現場の戸惑い(販売時点情報管理)②
オレの名前はロイク。しがない冒険者である。
冒険者には階級があり、階級ごとにプレートが支給される。
もっとも下の階級の
もはや白金以上となれば英雄クラスである。
金剛鉄ともなれば、かの魔王クラスであろう。
オレはと言うと冒険者となって一年。未だに銅プレートである。
言い訳をさせてもらえるのであれば、悪いのはオレではない。《ジャンク・ブティコ》の仕事が忙しいのだ。
いつでも冒険者に戻ることは可能だ。
だが、如何せん給金がいい。
銅プレートのロイクが一日で稼げるのは、せいぜい銅貨十数枚くらいのものだ。
それも命の危険を伴う依頼をこなしてだ。
対して《ジャンク・ブティコ》の給金は安全が保障されている。
そして銀貨数枚を得ることが出来る。
銀貨一枚イコール銅貨百枚の価値がある。
これで《ジャンク・ブティコ》がどれだけ破格の給金を支給しているかが分かってもらえるだろう。
だからオレが冒険者ギルドの依頼より《ジャンク・ブティコ》の仕事を優先しても仕方がない。
だが、
「ヨイチさん。これ、どうしたらいいですか?」
ロイクは現場責任者(?)に尋ねる。
「ん? アイスですか?……ってなんでアイスが城下町の本店にあるんですか?」
《ジャンク・ブティコ》の本店は庶民層(中流階級)の多い地区にある。
現在、王国においてアイスは高級品。庶民にまで普及していないのだ。
「なんでアイスが……」
顔を顰める夜一。
そんな夜一を横目に陳列作業をする。
「ロイクさん。勝手に発注しました?」
!?
これは濡れ衣である。
慌てて首を横に振る。ついでに手も激しく振って見せる。
「オレじゃないぞ!?」
まさかの疑いの目に動揺したロイク。
緊張のあまり声が上ずり、変な汗をかく。
その様子はまさしく犯人。
(ヤバイ……変に動揺しちゃったから怪しまれてる。弁解しないとクビになるかも!?)
口の中の水分が一気になくなる。
乾いた唇がくっ付いて上手く動させない。
「オレはなにも知りましぇん」
ようやく発した言葉を噛んでしまう。
最悪だ。ロイクは頭を抱えたくなった。
余計に怪しまれてしまう。
「まあ、POSシステム採用してるから勝手な発注はできないんですけどね」
「ち、ちょっと脅かさないでくれよぉ」
「でも、入力する際にわざと誤った情報を記録させたとすれば……」
ものの数秒で疑いのまなざし。お帰りなさい。
できれば帰ってきてほしくなかった。
「ウソでしょ!? オレってそんなに信用ないの!?」
「冗談ですよ」
朗らかな笑みの夜一。
(信用ならん)
冒険者としての勘がそう言っている。
所詮は銅プレートの勘でしかない。きっと外れている。
「後で水晶の記録見せてもらいます」
そう言い残して夜一は別店舗へと向かった。
夜一は毎日数店舗を見て回る。
各店舗の様子を定期的に観察する必要があるのだとか言っていた。
(上の人間は上の人間でそれなりに忙しいのか)
そんなことを考え、自分は一生歯車のままでもいいかもしれない、などという向上心の欠片もない発想をロイクはしてしまう。
そんなことを考えているから冒険者としていまいち芽が出ない。そんなことはロイク自身がよく判っていた。
良くも悪くも、《ジャンク・ブティコ》は人々の価値観に多大な影響を及ぼし始めているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます