POSシステムの問題点(販売時点情報管理)③
POSシステムが導き出した《ジャンク・ブティコ》本店の売れ筋商品。
魔鉱石、魔水晶、MPポーション等々……。
明らかにおかしなラインナップである。
本店のある王都中心地域は庶民階層が多い。
魔鉱石や魔水晶から魔力を抽出、または活用できるのは魔法に精通した魔法師だけだ。
しかし庶民階層に魔法師はほとんどいない。
魔法師になる人間は白に召し抱えられるか、貴族階層と同等の扱いを受けるため、《ジャンク・ブティコ》本店がある地域には残っていない。
そんな地域にある《ジャンク・ブティコ》本店。
そんな本店の売れ筋商品が、魔鉱石を始めとする品物だというのは少しどころか、かなりおかしい。
変と言って差し支えない。
「これはおかしいですね。アンナさんに確認してみますか?」
「そうですね。本当に売れているんだったらいいんですけど……そんなに需要なさそうですよね」
「魔鉱石や魔水晶の類は魔力の込められていないモノに比べると遙かに硬度を増しますからね。加工が難しいのです」
「ですよね。アンナさん間違って配送しちゃってるんじゃないですか?」
配送屋のアンナに、身に覚えのない嫌疑がかけられていた。
「さすがにそんなミスしないと思いますよ」
「そうですよね。でも念のため、確認してきます」
「私が行きます!」
何故か声を大きくしたセルシアが立ちあがる。
そんなにアンナと仲が良かったとは知らなかった。
「そこまで言うのならお願いします」
「何か思い違いをしている気がします」
セルシアから不満の色をにじませた視線を向けられてしまう。
女心とは全くもって理解不能である。
…………
……
…
陽が昇ってすぐにアンナのもとを訪ねた。
不機嫌というより、怒りの感情を前面に押し出したアンナが夜一たちを出迎えた。
「なに?」
一応雇主の筈なのだが、態度が悪すぎる。
「なに? これから仕事なんだけど」
「分かってます」
「だよね。あなた達の店に品物を配送するのが私の仕事だからね」
アンナの語気が強まる。
いつまでもいがみ合っていても仕方がないので、怒鳴られる覚悟で事態を説明した。
結果から言えば怒鳴られた。
さらに言えば、叩かれた。
相当ストレスが溜まっていたらしい。
アンナはセルシアに愚痴っていた。
間違いなく夜一の悪口である。たまに夜一の方を見たり、指さしたりしながら話し込んでいる。
頷きながら話を聞いていたセルシアも同調して、なにやら話し始めている。
(そんなに僕に不満があったのか……)
夜一は普通にショックを受けたのであった。
…………
……
…
各店舗の情報、聞き取り調査をもとに導き出した結果は実に簡単なことであった。
魔法師たちが魔鉱石や魔水晶を買い求める。
しかし、学院店にある分量にも限りがある。いつかは品切れになってしまう。
品切れになった場合他の店舗へ向かう。
なるべく近場から。
学院店から最も近いのは王城(前)店だ。そこでも品切れになれば次に近い店に行く。その繰り返しだ。
多くの店舗で品切れが生まれる。
そして発注。
その結果、店舗のある地域では需要の少ない品物が大量に入荷。在庫を生み出していた。
この問題は魔鉱石等の大量発注以外にも起こっていた。
例えば、王城(前)店からのアイスの過剰発注。
王城にはアイスを購入する人間は指の数ほどしかいない。
だが、実際に発注されている数量は数十人分である。
学院でアイスを購入できなかった学生や、その家族が買い求めたために王城(前)店でアイスが品切れになる。そのために起こった過剰発注であった。
幸いアイスは高級品故に城下にその影響が広がるには至らなかった。
他には極東店においてポーションの発注が相次いだ。
行商護衛の冒険者が旅路に備えてポーションを買いだめした。それをPOSシステムは、一人で複数購入される商品として記録する。
冒険者は予備を含めて余分にポーションを買い求めただけなのだが。そうした事情まではPOSシステムは記録しない――できない。
つまり最適化した在庫管理を行うのであれば、極東店では行商が行われる日(出発日)に通常よりも多目に発注すればいい。
毎日大量に発注する必要はないのである。
同様の問題は至る所に散見していた。
何とか改善策を見つけなくてはいけない。
だが、問題自体は分かったのだから、一歩前進といったところか。
夜一は、胸に鬱積した暗雲に、少しばかり晴れ間がのぞいたような気がした。
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