情報を求めて(販売時点情報管理)②
POSシステムに用いるのは、魔力の込められた水晶――魔水晶に魔法をインプットしたモノだ。
夜一は魔法は使えないので、セルシアと一緒に各店舗に出向いて魔水晶を設置。
セルシアが魔水晶にインプットした魔法は、水晶に手をかざした人間の考えを水晶に記録させるというモノだった。
それに加えてセルシアは、特定の考えのみを記録するようにインプット。
POSシステムに必要な情報だけを記録するようにした。
いきなり店舗に経営トップの二人がやってきて、訳の分からないまま水晶を設置していくだけでは、あまりにも現場の人間に不親切なので、実践してみせる。
夜一は、店員を客に見立てて説明しながら実演してみせる。
「これに手をかざしてお客様の年齢と日時、そして、購入された品物の価格と数量を頭の中で反芻してください」
魔水晶に手をかざしながら夜一。
しかし、
「あれ?」
夜一は首を傾げる。
「あの、ヨイチさん」
セルシアが言いよどみながらも伝えてくれる。
「ヨイチさんは魔法適性がないので水晶は扱えませんし、反応もしないですよ」
非常な現実。
異世界というファンタジーな世界に来たと言うのに、夜一には魔法が使えない。頑張ったところでどうにもならない。
魔法適性。詰まる所、才能がないのだ。
肩を落とす夜一を慰めながら、セルシアが店員への説明と実演とを代わる。
「えっと……、先程ヨイチさんがやって見せてくれましたが、実際にはこうなります」
そう言ってセルシアが手をかざすと、水晶に文字が浮かび上がる。
日時と相手の年齢が瞬時に記録される。
だが、日時と一緒に記録された年齢は明らかにおかしい。
二十。この数字はおかしい。
何故なら、セルシアの目の前にいるのは四十代半ばのおじさん剣士だからである。
セルシアの魔法適性はかなり高い。エルフ(性格にはハーフエルフ)というだけで魔法適性はこの世界でもトップクラスであろうことは予想が付く。
種族補正に加えて、王族……。
オプションてんこ盛りである。
そんなセルシアの設定した魔法にミスはない。
ならばこの表示は……。
「店長。何で僕のデータ記録してるんですか?」
夜一はセルシアの魔法力は信頼していた。
「ちゃんとあっち見てください」
優しく注意をする。
すぐさま水晶に新たな文字が浮かび上がる。
お昼。
四十代。
男性。
今度は正しく表示されているようだ。
「使い方は分かりましたよね?」
夜一が尋ねると、バイトのおじさん剣士は敬礼を返す。
腰に下げた剣は良く手入れが行き届いている。
おそらくは王城勤務の剣士だろう。
立ち居振る舞いが冒険者のそれとは違う。
洗練された動きであった。
(この国の兵隊は仕事してるのか?……いや、仕事がないってことは平和ってことなのか?)
そんなことを考えながら、おじさん剣士への指導を終える。
この時はまだ、夜一もセルシアもPOSシステムの欠点に気づいていない。
二人がPOSシステムの欠点に気づくのは、もう少し先の話……
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