POSシステムの問題点(販売時点情報管理)①

「それで、調査の結果は?」


 神妙な面持ちでセルシアが尋ねる。


「各店舗で少なからず問題が見られますね。何か従業員がミスをしたというよりも、システムそのものに欠陥があると考えた方がいいかもしれませんね」


「ですが、ぽすしすてむ? はヨイチさんの世界でも普及しているのでしょう?」


 セルシアはPOSシステムが情報管理に役立つことは理解しているし、マーケティングに利用できることも理解している。

 文化の違いはあれど、一国の御姫様だ。教養はある。

 そして何より自頭がいい。経済学の理解も早い。

 本人は否定するが、商人としての才があるのだろう。

 だからこそ、夜一の提案する知識が異世界において転用可能か判断を下せるのだ。

 むやみやたらに知識を導入しているわけではない。


 夜一もしっかり考えたうえで提案しているので、却下されること自体は少ない。ほとんどないと言っていい。

 だが、それでも納得しなければ実戦投入しない。

 慎重を期して、お試し運用みたいな形をとることもある。

 POSシステムは実用可能と判断されたからセルシアは導入したのだ。

 そして、現代の知識を理解してしまえばセルシアは夜一よりも遙かに先を見通すことが出来る。

 知識の本質を捉えるのだ。

 そうなればセルシアは夜一以上に知識を使いこなす。


「僕の世界でも現役のシステムですから使えないことはないはずなんですけど……」


 この程度の返答しかすることが出来ない。


「そうですか……何か問題があるのでしょうけど、私にはさっぱりです」


 大きく息を吐いてセルシアは伸びあがる。


「気分転換しましょう!」


「気分転換ですか?」


 オウム返しに問う。


「考えても埒があきません。一回この問題の事は忘れましょう。そして楽しいことをしましょう」


 元気よく言うと、セルシアはクローゼットの中からエプロンを取り出す。

 まだ《ジャンク・ブティコ》の従業員が二人しかいなかった頃の制服(?)だ。


「懐かしいですね。それで今更そんなものを引っ張り出してどうするんですか?」


「最近、お店方に立っていませんでしたら」


「……で?」


 全く説明になっていない。


「ですから、今からお店の方に立とうかと思います」


 何故? と尋ねると、一言。「気分転換になるでしょう?」とのこと。

 セルシアは仕事大好き人間である。商人の才能ではなく、社畜になる才能があるのかもしれない。


「付き合いますよ店長」


 断れる雰囲気ではなかったので文句ひとつ言わず従う。

 何だかんだ言って夜一にも社畜になる才能が備わっているのかもしれない。


「二人でお店に立つなんて久しぶりですね」


 声を弾ませながらセルシアは言う。

「そうですね」と適当に相槌を打ちながら、夜一も制服(旧)をつける。


「二人の時間です」


 スキップしながら私室から店舗へと向かうセルシア。

 アルバイトが夜勤務で一人いたはずだが……セルシアがお金を握らせて仕事を切り上げさせていた。

 ほんのり頬を赤く染めて「私たちがやるしかないようですね」と満面の笑みを向けてくる。


(そこまでして仕事がしたいのか? もはや仕事中毒だ)



 女心をちっとも理解していない夜一であった。

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