現場の戸惑い(販売時点情報管理)①
《ジャンク・ブティコ》専属配送業者を取り仕切るアンナは、部下に指示を出しながら考えていた。
(最近の仕入れ品偏ってないか?)
アンナは品物管理リストを眺めながら大きく息を吐く。
(どうせ、あの人が変なことやってるんだろうけど……)
アンナの言う「あの人」とは夜一のことである。
アンナの雇主は《ジャンク・ブティコ》の経営者――セルシアなのだが、勧誘という名の引き抜きを行ったのは夜一である。
それ為、アンナの認識では夜一が直属の上司ということになっていた。
「アンナさーん。この牛の乳はどこに運べば?」
「それは学院店に配送する分だ! って、おい! それは王城前の分だ。ちゃんと書いてあるだろ!」
「でも、牛の乳の殆どは学院に送るじゃないですか」
現在、各店舗で集計されたデータにより、必要な品物だけを重点的に補充するようになっていた。
学院店のアイスの消費量は異常で、毎日大量の牛乳を配送していた。
「卵は――」
「それも学院店だ!!」
アイスの材料イコール《ジャンク・ブティコ》王立学院店への配送物である。
少しだけ王城(前)店でもアイスの売上げがある。
アイスは高級品だ。
貴族たちの通う学院、そして王城(前)に出店している二店舗は、アイス(嗜好品)を購入する余裕のある人間がいることがわかる。
当然と言えば当然である。一方は貴族、もう一方は王族が主な客層である。
この二店舗の消費はある意味読みやすい。
しかし問題は他の店舗である。
「アンナさん。このポーションはどこのです?」
「ん? あぁ、それは……あっち?」
配送責任者であるアンナが自信が持てない訳。それは、市民層の発注の偏りが全くと言っていいほど読めないからに他ならなかった。
在庫の管理は確かにやりやすくなった。だが、同時に何かがおかしい気もする。
そんな思いの中、アンナたち配送業者は仕事をしていた。
* * *
《ジャンク・ブティコ》各店舗において、ある問題が発生していた。
「今日もポーション余ってるよ」
店員のひとりが呟く。
他の店員が同意の声を上げる。
「ここ最近ずっと余ってるよね」
王都極東店の店員たちは、上(経営陣)に報告を上げるか迷っていた。
王都は巨大な城壁に囲まれており、東西南北にそれぞれ出入りするための門が設けられていた。
東門のすぐ近く(目と鼻の先)に出店しているのが極東店である。
東門から伸びる街道を行くと、王国第二の都市エラトポリスがある。
エラトポリスを目指す行商人で賑わう地域である。
「そもそも何でポーションがこんなにあるんだ?」
バックヤードに箱積みされたポーションが置いてある。
《ジャンク・ブティコ》は現代日本のコンビニ同様バックヤードは狭い。コンパクトといった方がいいだろう。
店内の空間を広くするため、バックヤードはコンパクトな作りになっている。
その日のうちに多くの商品は入れ替える。そのため、在庫を店舗では抱えない。
そのためのPOSシステムである。効率よく地域のニーズを把握し商品に活かす。
そのはずだった……。
実際には、ポーションの在庫を抱えてしまっているのだ。
店員がバックヤードでポーションを入れた箱に何度足を取られた事か。
危うくこけるところ、なんていうのはざら。大切な商品を傷つけてしまいそうな時もあった。
似たような問題は各店舗でも見られた。
とある店舗では食品の在庫を抱えた。また、別の店舗では日用品の在庫を抱えた。
これまでも在庫は存在した。だが、これまではばらつきがあった。
しかし、現在起こっている在庫問題は少し違う。偏りが生じているのだ。
各店舗が、上(経営陣)に報告を上げた頃には、すでに目に見える形で収益に影響が出た後だった。
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