩みを止めた。


「こちらです」


「……ここが」


 案内された部屋の扉には「スコラ」の文字。

 おそらく製作者(部屋主)の名前だ。


 少女は声を掛けることなくノブをまわす。

 扉の向こうには今にも倒れてきそうな書物の山、山、山。

 書物だけでなく様々な物が積み上げられていた。

 不用意に触れようものなら崩れてしまうだろう。等身大ジェンガである。

 そんなタワーが部屋には幾つも建っていた。


「ただ今戻りましたマスター」


 マスターと呼ばれた影が、億劫そうに動いた。


「鉱石はいつもの場所に置いておいて……」


 覇気がない。

 生命力を感じさせない声はか細く、夜一は聞き取ることが出来なかった。

 だが少女は主の声をしっかりと聞き取り、正確に従う。

 色々な点において人間よりも優秀かもしれない。


「……違う。そっちじゃない」


 きっと当人は声を大にして言ったのだろう。

 先程とは違い、夜一にもその声は聞き取ることが出来た。


(っていうか、この娘も聞き取れてないんかい!)


 指示を遂行できていないゴーレム少女。

 そんな少女に対して、心の中で夜一は、一人ツッコミを入れていた。


 すると注意するために振り返った部屋の主と目が合った。

 どうも、と軽く頭を下げる。

 案内してくれたゴーレム少女と瓜二つの容姿。製作者が自分の容姿を模して製作したのは明らかだ。

 ………………。

 沈黙が続く。


「………――っぅ!?」


「ん?」


 何かを話しているというか、騒いでいる。

 聞こえぬ声とは対照的にジェスチャーは大きい。


(どうしよう……。会話にならない)


「アナタは誰ですか?」


 少女(ゴーレム)が尋ねてくる。

 ずっと一緒にいたはずだが? と疑問符を浮かべてしまう夜一。

 逡巡した後、気が付く。

 彼女が主の代弁をしていることに。


「初めましてスコラさん(?)。僕は《ジャンク・ブティコ》の黒羽夜一と申します。以後お見知りおきを」


 胸に手を当て、貴族相手にするような畏まった挨拶をした。

 それは、王城での謁見を彷彿とさせるものだった(?)――そのつもりで行った。


「スコラです」


 ゴーレム少女が主に代わって答える。

 俯いたスコラは、ごにょごにょと顔を赤らめながら言う。

 解読は不能。


「宜しくお願いします(笑)、と申しております」


 鼻で笑うゴーレム少女。

 間違いなく製作者(主)の意図していない言動を取っている。

 その証拠に、スコラは声こそ上げないものの身振り手振りで怒っている。


(この人、自分で作ったゴーレムなのに支配下に置けてないんじゃ……、言う事聞いてないし……)


 かなりふざけた性格のゴーレム少女を介しての会話は難航した。

 結果、ようやく本題を話し終えた時には夜一は項垂れていた。

 そんな夜一の前ではスコラが腕を組んで唸っていた。

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