情報を求めて(販売時点情報管理)①

 夜一発案の家電開発プロジェクトの頓挫に伴い、《ジャンク・ブティコ》は新たなプロジェクトを発足させた。

 情報収集、管理に関することだ。


《ジャンク・ブティコ》は、以前に犯した失敗を繰り返さないためにあるシステムを導入した。


 情報は商人にとって死活問題と成り得る

 誤った情報を掴まされて経営が傾きかけたことがあった。

 その二の舞を演じないよう、情報収集には気を遣っている。

 しかし、冒険者たちに依頼した市場調査には、やはり偏りが少なからず生まれる。

 そこで、自分たちで出来うる範囲で調査を行うことになった訳だ。


 これまで《ジャンク・ブティコ》各店舗では、どの商品がどれだけの数売れたかという記録しかしてこなかった。

 もちろん、販売数は大切なデータだ。だが、それだけでは不十分だと言える。


 価格、数量、日時、年齢etc.……、そうした様々な情報を単品単位で集約して最も効率的な店舗経営を行う必要がある。

 無駄をなくすのだ。

 売れない品物を発注することを防ぐことが出来る上に、在庫管理にも役立てることができる。


 配送を一手に担うアンナも、事業の拡大に伴って仕事が増えているようだ。

「だんだん前の職場と変わらない労働環境になってきた」と時折零している、と人づてに聞いた。

 彼女に仕事をボイコットされたり、辞めたりされた日には流通機能が麻痺してしまう。

 なので職場の労働環境の改善は急務である。


 この事業改善は現代日本のいたるところで行われている。

 その最たる場所がコンビニである。

 POSシステムといモノを聞いたことはないだろうか。――「Point of Sales」の略称である。


《ジャンク・ブティコ》は夜一がコンビニを参考に事業展開を行っている。

 その為、この管理システムは《ジャンク・ブティコ》と相性がいいはずだ。

 だが問題が一つ。

 コンビニであればレジに備え付けられた機器にデータを打ち込めばいい。だが、この異世界ではそうはいかない。

 機械という概念があるのかすら危ういという世界である。

 計算機は算盤のような原始的道具を使う世界。そんな世界で大量のデータを瞬時に記憶、管理することなどできるのだろうか。


 この夜一の不安はセルシアの一言で解消される。


「記録するための魔法もありますよ」


 本当に魔法とは便利なモノである。

 もしかしたら電子機器の代わりに、魔法という現象がこの世界で発達したのかもしれない。

 そう思わせるほどに魔法は、電子機器の代わりを充分過ぎるほどに務めていた。


 しかし、夜一は電子機器――現代文明の利器を諦めない。

 必ず実現させてみせる、と心に誓う。


 決して、自分が魔法を使えないから、などという理由からではない。断じて違う。

 大切なことなので繰り返しておく……。

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